36.古代魔術師と勇者、それぞれの未来
本作の書籍化が決定しました。
サーガフォレスト様より、10/14 に発売されます!
これも読者の皆さまのおかげです、ありがとうございます!!
片倉響 様による素敵な表紙が目印です。
よろしくお願いします!
エドワードが魔術師組合から籍を抹消されて、1ヶ月が経った。
まさしく激動の日々だったといえる。
いきなり魔術組合に呼び出され、役員総出で迎えられた。
「オリオンさんをランク【ロスト・エレメンタル】の魔術師に認定します」
「な、何だそれは?」
「オリオンさんの価値は計り知れません! これまでの評価で古代魔法の価値を表すことは不可能──クワッド・エレメンタルにも劣らない世界唯一の称号です」
「ほら! 私、言いました! オリオンさんは、絶対に歴史に名前を残す人物になるって!」
隣ではアリスがガッツポーズ。
それ以降、俺は、これまでの冷遇が嘘のようにギルドでの評価も上がっていくことになる。アリスやエミリーいわく
「「当然の評価がされるようになっただけです!」」
とのことだった。
◆◇◆◇◆
「ルーナちゃんも、来ればよかったのにね」
それは、旅をしているある日のこと。
野営中に鍋を突きながら、エミリーがぽつりとそんなことを言った。アリスが、火力を調整しながら、ことこと鍋をかき混ぜている。
「オリバーにも頼まれてたしな。でも、当の本人に断られたし、仕方ないさ」
俺はあの後パーティにルーナを誘ったが、きっぱりと断られていた。
「あんな危険人物! 放っておいたら次は世界を危機に陥れかねへんからな!」
「……しっかり、監視せなアカンな!」
矢継ぎはやに冗談めかして、そんなことを言った。
「ここで私まで見捨てたら、あいつは一人になってまう。そうなったら私たちの繋がりは、完全に絶たれる。このままあいつがどこで野垂れ死んでも自業自得──それだけのことをしたんやろうけど。もう少しだけ信じてみたいんや」
それから少しだけ真面目な顔で、そんなことを言っていた。
「繋がり、か──」
「私は……。二度と顔も見たくないけどね。──それでも、まともになったのなら。過去のことは過去のことって、笑える日が来るのかな?」
エミリーはポツリと呟く。
先のことは何もわからない。それでも俺たちは、共に旅してきた大切な幼馴染だ。そんな日が来ることを信じて、見捨てないことを選んだルーナの姿勢は、尊いものであると感じられた。
「ルーナちゃん、大丈夫かな?」
「きっと大丈夫だろう。あんなことをしてもなお、自分を見捨てなかったパーティメンバーのためにって、オリバーもようやく決意を固めたみたいだからな」
正直、オリバーが以前のままだったら、無理にでも自分のパーティに入るようにルーナを説得するつもりだった。
それをしなかったのは、ひとえにオリバーの見せた決意があったからだ。
今の元・勇者の信頼度は最低クラスだ。
これからも苦労することは間違いないだろう。
それでも自らを最後まで見捨てなかった幼馴染のためにと、たしかにオリバーは変わろうとしていたのだ。
もともと「勇者」に選ばれるぐらいにポテンシャルが高いのだ。
ふさわしい努力をすれば、見合った戦果が付いてくるだろう。
「師匠は優しいんですね。あんなことがあったのに、未だにオリバーのことを心配して、ルーナの意思まで尊重して」
「師匠はやめろと──まあ良いか。別に優しくなんてないさ。協力をするつもりも、手を差し伸べるつもりもないしな」
「どうだか──」
アリスからは、ジト目が向けられる。
……実は、オリバーが冒険者に戻れるように協力したのは俺だったりする。除名された冒険者には、やり直しの機会すら与えられないからな。
「ふん。うんと苦労して、地獄を見れば良いと思っただけだ。……ルーナを巻き込むのは許しがたいけどな」
オリバーはこれまでの報いを受けることになる。
オリバーの信頼度は、ゼロを通り越してマイナスだ。
その状況で、やり直そうとあがくこと──それは間違いなく地獄だろう。
それでもそれを乗り越え、どこかのクエストで、再び邂逅する日が来れば──たまに打ち上げで飲み交わす程度の仲になれれば、それも楽しいかもしれない。
俺はぼんやりと、そんなことを思っていた。
◆◇◆◇◆
それは、いつもの日常風景の一部。
冒険者ギルドに、少女の元気な声が響き渡った。
「オリオンさん! 黒竜、狩りに行きましょう!!」
「落ち着けアリス! 今度こそ死ぬぞ!?」
冒険者ギルドから認められた今、もはやアリスの弟子入りを拒む理由はなかった。
故に、俺が「例の試験はもう無効にしても良い」と言いはしたのだが……。
「やらせてください!」
アリスは頬を膨らませて、そう言い張った。すっかり火が付いてしまったらしい。
それからというものの、俺たちは週1のペースで世界各地のドラゴンを狩っていた。ちょっと意味がわからない。
「お! またドラゴンスレイヤー、出動か!?」
「ブルードラゴンに、エメラルドドラゴン! 数々の伝説を打ち立てていくな!?」
(か、勘弁してくれ……!?)
