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9/13

……別にいいでしょ。知らないならさ。

私たちはあれから何事もなかったかのように授業を受けた。

本当はその場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


大翔のことを自分から見捨てたつもりだった。

だけど敗北したという事実だけがただただ私に重くのしかかる。


教師の言葉が右から左へと流されていく。

ぼんやりと窓の外を眺めていたらいつの間にか空はオレンジ色に染まっていた。

キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り響いた。


いつの間にか、帰宅時間になっていた。

私はそそくさと荷物をまとめ、机の中にしまい込んだ。こんなに気分が重いんだ、あまり荷物を背負い込みたくないし早く帰りたい。


私は鞄を持ち上げた。空になったはずなのに、それでも鉛が入っているかのように重く感じる。

ゆっくりと足を動かして扉の前に立つ。教室を後にしようと扉に手をかけた。


「おやおやぁ、案外凹んでるんだねぇ。マイマイって。」

背後から能天気な声が聞こえてきた。

私は声の主が誰かを察するも面倒だと思いつつ、振り返った。


窓から漏れる夕陽と同じような明るいオレンジ色の髪が目に入る。

長さは腰にかかるほどであり、毛先はくるりと飛び跳ねているかのように巻かれてふんわりとした雰囲気を出している。まるで周りにはお花畑が広がっているかのように甘い匂いが漂っている。

背は私よりも一回りだけ低く、視線をほんの少しだけ下に逸らすと目が合う。


彼女の名前は唯。高丘唯だ。

中学生の頃からの付き合いであり、あまり人付き合いの上手くない私にとっての数少ない友達の一人である。


彼女は私が花梨と大翔の取り合いをしていたことも知っている。

花梨と大翔が朝を起こしに行く関係になった時だって。私を支えてくれた。


彼女の明るくて気楽な声に救われていた。だけど今はその気楽さが鼻につく。

部外者なんだから関わってこないでほしい。私は威嚇するような思いを込めて言葉を口にする。


「……何?」

「ひぃ、怖いなぁ。……それにしてもマイマイさ、顔に出過ぎだって。」


彼女は私の威嚇を軽く受け流した。

少しだけ間を空けてから、ほんわかとした笑顔を浮かべて私の肩を叩く。


私は眉間に皺を寄せて彼女を睨みつける。

この何とも言えない気持ちに自分の中で決着をつけたい。その思いで胸がいっぱいだったからだ。

早くこの場から退散したい。


「……。」

「それにマイマイって引っ叩いたんでしょ、及川君のことを。」


私は思わず目を見開いた。あの場には私たち以外に誰も居なかったはずなのに。

どこからそんな話が広まったのか。大翔が罵倒したこと、花梨の涙、私たちの問題に他人が入ってきてほしくない。


「今ね、噂になってるんだよー。なんでそんなことになったのかまでは知らないけどね。」

「……別にいいでしょ。知らないならさ。」


私は彼女を突き放すかのように言葉を吐き出した。

だけど彼女はそんなことも気にせず、ニッコリとした笑みを浮かべる。


「まぁまぁ、そんな風に言わなくてもいいじゃん。冷たい言葉を言わなくてもさー。」

「他人には踏み入れてほしくない領域があると思うんだけど。」

「でも、私とマイマイは親友でしょー!!」


私は遠回しに触れてほしくないことを伝えようとするも彼女は理解しようとしない。

少しだけイラっとする。私は視線をわずかに逸らした。


「親しき中にも礼儀ありって言葉がある。」

「……それはそうだけどさー。」


彼女はそんな私の言葉に気にする様子はない。

彼女は私と視線を合わせようと逸らした方へ足を運ぶ。


「マイマイが引っ叩いて振ったみたいなのに落ち込むって気になるしさー。」

彼女の悪気がない真っ直ぐな興味が私の神経を逆撫でする。


「……っ。唯には関係のないことだから。」

私は息を吸い込む。そして彼女にも伝わるように、冷たく言葉を口にした。


彼女はその言葉を聞いてわずかに頬を膨らませる。

ムスっとした表情を浮かべて、私を睨みつけるように見つめた。


「そんな言い方しなくてもいいんじゃないのー。」

口調は穏やかだが納得いかない様子である。


「聞かれたくないことを聞いてきたそっちが悪いから。」

私は彼女に謝ることもせず、言葉を切り返した。


彼女が無神経に関係を探ろうとしてきたからだ。

私は悪くない。それよりも今は負けヒロインとなった現状に対する気持ちの整理が重要だ。


彼女は私の言葉を聞いて、何かを察したようだ。

「あーあー、マイマイってばいつもそうなんだから。」


溜息をつく。呆れたように気の抜けた返事をした。

彼女は私からわずかに距離をとり一歩後ろへと下がった。


「わかったよー。今は聞かないからさー。」

彼女は心配していることを隠すかのようにのほほんとした声を出した。


そして優しそうに微笑む。


「でも、相談したかったらいつでもいいからねー。」

彼女は私に向かって小さく手を振った。


相談なんてできるわけがない。

花梨は私のライバルであり、自信満々のお姫様のような存在だ。

そんな彼女が弱っていることを知ったらどこかから情報が漏れて変な男が寄ってくるかもしれない。


それに今抱えているこの気持ちに整理をつけないと。

花梨には悪いけど今日は先に帰ろう。


私は彼女に応えるように手を振り返して、教室の扉を勢いよく閉めるのであった。

投稿遅くなってすみません。


下記の作品も執筆中ですのでよければポテトとご一緒に感覚で見てもらえると嬉しいです。

え、煽るだけで負けちゃうなんてざっこぉ♡よわよわ♡ざーこぉ♡ざーこぉ♡

https://ncode.syosetu.com/n2915hn/

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