9.古代魔術師、ガラの悪い冒険者に決闘を挑まれる
本日、二度目の更新です!
まだの方はご注意を・・・!
クエストを受注するために、受付に向かったアリス。
しかし数分後、彼女はあっさりと帰ってきた。彼女のトレードマークであるツインテールも、心なしか力なく垂れ下がっているように見えた。
「どうしたんだアリス?」
「それが……。ランク外の魔術師を師として、師弟関係を結ぶことなんて認められないと言われました――」
「いや、まあ……。当たり前だと思うぞ?」
ドラゴンの住むという赤熱の洞窟は、ギルドにより封鎖されている。許可のない冒険者は、立ち入りを固く禁止されている。
これで俺がドラゴン退治に同行することは、不可能になった。
(しょんぼりしてるアリスには悪いけど、このまま諦めてくれないかな……?)
アリスのそれは、きっとひとときの気の迷いだ。長期的に見れば、ギルドで高い評価をされている人間の弟子となった方が、より良い将来に繋がるはずだ。
「う~。冷静に考えれば、別にクエストを受注する必要もないんですよね。オリオンさんと一緒に、ドラゴンのもとにたどり着けさえすれば――」
「おい……?」
なんだか不穏な発言が聞こえてきた。
「こうなれば最終手段です! 忍び込みましょう!」
「じょ、冗談だよな?」
こちらを見返すアリスの顔は、マジもマジだった。
「落ち着けアリス! そんなことしたら、冒険者ライセンスをはく奪される。せっかく将来が約束されてるのに、なんて勿体ないことを……!」
「そんなものは、どうでも良いです」
拗ねたようにアリスがそう言った。
(そこまでして、どうして……?)
意固地になっているアリス。説得方法を考える俺を余所に、こちらにツカツカと歩み寄ってくる冒険者が居た。
「おい、お前がアリスちゃんを騙してるオリオンって冒険者だな?」
「はい、俺がオリオンですが。あなたは誰ですか?」
(騙してるとは、人聞きの悪い)
「俺はギースだ! 隣街の冒険者ギルドでは、剣士として『蒼流』ランクに認定されている。冒険者ランクはAだ!!」
ギースと名乗ったのは、ガラの悪い冒険者の男。ニヤニヤと笑いながら、大ぶりのバスターソードを見せつけるように装備していた。
「聞けば『ランク外』の分際で、天才魔術師のアリスちゃんを弟子にしようって話じゃねえか。どんな手品を使ったのか分からねえが……。俺は実力も無い癖に、偉ぶるやつが一番嫌いなんだ!」
「なっ! 私が好きで弟子入りを志願してるんです。オリオンさんの実力も知らないで、好き勝手言わないで下さい!」
完全なるイチャモンだった。キッとギースを睨むアリス。
「はっ。そいつはランク外だろう? それでいて勇者パーティに居座っていたが、最近ついに愛想を尽かされて追放されたらしいな。ざまぁみやがれってんだ!」
(最近、こういうトラブルも無かったんだけどな……)
どこか懐かしくすら感じられる冒険者の態度。
そういえば冒険者ギルドを利用し始めたばかりの時は「『ランク外』の分際で、何故おまえが勇者パーティの一員なんだ!」と、随分と絡まれたな。
今いる勇者パーティで、旅を続けるために。
俺は降りかかる火の粉は全て払ってきた。クエストで支援を惜しまず自らの存在価値を示してきた。短絡的に決闘を申し込まれれば、すべて返り討ちにしてきた。
そうこうしているうちに、最近は冒険者に絡まれることも無かったのだが……
気が付けば、何事かと冒険者が集まってきていた。
「おい、お前ら! ランク外の冒険者が、師弟制度を使おうとしてるんだぞ? それを黙って見過ごすなんて恥ずかしくないのか!?」
「いや。でもオリオンさんなら、仕方ないというか……」
「天才の面倒を見れるのは、天才だけというか――」
煽るギースだったが、周囲の反応は芳しくない。
「はん。ここの冒険者たちはずいぶんとお行儀が良いらしい。感謝しろよ? 不甲斐ないお前らに代わって、俺がこいつをぶちのめしてやるんだからな!」
「あんた、オリオンさんの実力を知らないとは……。余所者だよな?」
「悪いことは言わない。止めておいた方が良い。オリオンさんは、ほんとうに規格外の魔術師だから」
「はっ。ランク外を相手に、なに警戒してるんだよ? そんなんだから、こんな奴が付け上がるんだよ!」
冒険者たちは迷惑そうにギースを諌めた。しかしギースは、まるで聞く耳を持たずにふてぶてしい態度を貫く。
「ごめんなさい。私が弟子にして欲しいなんて頼んだせいですよね……」
「冒険者同士のいざこざは、良くあることだ。アリスが気に病むことはない」
何故か落ち込むアリスに、俺はそう返す。
「くそっ! 落ちこぼれの分際で、余裕こいてるんじゃねえぞ! 闘技場に場を移せ。まさか逃げはしないだろうな!」
「ああ。受けて立つよ」
顔を真っ赤にしたギースは、そう喚き散らす。
そうして俺は、ギースに決闘を挑まれ闘技場に向かうのだった。