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あんただったからよかったのに……っ!!

なんて声をかけたらいいのだろうか。

私が花梨のことを傷つけてしまったのは明白だ。


大翔に選ばれなかったことに動揺をして。

既に何とも思っていない花梨の強さに嫉妬をして。


……傷つけてしまった。

私は取り返しのつかないことをしたと思い目を閉じる。

そして、深呼吸をするようにため息をついた。


本当のことを話すべきだろうか。

だけど本当のことを伝えて花梨に失望されたらどうしよう。


私は思わず視線をそらす。


「なんで何も言わないのよ……。」

花梨の元気のない声が聞こえてくる。


「だ、だから怒ってないって。」

花梨の声に反応して私は慌てて言葉を放つ。


「じゃあ、なんで無視をしたりしたのよ。」

「……そ、それは。」

言えない。言いたくない。

私は花梨に見えないように拳を握りしめた。


「あ、汗をかいてたから。」

ゴクリと生唾を飲み込む。

先程握りしめた拳を突き出して拡げる。


「何よ、そんなこと。」

花梨は何事もなかったかのように手を掴む。


「全然、そんなこと気にしないわよ。」

花梨はしっかりと私の手を握りしめる。

そして、少しだけ晴れたかのような笑みを浮かべた。


「なっ!!」

私の胸はドキっと鳴り響いた。顔が段々と熱くなっていく。


いきなりだったから。びっくりしただけで。

照れているわけではない。自分にそう言い聞かせるように心の中で呟く。


「……きゅ、急に握ってきて何。」

小さく深呼吸をしてから言葉を口に出す。

声が裏がってないだろうか、不安が残る。

……だけど手を握ったままは心によくない。


私は意を決して、花梨の手を振りほどく。

そして心の中を悟られないようにしっかりとした拒絶を示すかのように手を跳ね除けた。

顔を見られないように背を向ける。


「……勘違いされるから。女の子同士で手を握るなんて。」

耳が熱い。心臓が高く鳴り響く。

まるで外に音が漏れているのではないかと錯覚してしまう。

私は少しでも音を抑えようとして手を胸へと抑えつけた。


ただでさえ大翔の件があって傷ついている。

そんな中私との変な噂がたったら花梨に申し訳ない。


「そ、そんなの……!!」

花梨の声が詰まる。

そして小さく深呼吸をする音が聞こえてくる。


「……べ、別に気にしないわよ。」

弱弱しい花梨の声が聞こえてきた。


私はその声を聞いて花梨の方へと振り返った。

夕焼けのせいか、ほんのりと花梨の頬は真っ赤に染まっていたような気がする。

長いツインテールの髪先を指に巻き付けていた。


恐らく自分から手を握りしめたことが恥ずかしくなってきたんだろう。

自信満々でプライドの高い花梨のことだ。

自分から手を握りしめてしまった手前、引くことができなくなっているのだろう。


それなら私から引かないと!!

私と手を握っていることが周りに目撃されてしまったら変な噂がたってしまうかもしれない。

そうなってしまったら、花梨を守ってくれる人との出会いを失ってしまうかもしれない。

その事態は避けたい。


私はゆっくりと口を開く。

少しでも花梨を突き放さないといけない。


「私が気にする。」

できるだけ感情を込めずに言った。

器用でもないし、演技が得意でもない私にとっての精一杯。


中途半端だと花梨のためにはならない。

私は追い打ちをかけようとさらに口を開いた。


「……変な噂が立つと思うし。女同士なのに手を握ってるとか。」

大翔のことを思い出すような言葉は安易に口に出せない。

他に出会いがあるかもしれないという言葉も、大翔に傷つけられた傷を思い出すかもしれないし。


「……。」

花梨の息を飲む音がする。


「勘違いされて出会いとか潰したら。」

「……もういい。」

私の声を遮るかのように、花梨の震えた声が響く。

気が付くとそこには花梨の背中が見えた。


「花梨……?」

嫌な予感がした。

私は恐る恐る花梨へと声をかける。

花梨の背中がわなわなと震えた。


「もういいって言ってるの。」

大きな声が響く。

私はそんな花梨をどうしたらいいのかわからずジッと見つめることしか出来なかった。


花梨は大きく息を吸い込み、そして吐き出した。

「下手に言い訳なんてしなくていいっての。」

弱々しい。だけど言葉の節々にはトゲを感じる物言いだ。


「……気を使ってなんて。」

私は自身の考えがばれているかもしれない。

そう思うとヒヤリとした。すーっと汗が垂れるのがわかる。


「使ってるじゃない。失恋したばかりのアタシに対して出会いなんて……。」

目を見てなくてもわかる。

私に対して怒っていることが。私は気が付かないうちに地雷を踏んでしまったのではないか。


「あ、アタシは……。」

花梨の肩が震える。私は花梨の言葉を待つことしか出来ない。

これ以上花梨を傷つけてしまってはライバルとしても隣に立つことはできない。


私は大きく息を吸い込んだ。

花梨から何を言われようとも受け入れよう。もしかしたら罵倒されるかもしれない。

私は拳をギュッと強く握りしめた。


「あんただったからよかったのに……っ!!」

花梨はそう一言を残し、勢いよく駆け出した。


私は想定外の言葉に脳がフリーズした。

待って!!そんな言葉すらもかける暇なく。

気が付いたときには、そこにいなかった。


一体どういう意味で花梨が言葉を口にしたのか。

私の頭には謎が残ったままだった。

次回更新もまったりになると思います。

自分のペースで投稿はしていく予定です。

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