誤解されたままは嫌。
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「……、……っ!!……気を使わなくていいって言ったじゃない。」
花梨はしばらく口をつぐむ。
ゆっくりと右手を振りかざした。花梨はグッと気持ちを抑えつけたのか右手を下ろす。
花梨は瞳から光を失った。真っ暗な瞳で私のことを寂しそうに見つめる。
チクりと私の胸が痛む。
「気を使ってるわけじゃなくて本当だから。」
私は即座に言葉を吐き出した。
誤解を解きたいだけなのに、上手く言葉が見当たらない。
「大丈夫、大丈夫よ。」
花梨は寂しそうに笑った。まるで大丈夫という言葉を自分自身に言い聞かせるかのように。
「……っ。」
私は唇を噛みしめる。
花梨に何か言いたくてもかける言葉が見つからない私はもどかしくなって花梨の手を掴む。
「ちょ、ちょっと!いきなり何よ!!」
花梨は目を丸くする。いきなり腕を掴まれたことに動揺したのか、大きな声をあげた。
「言葉で伝わらないから。」
私は彼女の声を静止するようにジッと花梨を睨みつけた。
そして小さな声で呟いた、花梨はきっと聞こえていなかったのだろうか口をポカーンと開けていた。
家に帰るもそこに大翔は居なかった。
溜息をつく。私は花梨の手を離し、深く落ち込んだ。
あーあ、直接口から聞けば納得できるだろうと思ったんだけど……。
落胆している私を見て、花梨は切れる息を整える。
「……で、どうするわけ。」
少し早足で歩いたからか花梨の顔は赤く染まっていた。
「大翔に説明してもらう。私だって大翔が来た理由よくわかってないから。」
隠すことはない。少しでも花梨に誠意を伝えるなら本当のことを伝えるべきだ。
私はなんとか誤解を解こうと、花梨の方を向いて答えた。
「ふんっ、ならさっさと行きましょ。あんたの言葉を裏付けるためにも。」
花梨は拗ねているのか、髪の毛をくるくると指先に巻き付ける。
視線を私から自身の指先へ逸らした。
「……うん!」
私は花梨の手を再び掴んだ。
花梨の体がビクッと震えたような気がした。
「ちょ、ちょっと!?」
花梨は思わず声をあげる。私はちらりと花梨を見つめる。
ただただ驚いているか、困惑した表情を浮かべた。
「……私ね、花梨に誤解されたままは嫌。」
花梨の表情を見た私は胸が熱くなる。
キュッと締め付けられるような苦しさを感じた。
私はその痛みによって、抱えていた思いが喉から溢れだした。
花梨はきっとわかってないと思うから。
私の中で花梨が思っているよりも花梨の存在は大きいことを。
それを知ってほしい。こんな勘違いから失いたくない。
私は花梨の手を握りしめる力をさらに強くした。
花梨もそれに応えるように力を強めた。
「……ふんっ。そ、そんなこと言われたら信じるしかないじゃないの。」
花梨が小さな声でぼそりと囁いた。
私は花梨のそんな一言が嬉しくなる。走っているせいだろうか、胸の鼓動は速さを増していく。
なんとなくその鼓動を聞かれたくなくてさらに早足へと変わっていく。
「も、もういいから!!」
だんだんと学校に近づいてきた。
登校する生徒が増えてきた頃、花梨は大きな声を出す。
ブレーキをかけるように私の腕をグイっと引っ張った。
私はそのブレーキに従って足を止めた。
「ハァ……ハァ……。」
花梨は荒く息を吐き出した。
私の手を振りほどき、胸に手を当てて呼吸を整える。
「……ふぅ、どうしたの。」
私は振り向いて花梨の様子を確認した。
体力の限界というわけではなさそうだ。
一言、花梨に対して呼びかけた。
「そ、そろそろ学校も近いじゃない。ずっと手を繋いでいたら恥ずかしいじゃないの!」
花梨は顔を赤らめて文句を言いだした。
ちらりと背後に視線を移す。周りに誰もいないことを確認し、花梨は再び私へ視線を映す。
目を釣りあげ、睨みつけるかのように私を見つめた。
人差し指を私の目の前に突き付ける。
「考えてなかった、ごめん。」
私は花梨に言われてハッとした。
確かに変な注目を浴びることになる。
花梨に迷惑をかけることになってしまう。
私は素直に配慮が足りていなかったことを謝罪した。
「ふんっ。な、何よ。そ、そんなに素直に謝られると困るじゃないの。」
花梨はぼそりと口にした。眉をひそめて、さらに目付きは鋭くなる。
「謝って怒られるのは心外なんだけど。」
花梨の言葉に対して私も言い返す。
ジッと花梨のことを見つめて睨み返した。
私たちはお互いに鼻を鳴らす。
そして反発する磁石のように顔を逸らした。
こんなくだらないことで喧嘩をするなんて。
私は少し後悔の念を覚えるも、それと同時に安心感を感じる。
元々花梨とはこんなくだらない喧嘩をよくしてきた。
だからだろう、謎の安心感を感じるのは。
「「……。」」
私たちは無言のまま、通学路を歩く。
2人並んで。お互い口を開くことはなく。
私たち2人の足取りはだんだんと学校に近づいてくる。
安心感はあるけど、謝ったほうがいいかもしれない。
もう私たちの仲裁をしてくれる大翔はいないのだから。
私は沈黙を破ろうと口を開く。
だが、先に沈黙を破ったのは花梨の方だった。
「ねぇ、あれって。」
花梨が何かを指さす。そこにいたのは大翔だった。
そしてその大翔の隣に並ぶのは、昨日私たちとぶつかった少女の姿だった。
私たちは改めて実感するのだった。
そう彼に選ばれたのは彼女であり、私たちは負けヒロインであることを。
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