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……す、す、す!!

「……。」

なんて言葉をかけたらいいのだろうか。私はかける言葉が見当たらなくて俯いた。

頭の中で試行錯誤する、どうしたら花梨の曇った顔を輝かせることができるのだろうか。


私は決意を固める。花梨のことを元気づけようと拳を握りしめた。

私はふと顔を上げて口を開こうとする。

だが、私の口は開く前に花梨の指によって止められた。

花梨の柔らかい指先が私の唇を塞ぐように押し当てられる。


「んっ……。」

私は声にもならない声を放つ。

ドクンと心臓の鼓動が聞こえた。急に唇を触られて驚いたのだろう。


「いいわよ、慰めの言葉なんて。あんたが言うことは悔しいけど正しいもの。」

花梨は優しく微笑んだ。いつものような明るくて元気な姿は見られない。

だけど、声のトーンに落ち込んでいる様子はなく落ち着いていた。


「そう、良かった。……案外冷静で。」

いつもと違う花梨の様子に私は冷静ではいられなかった。

高鳴る胸の鼓動を抑えようと胸に手を当てた。ドクン、ドクンと音がする。

私はそっと胸から手を離す。これ以上気にしてもしょうがない。

意識をしすぎるのはまるで花梨に恋をしているような感じがして、悔しさを感じる


「ふんっ。当然でしょ、……アタシを誰だと思ってるのよ。」

花梨は鼻で私のことを笑う。口元を釣りあげてにっこりとした笑みを浮かべるも少しだけ間があった。


「花梨様、……って言えば満足?」

私は即座に返答した。だけど花梨は腕を組み、何やら考え事をしていた。

私の言葉には答えず、まぶたを閉じてうんうんと唸っている。


「大丈夫?」

私は花梨の返答がないことに我慢できずに声をかけた。


「大丈夫よ、少し考え事をしていただけだから。……ところで、お願いがあるんだけど。」

花梨は何かを決めたのか、ゆっくりとまぶたを開く。

無意識なのか上目遣いで私のことを見つめ、弱々しく"お願いがある"と言葉を言い放った。


「何?」

私は珍しいと思った。今までライバル関係であったためか、花梨から何かを頼まれた記憶はない。

せっかくの機会だ。簡単な頼み事なら聞いてもいいかもしれない。私はそう思うものの素っ気なく言葉を返した。


「……そ、その……。」

花梨は私の素っ気ない返事に怖気づいたのか言い淀んだ。目をうるうると涙を溜め込む。

私は小動物のように怯える花梨の姿を見てカチッとスイッチが入った音がした。


「いつもは自信満々のくせに、どうしたの。さっさと言ったら?」

私はついつい言葉が弾む。喧嘩腰で、花梨を煽るような言葉を並べる。

弱々しい花梨をいじめたくなってしまった。私は頬を緩ませて、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「……っ。本当に呆れた、あんたってば昔からまったく変わらないのね。」

花梨は私の表情に気付いたのか小さくため息を吐いた。

力なく笑って腕を組むことを止めた。そのまま壁にもたれかかるように体重をかけ力を抜く。


「あんたってば昔からアタシが弱いところを見せるとすぐそうやってニヤニヤして……。いじめようってしてくるんだから、ホントに変わらないわね。でもだからこそ、あんたにはお願いしないとね。」

花梨は過去を思い出すかのように宙を見上げた。

先程までオドオドとしていた様子は嘘だったかのように、少しだけ明るさを取り戻したかのような、それでいて呆れたようにやれやれと言った表情を浮かべるような笑顔だった。


「……だから何?」

私は思わず息を飲む。

花梨の今の笑顔、大翔の前でしか見たことなかったな。そんな笑顔を向けて私に頼むことっていったい……。

ゴクリと生唾を飲み込む。緊張して手に汗が滲む。


「……アタシね、……す、す、す!!」

す、す、す、と花梨はすという言葉を繰り返す。まるで鳴き声のように。

す、の後に続く言葉はなんだろうか。私は思考を巡らせる。


頼みたいことで、す、という言葉に続くもの。

食べ物ではないし、飲み物でもない。


まさか、すき、って告白をしてくるんじゃないだろうか。

私は思わず身構える。


確かに世の中には女の子同士の恋愛もあるけど……。

私は大翔が好き、だった。私と花梨が喧嘩していたら割って間に入ってくれて。

花梨にも優しく接していた大翔が好きだった。


だから、告白されたらどうやって断ろうか。

す、す、鳴いている花梨を見つめる。


綺麗なツインテールの髪の毛をくるくると指に巻き付けている。

花梨は目を閉じて、すぼんだ唇をアヒルのように尖らせてとてもセクシー。

おっぱいもたぷんと大きく揺れている。

私にはない魅力を備えている。


なんで振られてしまったのだろうか。私の中で疑問が残る。

こんなにも花梨は魅力的なのに。


だけど私は女の子だし、花梨を守ってあげる立場にはなれないんだ。

昔から変なスイッチが入るときがたまにある。花梨を傷つけてしまっては元も子もない。


私は新たに決心を固めた。

花梨、いつでもいいよ。私が全てを受け止めて傷つけることなく振ってあげるから。


花梨も決心がついたのか大きく深呼吸をした。

花梨の呼吸の音が聞こえた。そして勢いよく大声でお願いを叫ぶ。


「素直になりたいの!だからお願い、アタシが素直になれるように練習、付き合ってほしいの!!」

予想外のお願いに目が点となる。口をポカーンと開けて理解するのに数秒かかったのは言うまでもなかった。

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