続·影剥がし
「困るんだよねぇ、カキツバタちゃん」
デスクに座る男が振り返り、女を見る。
カキツバタと呼ばれた女は舌打ちで答えた。
「動画なんて知らない、花飯獅子座の影は見つけた」
「全然解決してないよ、影剥がし」
男が椅子から立ち上がり、ほら、といって動画サイトを見せる。そこには
影剥がしやってみた、
影剥がしチャレンジ、
影剥がしてみた、等々多くの動画が表示されている。
「花飯君の動画が話題になっちゃったんだよね」
影がないと花飯が絶叫し泡をふいて倒れたあと、動画時間が終了した。問題の動画は削除されているが、どういうわけか録画していた人がいたようで、一部の掲示板などで話題となっていた。
「花飯獅子座が生きていたのにオカルトになるのか」
「花飯君ねぇ、あれはパニックになっただけだっていう動画もあげてくれたんだけどさぁ」
話題となった動画で、意見が別れたのだ。影があるという人と、ないという人で。花飯が生きていたとか何を言ったかはすでに関係ない。その目で影剥がしをみたと言う人が言うのだ、あれは「怪異」であると。
「いつもみたいにパッパと適当に解決しちゃってよ、ちゃちなルールを増やすとかさ」
「準備でまず、現金を一千万用意し、部屋の四隅に二百五十万ずつおく」
「いいねぇ!ほとんどの子供が不可能になるねぇ!!」
「実際やったとしても鼻につくし、好感度は地に落ちるだろうな」
「最高、はい、解決。はい、広めよう」
無理だよ、カキツバタはそう言って頭を抱えた。
「人は規則が緩むことは歓迎するが、ルールが厳しくなることは受け入れない。特に自分が除外されるものは殊更嫌うものだ」
面白い、好都合、そういうものは受け入れるが。
「じゃあ、どうするよ。影隠しの解決法を追加する?」
「具体的な存在がないんだ、影隠しをやらないことが一番いい方法としか思えない。影がなくなるデメリットも漠然としすぎていて万人を納得させられるものというと難しい」
「カキツバタちゃん、やる気ないなぁ」
「あるさ」
カキツバタは肩をすくめた。
「ただ、私はいつも膨らみすぎた風船を爆ぜるだけの役割が多かった。風船を膨らませるのは得意じゃない。おっさんはなんとかできないのか」
「おっさんを頼られても困るなぁ」
カキツバタとそう歳は離れていないように見えるが、おっさんと呼ばれ、自称する男はお手上げのポーズをとる。
「どうしたものか」
「どうしようかねぇ」
二人は無言でパソコンを見つめる。
「厄介だな」
「だから僕らの仕事になるんでしょ」
おっさんは見せつけるようにため息をつく。
「危険性は?」
「そうねぇ、動画だと8割インチキというか、加工だからねぇ」
おっさんはキーボードを叩き、いくつかの画面を表示する。
「いくつかの動画は何となく不穏な気配があるけど、まあ、パニックで落ち着いているかな。要するにさ」
「実害もないし、実益もないからだな」
「影がなくなることの意味が弱いからね」
「怪異が追いついていないのか」
「正直、地味だからね。動画もそこまで伸びているのはないかな。手軽だから試してみる、くらいでこのまま下火になる可能性もあるかなぁ、希望的観測だけど。…解決はしていないけど」
流行りそうで流行らなかったそういうものは往々にしてある。カキツバタ達が把握している限りだと、お手軽、誰でも、そして、危険すぎず面白いもの、か、危険すぎておもしろいものが流行る傾向にある。
「つまらないんだよねぇ、影剥がしは」
「妥当な落とし所だろう」
「それでいくしかないなぁ、結局僕がやるわけね…でも、不思議だよねぇ」
「貶められれば反応があるかもな」
今世紀最大のホラー
日本が世界に贈る最高の「恐怖」
ホラーでは考えられない、感動そして衝撃の結末を見逃すな。上映時間は驚異の444分。
デビュー作にして遺作、原作者 影山 闇ピコ
【影剥がし】
全てはすでに始まっていた。
愛と友情と勇気と正義と家族と絶望と動物の物語。
関係者コメント
「すごい映画だと思います。後にも先にもこんな映画知りません」
「映像に驚きました、CGの宇宙船がハリウッド並でした。ビームも迫力ありましたね」
「飼っていた犬を思い出しました、泣きました」
「猫が可愛い。登場するのも人間より猫の方が多いところがよかった」
「この映画に出会えたおかげで人生が変わりました」
「ほとんど編集していません」
「撮影中はみんな和気あいあいとしていました。撮影が終わったので新しい仕事を探します」
【影剥がし】
来年春、公開予定。
ねぇ、知っている?
影剥がしって、あったでしょ、あれね、『案件』だったらしいよ。そう、今度やるらしい映画の。
ね、がっかりだよね。
え?映画?見に行くわけないじゃん。お金払ってまで見たいものじゃないし。
それよりね、面白い話があるの。
友達の友達の話なんだけどね…