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010.街の外で03

「ささみとタマネギのマリネにキャベツとつみれのスープ、鶏肉の香草焼きとたっぷりキノコと茄子のラザーニャをお願いします!」

カイリの案内した食堂、丸ごと鳥の魅力亭に元気な声が通る。

「ちょっ……サフィさん……?頼み過ぎでは?」

(あき)れた顔をして、カイリが突っ込みを入れた。

「そんなことないわよ。マリネでの疲労回復に、スープで水分補給。香草焼きとラザーニャでタンパク質と炭水化物を摂る。それに、せっかく成長期の体なんだから、大きくなりたいじゃない……」

もっともらしい理屈を並べ、カイリからの言及を煙に巻く。胸に手を当て、誰にも聞こえないような声で付け足された最後の一言は、きっと身長に関してなのだろう。

「すみません、ぼくの方は鶏油香るチキンステーキのセットでお願いします。」

もともと本気で(とが)める気はなかったため、呆れるような表情を切り替えて、カイリも自身の注文を通した。


丁寧に辛みを抜いたタマネギと、瑞々しさを損なわないよう丁寧に加熱したささみ。鶏のうま味をじっくりと煮出したスープに、食感が楽しいつみれとキャベツ。香草の香りと鶏の香ばしさの合わせ技が食欲をそそり、野菜の甘みと風味があふれ出るラザニア。鶏油でジューシーに焼き上げられたチキンステーキは蒸し野菜できれいに彩られている。

目の前に次々と現れる豪華な食事に、サフィの耳と尻尾はふわふわと揺れ続けている。カイリの「いただきます」の合図からそれほどの時を要せず、眼前のテーブルに並ぶこれらの皿は等しく空になるのだった。


昼食を済ませた2人は、再び街の外へと向かった。午前とは違い、今度は草が生い茂る、草原ともいえる一帯だ。場所を変えた理由は単純で、「砂ぼこりでざらになるのはもうこりごり」というものだ。それは砂地でさんざん暴れまわった報いでもある。昼食のために街に戻る際、汗で湿った肌を始め、耳や尾が、巻き上げられた砂で悲惨な事態になっていたのだ。耳は感覚器官ということもあってか特に不快感が強かったらしく、サフィが一度シャワーを浴びるために組合(ギルド)に立ち寄りたいと進言したほどである。その流れで「午後は別の場所にしよう」と提案が続いたのは当然とも言えただろう。


ぱしん、ぱしんと、小気味よい音が周囲に通り、2つの輪郭が踊る。

サフィとカイリの2人は、お互いに(・・・・)身体強化を用いて打ち合いをしていた。

午前中に残された少ない時間で、サフィはおおよその力加減を掴んでいた。それこそ、好き勝手に飛び跳ねることができる程までにである。

さらに付け加えると、サフィに戦闘の経験はない。生前、運動が人よりできはしたが、あくまで普通の学生であり、そこに格闘技やら武術やらの特筆した経験は存在しなかった。

そんな彼女が現在、熟練のカイリと適切に打ち合えている。この習熟度の急激な上達は、獣人の本能(・・)によるものなのか、それともこの世界に定められたルール(・・・)によるものなのか、はたまたそれ以外の何かしらの要素(・・)によるものなのか。その如何(いかん)は不明だが、そういったものの助けに依る所があるのかもしれない。

そんなわけで、カイリも疑似的な(・・・・)身体強化を行い、獣人特有のしなやかなばねを()って、好き放題に跳ね回るゴム玉に相対していた。

カイリの身体強化は、先日魔獣と相対した時のように、空間を浮遊する精霊を身体(からだ)に宿すことで機能する。精霊を目視し、その空間を身体の一部でなぞる。必要なその手順さえ踏むことができれば──それこそ大量の精霊という条件と、それを収集するための時間がかかるが──能力(スキル)としての身体強化と遜色(そんしょく)ない、もしくはそれを超える力を発揮させることも可能だ。そして一定時間を経た精霊は、カイリの身体から離脱していくのだ。


縦横無尽に跳ね回るサフィが、その中心でどっしり構えるカイリに殴りかかる。現状カイリが宿す精霊の量が少ないため、単純な力関係ではサフィに軍配が上がる。が、そこは実践経験とスキルの差。その瞳でサフィの攻撃の軌道を正確に捉えたカイリは、グローブをした自分の(てのひら)でその拳を受ける。再び、周囲に小気味よい音が響く。拳を当てたサフィはそのまま宙で一回転して飛び去り、次の攻撃の体勢を整え再び攻勢を仕掛ける。時折りカイリの身体から精霊が離脱するも、すぐさまそれを認識して、無理のない動作で(くう)を撫で迎撃の体制に戻る、といった場面も見受けられた。

サフィの攻撃は拳だけでなく、蹴りなどを織り交ぜる多様さがあった。見失ったかと思うと、空からかかと落としが文字通り(・・・・)降ってくるなんてこともあったし、またある時は、背後からスライディングを仕掛けてくることもあった。突っ込んできたサフィをカイリが跳んで(かわ)した瞬間、それを追尾して跳ね上がってきた姿を目にしたときは「うそぉ……」という音が漏れたのは忘れられない。なんとか向かってくる拳を受け止め、弾くことで射線を分かつことに成功したものの、今日一番で肝が冷えた場面なのは間違いないだろう。

そんなこんなで、サフィとの模擬戦はカイリにとってもなかなか楽しい時間をとなったのだった。

また休憩の折には、サフィが能力の扱い方のコツや、戦闘するときのポイントなどについてカイリからアドバイスをもらうなど、そんな風にして2人の()(ごと)は陽が傾き始めるまで延々と続いた。


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