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山田恵子はエビチリが好き 【短編連作】  作者: 深瀬はる
君の死に顔を見たい
10/18

君の死に顔を見たい 1

 もう布団に入ったのに、豆腐にチーズ乗せてチンするやつ食べた過ぎて眠れないよぉ。


 布団から這い出して半纏を羽織る。

 寝静まった家で電気を点けるのは憚られ、スマホの明かりを頼りに台所へ向かった。

 そして「豆腐にチーズ乗せてチンするやつ」ができ上がるのを、鼻の頭を弄びながら待つ。鼻が高くなるように、と毎日鼻を摘まんでいたらすっかり癖になってしまったのだ。効果のほどは全く分からないし、それどころか乾燥して皮が剥けた。

 豆腐にチーズ(以下略)を食べていると、今度は体が無性にエビ汁を欲しているのを感じた。エビチリ、エビフライ、エビ炒飯。エビは最近のマイブームだ。

 もしかして前世はエビを食べる動物だったんじゃないかしら。「前世占い」でググって一番上に出てきたサイトにアクセスしてみた。氏名と生年月日を入力する。

『山田恵子さんの前世は……タコ!』

 人をおちょくったような間抜け面なタコのイラスト付きである。

 タコって! 豆腐に(以下略)を頬張りながら一人で面白くなってウヒヒと笑う私。

 シメは梅茶漬けだ。お腹いっぱいになったら眠くなってきた。面倒なので歯磨きはサボる。

 皿と茶碗を水に漬け、母に宛てた書き置きを台所に残した。色々察してくれることだろう。皿洗っといて、とか、起こさないでください、とか。

『こうして私は再び布団に吸い込まれたまま戻らぬ人となった。完!』



「完! じゃねぇよ! いい加減起きなさい、恵子!!」

「イヤー! 返して寒い死ぬぅ!」

 剥ぎ取られた掛布団に両手両足でカエルのようにしがみつく。全然察してくれなかった! 字を書く筋力無駄にした!

「正月だからっていつまでもグータラしてんじゃないの!」

「正月にグータラしないでいつグータラすんのよ!」

 反論するや否や掛布団越しに蹴りを食らい、私を暖かく包み込んでいた人生の恋人から引き剥がされてしまった。


「初詣くらい行ってきたら?」

「こんな寒い日に初詣行くなんてどこの痴れ者よ」

 コタツに引っ越した私は、コタツ布団から頭だけ出して二度寝の構えである。あんたって子は……、と私の生首に母の溜息が降り注いだ。

 溜息を吐きたいのはこっちの方だ。

 毎年帰省するたびに祖母からは「いい人いないのか」「結婚はまだか」の攻勢に晒される。

「昔、女はクリスマスケーキって言われてね、二十四までには結婚したものなのよ~。二十五になったら価値が下がるから」

と時代錯誤も甚だしい。私は二十五日だろうがいつだろうがケーキ食べたいけど?

 今日だって祖母は「恵子にいい人が見つかりますように」と神社をはしごして回っているのだ。ありがた迷惑の極みである。

 今は女性もバリバリ働く時代なのよ、と母は祖母を諫めてくれるのだが、気を遣われているようで余計に鬱陶しい。母だって本音では私に早く結婚して欲しいと思っているのだ。そんなことくらい、娘はすぐに気づく。

 実家がこの有様なので、正月も帰省したくはなかった。私の足を実家に運ばせたのは、年に一度くらいは親に顔を見せてやらなきゃという義務感だけだ。お盆はあれこれ理由をつけて帰省の魔の手から逃げている。

 結婚する気はないし、できるとも思っていない。「今のうちにお金を貯めてイケメン介護士のいる老人ホームに入って一生イケメンにお世話してもらお! あ! イケメンにシモの処理してもらう時に備えて、ミュゼで脱毛とかしといた方がいいかな!?」などと妄想している時点で我ながら終わっている。親も祖母も早く諦めて欲しいものだ。孫の顔なら三年前に結婚した姉が見せてあげたんだからもういいだろう。

 かろうじて、綺麗なドレスを着たいという乙女心は生き残っている。若いうちに撮っておこう。新郎役は雇う。金髪碧眼の王子様を所望する!

 コタツでニタニタしていると、視界の端で母がこめかみを押さえていた。

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