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なんで、私の名前を呼び直したの?

「……な、何よ。素直になったらって言い出したのはあんたじゃないの。」

花梨は不満げに呟いた。頬を膨らませてジーっと私を見つめる。


「それはそうだけど。驚いただけ、私の言葉を素直に受け取ったことに。」

出来るだけ淡々と私は言葉を言い放つ。

私はやれやれとも言わんばかりの表情を浮かべる。出来るだけ表情を出さないようにとまぶたを閉じた。

花梨に"好き"って言われるかもしれない、そう考えていたことを悟られたくはない。


「ふんっ。それだけじゃないわよ、アタシが素直になれないから嫌われるのなら治しておきたいと思っただけよ。」

花梨は私の言葉を聞いて、小さく鼻を鳴らした。そして勢いよく顔を背ける。

私はゆっくりとまぶたをあけると視界には花梨の横顔が映る、頬はほんのりと林檎のような赤みを残している。


「…………。」

少しだけ沈黙が訪れた。

花梨の瞳は寂しそうに遠くを見つめている。

まだ大翔に対する想いが残っているのか、小さくため息をついた。


私は花梨を助けた、いや助けることができたと思い込んでいた。

だけどまだ花梨の中には大翔の暴言が心の中に残っている、それを克服しようとしているのだ。


だったら私は花梨の背中を押してあげよう。前向きな花梨の傍に居て支えてあげないと。

私は頭の中で考えを巡らせる。下唇を噛んだ、私が考えるときの癖だ。

下唇を噛むことによって集中することができる。


再び沈黙が訪れる。

花梨はちらりと横目で舞のことをジッと見つめた。


舞はその様子に気付くことはない。

花梨は舞の姿を見つめたまま、指先に巻き付けた髪の毛を解放した。

そして、何かを決心したのか手を後ろに回してこっそりと拳を強く握りしめた。


「……それにまだあんたにお礼言えてないし。」

花梨は舞に気付かれないようにぼそりと囁いた。

目線を逸らして、さらに頬を赤く染め上げる。


「何か言った?」

考えがまとまった私は花梨の様子がおかしいことに気付いた。

大翔への気持ちを思い浮かべていた、それとも何か面白いことを言ったつもりだったけど私の反応がなくて滑ったことを恥ずかしがっているのだろうか。

花梨の頬は赤かった。


「別になんでもないわよ。」

花梨は素っ気なく私に言葉を返した。

先程まで顔を赤く染めて恥ずかしそうにしていたことを隠すように。


まさか、本当にギャグを言って滑ったのかな。

だとしたらもう触れない方が良さそうだ、私は心の中に留める。


「 と こ ろ で 。」

花梨はよっぽどさっきの滑った出来事を忘れてほしいのか、一歩、一歩、威圧するような気迫を持って歩み寄る。

花梨の迫力に押し負けて、私は一歩、一歩と壁に追いやられる。


ドンっという音とともに花梨の両手は壁を突く。

私は花梨に逃げ場を奪われた。すっぽりと花梨の腕の中に納まる。


「協力してくれるの、してくれないの。」

花梨は私の目を見つめる。瞳は真っすぐと私を捉えて、真剣そのもの。視線を逸らそうにも圧が強い。

ゴクリと、私は生唾を飲み込んだ。


「する。するに決まってるって。」

私は協力することを約束し、視線を逸らした。


いくら同性だからと言って、壁ドンならぬ両手ドンは本当に可愛かった。

心臓の鼓動ドンドンドンと壁を殴りつけるかのように早くなる。


「もういい?協力はするから、腕避けてくれない?」

私は何事もなかったかのように言葉を紡いで口に出す。

花梨は私の言葉によって気付いたのか慌てて腕を避ける。


「ふんっ。あんたが……、いや舞がちゃんと避けたらよかっただけでしょ。」

花梨は鼻を鳴らして不満げな表情を浮かべた。

いつも通り私のことを非難するような言葉を述べようとするも、少しだけ間が空いた。

花梨はあんたという呼称ではなく、私の名前をしっかりと呼び直し非難した。


「なんで、私の名前を呼び直したの?」

私は疑問に思ったことを口に出す。

花梨はその言葉を聞いて苦虫を噛み潰したような渋い顔をした。


「察しなさいよ。あんたがショックを受けると思って取り消そうと思ったの。」

花梨の言葉に耳を傾ける。少しだけ花梨が過敏になりすぎているかもしれない、私はそう思った。

私は胸の中に靄がかかるも、花梨は淡々と理由を話す。


「だけど、あんたはこれくらいじゃショックをうけない。そう思ったから取り消すのを止めて仕方なく名前を呼ぶだけにしたの。それだけよ。」

花梨は私の目をしっかりと見つめた。理由を話し終えると廊下を歩き始める。


私は歩き出した花梨の背中を見つめた。

胸がキュッと締め付けられるかのように苦しくなる。


私は花梨に信頼されているんだと実感する。

心の中に発生した靄は太陽の光を浴びて晴れていく。


「何してるの、帰る方向どうせ一緒なんだから一緒に帰るわよ。」

遠くから私を呼ぶ花梨の声が聞こえてくる。


私は改めてまとまった考えを思い出す。

花梨のことを守ってくれる人が現れるまでだったら、花梨の隣に立っていてもいいよね。


私は再び考えを胸にしまい込んだ。そして早足で歩き始める。


「今行くから。待って、花梨。」

私は階段前で待っている花梨の隣に立つ。

2人揃うと足を揃えて一歩、また一歩と再び歩き始めるのであった。

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