12.【SIDE:勇者】オリバー、ルーナに怒られて渋々クエストを受注する
本日、二度目の更新です。
まだの方は、ご注意を・・・!
(くそっが。昨日は散々だったな……)
向かったダンジョンでは突然変異型のモンスターに襲われ、撤退せざる得ない状態に追い込まれた。そのうえ、新たなパーティメンバーの募集にも失敗している。
クエストの予定もない。
今日は部屋でゆっくり休んで、英気を養おう。そう思っていた俺の元にやってきたのは、パーティメンバーのルーナだった。
ノックもせず、慌てたようすで飛び込んできた。
(ルーナの奴、何を怒ってるんだ……?)
話を聞いていくうちに悟る。どうやら忘れていたクエストがあったようだ。そのことが原因で何やら督促状とやらが届いたらしい。それがルーナの逆鱗に触れたようだ。
(大げさだな。俺たちは勇者パーティだ。そんな違約金、無効化してやるさ!)
(そんなクエスト。勇者たる俺が受ける必要もない小さなクエストだよな。うん、相応しい新たなクエストが俺を待ってるんだ!)
どうもルーナは生真面目で、物事を真面目に捕えすぎてしまうようだ。
別に、次にクエストを受注するときにでも、ついでに報告すれば良いだろう。そう思っていたがルーナは、今すぐに謝罪に行くといって聞かなかった。そうして俺は、ルーナに引っ張られて冒険者ギルドに向かうことになる。
◆◇◆◇◆
そうして冒険者ギルドに到着した。
俺は迷うことなくツカツカと受付嬢に歩みより、
「ちょっと調子が悪くてクエストを達成できなかった。代わりの人員を手配しておいてくれ。それと違約金なんだが、俺たちは勇者パーティだ。まさか勇者たるものから取ろうなんてことを――」
「アホか!」
パコンと頭を思いっきり叩かれた。ルーナだ。
それからグリグリと頭を押さえつけられ、頭を無理やり下げさせられた。
「本当に申し訳ありませんでした。違約金は今すぐには払えません。ですが、必ず払いますので――」
「困りますよ、ほんとうに」
受付嬢は、眉を下げた。
「勇者パーティが受注したというのなら、大丈夫だろうと思ってました。それなのに救援がいつまでたっても来ないと、町長が怒鳴り込んできて――何かの間違いだと思いました……」
「ふん。それをどうにかするのがギルドの役割――いてっ」
「アホか!」
(おのれ、ルーナめ!!)
失敗したクエストとかどうでも良いから、もう早く帰りたい。ゴブリンの討伐とか、わざわざ勇者パーティが出るまでもないだろう。
そんな俺の意思とは裏腹に、ルーナがこんなことを言い出す。
「代わりと言ってはなんですが、このクエスト。今からでも受注させてはいただけないでしょうか。せめてものお詫びです」
「はあ? そんなことをしても、この違約金はなくなったりしないんだろう。報酬だって差っ引かれるなら、ただ働きじゃねえか!」
俺はギョッとして反射的に怒鳴りつけたが、ルーナは当たり前のように黙殺した。受付嬢も黙殺した。
「もう信頼できる他の冒険者に任せようという方向で、話が進んでしまっています。これまでは勇者パーティだからということで、多少の問題行動も大目に見てきました。ですが今回のことは、あまりに目に余ります。このようなこと本当に繰り返さないでくださいね」
(くそっ。なんだよ、偉そうに)
俺は勇者なのだ。特別な存在なのだ。
ギルドで働く下々の人に、そんなことを言われる謂われはない。無礼だと切り捨ててくれようか。
「本当に申し訳ありません。せめて、その方たちに付いていく許可だけでも、貰えんやろうか? 私たちのせいで、村が危険にさらされているなんて、耐えられん。この通りや」
(ふざっけんなよ! リーダーの俺の許可なく、何を勝手な交渉をしてやがるんだ……!)
「おい、何を勝手に――!」
「構わへんよな?」
そう思いつつも、ルーナに威圧され。俺は思わずコクコクと頷くのだった。
そうして結局、件のクエストに向かうことになる。
俺たちに代わってクエストを受注したというパーティと合流することになった。
「君たちが例の勇者パーティ? たった2人で何が出来るって言うの?」
「ああ? 黙って聞いてれば、勇者に向かって何を――!」
胡散臭いものでも見るような顔。同行するパーティのリーダーが声をかけてきた。
「オリバーは黙っとって! 私たちのパーティが迷惑をかけて、本当に申し訳ない。手伝えることは何でもやるので、どうかよろしく頼みます」
「ルーナ、そんな有象無象の冒険者に頭を下げるもんじゃない。勇者パーティの格が落ちるだろう」
「――っ! あんたは、まだそんなことを……」
ルーナは、呆れたようにため息を付いた。
そうして俺たちは、ゴブリンの巣が近くにあるというリレックの村に向かうことになった。
◆◇◆◇◆
ルーナは、決して言い訳をしなかった。
彼女にしてみれば、今回の件は寝耳に水だった。クエストを受注したのはリーダーであるオリバーだし、まさか勇者がそんな無責任なことをするとは、さすがに思ってもいなかった。それでも現状を受け入れ、失われつつある勇者パーティの信頼を取り戻そうと孤軍奮闘していた。
もっともそんな事実を、オリバーが気づくことはなかったのだが。