27.【SIDE:勇者】オリバー、功を焦って忠告を無視してゴブリンの巣に意気揚々と突っ込む
(俺1人でゴブリンどもを全滅させたら、大手柄なんじゃないか?)
話し合いを終えた俺――オリバーだったが、その結論に従う気はまったく無かった。ギルドから援軍が来るまでの時間稼ぎということになったが、どう考えても自分の手でこの事態を解決した方が早い。
「ちょっとオリバー、どこ行くん?」
「トイレだ」
「分かった。この村は人手不足や。はよ戻ってきてな?」
ルーナは村の物資を確認をしていた。
長期戦も覚悟してのこと。地味な裏方作業など、他の冒険者に任せてしまえば良いものを。
「たしかゴブリンの巣は、こっちだったよな?」
俺はこっそりと村を抜け出した。
◆◇◆◇◆
「ここがゴブリンの巣か」
数十分後。
俺はゴブリンの巣となっている洞窟の前に居た。想像していたよりもずっと近い。これまで襲われなかったのは奇跡にも等しい。
(ふっふっふ。ゴブリンの分際で!)
(一丁前に見張りなんて置いてやがる……!)
高度に統率が取れたゴブリン。
その事実は歴戦の冒険者であれば、ゴブリンキングに統率されている危険性を考えるものだが……
「どりゃっしゃあ!」
オリバーは「雑魚敵が居る」としか思わなかった。
「キーキーキー!」
「ギャーギャーギャー!」
俺が斬りかかると、ゴブリンたちは驚いたように金切り声を上げた。
「はっはっはっは! 余裕じゃないか!」
巣からは、突然の奇襲に驚き俺を取り囲むようにゴブリンが現れる。しかし所詮は最低ランクの雑魚モンスター。勇者たる俺には手も足も出ない。
「どうしたどうした――!」
(これなら何百体でも狩れる――!)
(こんなの相手に、あいつらは何を怯えていたんだ!?)
そんなことを思っていたのだが、一瞬にしてそれは慢心であると思い知らされる。
崩壊のはじまりは唐突だった。よくよく見れば、ゴブリンたちは盾を構えて、こちらの攻撃を徹底的に受け流そうとしていた。さっきまでは、馬鹿みたいに突っ込んできていたのに。
(なにを企んでやがる?)
その疑問に答えるように。視界の隅で、なにやら魔法陣が生み出された。
「な――!? ゴブリンが魔法詠唱だと!?」
相手は低級モンスターだ。殴るしか能がない雑魚だと思っていた。予想外の事態に、俺はモンスターの攻撃をもろに受けてしまう。
「じょ、冗談じゃねえぞ――!?」
スペル・ゴブリン。ゴブリンの分際で杖を装備し、こちらに向けて魔法を放ってくる。その数はゆうに10を超える。
高度な知能を宿したゴブリンたちは、自らの巣への襲撃者を怒りのこもった目でにらみつける。
更には奥から巨大なモンスターが、のそりとと現れた。
「ご、ゴブリンキングだと――!?」
一回りも二回りも大きい。
手に持つのは巨大な棍棒。周囲に居るゴブリンたちは、その巨大なモンスターの指示を受けて、統率の取れた動きをしていた。奴こそがこのゴブリンの巣のリーダー。
(くそっ。こんな事態! 聞いてねえぞ!?)
ちなみに作戦会議では、ゴブリンキングが巣に居る可能性についても話されていた。文字通り、オリバーが聞いていなかっただけである。
「撤退だ――!」
俺は逃げることを選択した。
(こいつら……。ただのゴブリンじゃねえ!)
そうして俺は、リレックの村に逃げ帰る。
――斥候ゴブリンがその後を付けてきていたのにも気づかずに。
近くの村に、明確な敵意を持つ危険な人間が居る。
ゴブリンたちは、その事実を知る。