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山田恵子はエビチリが好き 【短編連作】  作者: 深瀬はる
君の死に顔を見たい
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君の死に顔を見たい 2



 翌一月二日。私は回転寿司屋に来ていた。二歳年上の幼なじみ掛川優一に誘われたのだ。こう見えても私はいざ誘われるとフットワークが軽い。

「ゆいさん髪薄くなりました?」

 ゆいさんとは優一のことだ。小さい頃、私は「ゆういちくん」と上手く発音できず「ゆいくん」と呼んでいたのがそのまま残った形である。

 ただの幼なじみだったのに中学校に上がった途端、妙に先輩後輩を意識してしまい、「くん」が「さん」になり、敬語になった。

 高校は別、大学もそれぞれ違う県に進学したので一旦は疎遠になったが、社会人になってから再び連絡を取るようになった。何かと顔も合わせている。

 三十歳になったゆいさん、髪の密度が怪しくなってきたような?

「やまちゃんこそ鼻の頭ハゲてるよ?」

 ゆいさんは私の鼻を人差し指で弾いた。

「うるさいセクハラ触んなハゲ!」

 罵詈雑言を吐き散らし、一気にエビ二貫を口に放り込んだ。ちなみにエビは四皿目である。

「どんだけエビ好きなんだよ。前世タコかよ」

「今世ザビエルのゆいさんに言われたくない」

「ザビエルは頭頂部だろ。俺はおでこから浸食してるっての」

 タッチパネルを操作してもう一皿追加した。すでに私の前には二十皿くらい積み上がっているが、エビならいくらでも入りそうな勢いである。

「やばい、食欲の冬だわ」

「食欲の春夏秋冬だろ、お前の場合」

と、ゆいさんはハゲ話の反撃とばかりに嘲笑した。

「そんなポップコーンみたいに寿司食ってて大丈夫か? もうすぐ新堂(ひなた)の握手会じゃなかったか」

「そうなの! 今の私は陽くんに会うためだけに生きてる!」

 俳優・新堂陽。来週、陽くんのカレンダー発売記念握手会が開催される。

 一番綺麗な私で会うために、最近エステにも通い始めた。小顔にするやつと機械で美容液を浸透させるやつ。

「そのコートも新しく買ったんだろ。高そー」

 ゆいさんは、たたんで脇に置いておいた白いファーコートに視線を送る。

「いや、まーそんなでもないですよ」

 一応謙遜しておいたが、本当は結構財布が痛んだ。陽くんの好きな色が白だったのと、雑誌のインタビュー記事で「女の子らしい子が好きですねー」と答えていたのを読んで、値札は片目つぶってこのフェミニンな白いコートを選んだのだ。

 正月のグータラは束の間の休息ということで、正月明けはまたスキンケア、ヘアケア、むくみ対策に励む予定だ。最高のコンディションで当日を迎えたい。おっと忘れちゃいけない、鼻の頭も治さないとね。

「カレンダー九冊予約しましたし。チェキ当たるかなぁ!」

 三冊買うと、握手券とチェキ抽選券が一枚ずつ付いてくる。九冊買うので握手三回は確定だが、チェキは抽選なので運任せだ。

「三十手前のおばさんがこんだけはしゃげればそりゃ楽しいだろうな」

「三十超えても絶対楽しいし」

「分かる。おじさん本当に三十超えちゃったけど楽しいし」

と、ゆいさんが見せてきたのはアニメグッズで埋め尽くされた部屋の画像だった。アニオタのゆいさんは、LINEのアイコンもなっちゃんとかいう二次元の女の子キャラだ。先日も「ハァ~なっちゃんの汗でご飯炊きたい」と頭の沸いたツイートをしていた。清々しいまでの気持ち悪さに思わず「いいね」した。

「三十超えたことだし、ゆいさんそろそろもういいんじゃないですか、人生」

「確かにやり残したことと言えば、君の死に顔見るくらい」

「寝言は死んでから言って」

「ちょっと面白かったけど傷ついた」

「メンタルくそ弱じゃん……」

「繊細だからね。山田さんみたいに図太い神経してないの」

「お線香三億本くらいお供えしてあげるから死んでくんないかなー今すぐ」

「胸が死んでるお前に言われたくないわ」

「胸は生き残ってるわ」

 ジャストフィットするのはB70だが、見栄を張りたい時はC65。カップ容積が同じ姉妹サイズなので、アンダーがちょっと苦しいのさえ我慢すればCカップを名乗れる。Cあれば殊更貧乳呼ばわりされる筋合いはない!

「こっちだって髪の毛生き残ってるからな」

「本体死ね」

 結局、寿司三十皿にフルーツ二皿を平らげ、ゆいさんに全部奢らせて大満足で帰宅した。


 夜、冷え性だからなーと思って温感ジェルを風呂上りに体にたっぷり塗った二分後、

「アアアッッツイッーーー!!!」

 悶え苦しんで水で冷やしながら全部洗い流した。

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