面白がる冒険者たち。
「面白がらないでください! 誰か、この子の暴走を止めて下さい!!」
「まあまあ。修行に付きそうのは、師匠の義務って言うしなあ?」
「ま、まだ正式な弟子入りを認めた訳じゃあ──」
じわっとアリスの瞳に涙がのぞく。
それだけで、冒険者たちから責めるような視線が突き刺さった。
最年少のクワッド・エレメンタルの少女、アリス。
むさいおっさんの多い冒険者ギルドで、偉そうぶったところのない無邪気な少女は、すっかり人気者になっていた。
「あ~、アリス。今回だけだぞ」
「やった~!」
ケロッと涙を引っ込めるアリス。
俺はいろいろと諦めて、もう1人のパーティメンバーに話題を振った。
「おい、エミリー? 君からも、なにか言ってやってくれ……」
「ええっと。ドラゴンは1旅1体ね?」
おい、常識人枠!?
「違う!」
「なら……。おやつはドラゴン狩りの報酬でまかなえるところまで?」
「何食べるつもりだよ──! 頼む、ドラゴンをソロパーティで倒そうということに、そろそろ疑問を持ってくれ……!?」
「だって……。あれだけ楽々倒せるなら。ねえ……? 盗めるレアドロ素材、とても美味しいし……」
ドラゴンを前にガタガタと震えていたエミリーは、もう居ない。
そんな俺たちのパーティに付けられた二つ名は、ドラゴン・スレイヤー。
ドラゴンをソロパーティで倒すだけで、感謝状が贈られるのだ。そんな行為を延々と繰り返すパーティ。はたから見れば、狂気の沙汰であった。
(まあ、特に苦労せず倒せてるから良いんだけどさ……)
今までは、アリスがメインで戦っていた。
しかし俺は俺で、古代魔法の性能を試したくて──最近は、ドラゴンとの戦いを心待ちにしている自分も居る。
古代魔法は、まだ現代に蘇ったばかり。
生まれたばかりで発展途上──可能性は無限大。
どこまでだって強くなれる。
このパーティは、どこまでだって羽ばたける。
アリスとエミリーの笑みを見ながら、俺は未来に思いを馳せるのだった。
──完.
書籍版では、以下の部分を変更しています。
・古代魔法の設定を見直し
→ 普通の魔法、と、古代魔法の設定周りを、
丁寧に掘り下げるようになりました
・勇者パーティーとの関係性を掘り下げ
→ エミリーが仲間になるまでの過程であったり、
勇者のキャラの掘り下げを丁寧にするようにしています
・新キャラが増えています
→ アリスの後輩ちゃんです
ウェブ版の面白さの方向性はそのままに、
もっと自分が思う「面白い」を、ギュッと詰め込みました。
変わっているというよりは、全面的に改稿したのでほぼ別物です・・・!
ウェブ版読者様でも、楽しく読めるようになっていると思います。
ご購入頂けますと嬉しいです。
よろしくお願いします!





