……勘違いだから。
「少し話をしたいと思ってさ。」
大翔は昨日のことは何もなかったかのように爽やかな笑顔をむける。
私は反吐を吐きたくなるもグッとこらえた。
過度に反応しても仕方ないので私はそのまま椅子に腰かけることにした。
コップにトクトクと牛乳を注ぎ込む。
「で、話って何?」
私は母親が机の上に用意してくれたトーストをひとかじりする。
「……実は昨日のことには理由があってな。」
大翔は少しだけ息を吸い込んだ。ゆっくりと言葉を吐き出す。
私は眉をピクリと動かした。
花梨に謝るのが先じゃないのか、私は心の中で呟いた。
ふつふつと怒りがこみ上げてくるようだった。
私は加えていたパンを口から離した。皿の上にパンを置く。
「理由があったとしても許されることではないと思うけど。」
私は思っていたことを口に出した。
大翔は罰が悪そうに視線を逸らす。
「……そうかもしれないけど。守るためには仕方なかったんだ。」
大翔は訳の分からないことを言い出した。
「いったいどういうこと?」
あの罵倒が花梨を守ることになる?
それっていったいどういうことなんだろうか。私は仕方ないと思い話を聞くことにした。
私は改めて椅子に座り直す。
体の姿勢を前のめりにして話を聞こうと大翔の目を見た。
ガチャリと扉を開ける音がする。誰かが入ってきたのであろう。
私は母親が入ってきたと思うも少し様子がおかしい気がする。
ふと、背後を振り向くとそこには花梨が立っていた。
「迎えに来たわよ。……って、そういうことだったのね。ふんっ!!」
花梨はまだまだ眠たそうに元気がなく扉を開けた。
そして私たちの姿に気付き言葉を失う。ショックを隠しきれずに力なく言葉を言い放った後、鼻を大きく鳴らした。
目には涙を浮かべる。花梨は大きく顔を逸らすとそのまま走り去っていった。
当然の反応だ。
花梨目線から見たら、実は私たち2人が付き合ってて騙していたことになる。
私は花梨の誤解を解こうと立ち上がる。
「大翔、話は後で。」
「あぁ。」
大翔も同様に立ち上がった。
その時だった、大翔のスマホが鳴り響く。
「悪い、先に行っててくれ。」
大翔は着信を見ると少しだけ嫌な表情を浮かべた。
「わかった。」
私は簡単に了承する。花梨を追いかけるかのように部屋を飛び出した。
「なんだ、静か……。」
私はわずかにだが大翔が電話相手に対して、静という名を呼んだことに気付いたのであった。
私は急いで家を出た。
花梨はどこに向かったのだろうか、学校か。それとも……。
1つだけ心当たりがある。
近くにある河川敷だろうか。私は急ぎ足で花梨を追いかけた。
しばらく走ると目の前には、大きな川が見えてきた。
川の前には草木が生い茂り充分な緑を確保している。
アスファルトで舗装された地面が散歩コースには持ってこいと言わんばかりだ。
私は辺りを見渡すとそこには花梨の背中が見えた。
深呼吸をする。ハァハァと切らす息を整えようと大きく息を吸う。
吐いて、吸う。その繰り返しだ。
まだ心臓がバクバクとなっている。
私は恐る恐る花梨に声をかける。
「ねぇ、花梨。」
花梨は私の呼びかけに答えない。まだ私には花梨の隣に立つ資格はあるのかな。
ゆっくりと彼女の隣に立つ。
「何よ。」
「……勘違いだから。」
花梨はぶっきらぼうに囁く。私は改めて花梨を傷つけてしまったんだと思う。
あまり上手い言い訳は見つからず、一言だけ言葉を返す。
そして私は一歩足を踏み出して、花梨の目の前に立つ。
視線を逸らさずにジッと瞳を見つめる。冷たく、真っ暗な瞳を。
勘違いであることが花梨にちゃんと伝わるように。
「……、……何が。何が勘違いなのかちゃんと説明しなさい。話くらいなら聞いてあげるわ。」
花梨は私の瞳を見つめたままだんまりだ。
数秒経過した後、ゆっくりと口を開く。声を震わせて、花梨の目にはわずかに光を灯す。
私は何から話すべきであろうか。
単に大翔が家に押し掛けてきただけなのだが、それでは花梨の信頼を勝ち取ることにはならない。
それに気になることがある。
大翔が暴言を吐くことが花梨のためになる?
メンタルトレーニングをしているわけではないのに。
いったいどういうことなのか、話はまだ聞けていない。
だけど、今必要なのは花梨の誤解を解くことだ。
私はゴクリと生唾を飲み込む。手に汗を握りしめる。
何もやましいことはないはずなのになんでこんなに緊張をしているのだろうか。
私はゆっくりと口を開いた。
まずは私がもう大翔には興味がないということをしっかりと伝えないといけない。
大きく息を吸い込み再度深呼吸をする。
そして大声で叫ぶのであった。
「私は、大翔のこと、全然好きじゃないっ!!」
しまった。私は言葉にしてから気付く。
これじゃまるで照れ隠しをしているように捉えられてしまうかもしれない。
だらだらと冷汗が止まらない。お腹もだんだん痛くなってきたかもしれない。
視線をぐるぐると回す。頭の中がだんだんと真っ白に染まっていく。
とりあえず花梨の反応を伺おう。そう思った私は覚悟を決めて花梨を見つめるのであった。
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