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空想鉱物事典(順不同)

『事典』と言いながら項目は五つばかりですが、『抜き書き』としてご覧ください。


紅涙石(こうるいせき)


・鮮血の如く赤い宝石。大小の(しずく)型で塩水に浮く性質を持ち、その大部分がサガラ海沿岸で採取される。

・太古の昔、創造の神(女神)が自ら創り出した息子神に恋をした。だが息子神はこれも創造神が創り出した一輪の花に想いを寄せていた。

・女神は自ら創造した愛らしい花を枯らすことも出来ず、叶わぬ恋に血のように赤い涙をこぼした。その涙が海に落ち、結晶したのが紅涙石だと言われている。

・「実際は深海に生える珍しい樹が、百年に一度花を咲かせて実を結ぶ、その実である」ともっともらしく言われている。しかし深海に生息する樹の実が海水に浮いてしまうのは、樹にとって不都合極まりない。よってこの説はかなり疑わしい。いまだにどう産出されるのかも定かでない、謎の多い鉱物。

・砕いて粉状にし、鮮やかに赤い顔料とする。顔料は原料の名から「紅涙粉(こうるいふん)」と称される。元が高価な鉱物のため、顔料も非常に高価。その昔宮廷お抱えの画家たちは、自分の財力を誇示するために(きそ)って紅涙粉を使い、赤を多用した絵を描いた。

・この宝石を所持していると、人の上に立つ立場になれるとされる。だが同時に、所持していれば恋愛面での運は地に落ちるとされている。




()蜜石(みついし)


・太古に生息していた巨大な(はち)の化石から採集できる、蜂の集めた花粉と蜜からなる化石。とうの昔に絶滅した、太古の花の蜜と花粉のボール状の塊が石化したもの。色はパウダー状の質感を伴った淡い黄色。

・現在の花や花粉とは全く異なる、絶滅した種の植物の化石であるため、学術的な価値も高い。生物学方面の学会が、研究のために多数所蔵しているといわれる。

・カルーダ大陸のミスクス島が最大の産地。だが現地の宗教では至高の神への捧げものとされ、毎年多くの花蜜石が宗教的祭祀で燃やされていた。※元が花と蜜からなるので、燃やすと最上の香水に似た素晴らしく良いにおいがする。

・そのために数が激減したが、現在ではミスクス島産の花蜜石は現地の人々の重要な収入源となっている。ちなみに今この時も、数はわずかだが宗教的祭祀で燃やされているものもあるらしい。

※この石から採れる希少な香料には媚薬効果があるとされるが、科学的根拠は全くない。




()心石(しんせき)


・その昔、悪心を起こして天界を追われた魔神がいた。魔神は九つの心臓を持ち、天界を追放された後も、悪しき心の天使を率いて何度も絶対神に叛逆(はんぎゃく)した。しかしことごとく戦いに(やぶ)れ、そのたびに心臓を神の槍で砕かれた。

・最後には心臓が一つきりになってしまい、魔神はそこでようやく叛逆をあきらめ、地の底の魔界に悪しき天使を引き連れて隠遁(いんとん)したのだという。

・その砕かれた心臓の欠片(かけら)と言われるのが、一般にいう魔心石である。魔心石は火山の近くで産出する。地下深くの物質が火山の噴火によって噴き上げられ、大気で急激に冷却されて固まったもの。

・含有する成分はさまざまで、それによりカラーバリエーションが非常に豊富。青、赤、緑、黄色など主に八つのバリエーションがあり、その上に無数ともいえる微妙なグラデーションがかかる。

・そのいわれから「持っていると不幸になる」との迷信もあるが、にも関わらず非常に人気の高い石。八つのカラーバリエーションをそろえた指輪を身に着けると、迷信が一転して「幸福になる」とまことしやかにささやかれるのは面白い。




()萄珠(どうだま)


・深海でしか生息出来ない「()(むらさ)()(がい)」の体内でまれに育まれる、葡萄に良く似た色の美しい珠。皇帝クラスの身分の高い方々が、喪に服す時に身に着ける。

・真紫綺貝はこれまでに養殖の成功例が(かい)()。したがって手に入れるためには採取する者が深海探査機などに乗り、自ら深海に降りてゆかなければならない。あるいは珠が海流に巻かれ、奇跡的に沿岸に打ち上げられたところに巡り会う幸運を待つしかない。その希少度から、現在でも最高級の宝玉のひとつである。

・実は貝からとれる真珠に似た宝石ではなく、深海に()む希少生物の卵だとする説もある。半世紀前、ンヴァール海沿岸で発見された葡萄珠がファル国の王に献上された。それから百日後に珠からタツノオトシゴのような生物が孵化(ふか)したが、何を与えても食べぬまま、三日ののちに死亡した。この史実が葡萄珠を「生物の卵」だとする根拠だと言う者もある。

・しかし今日(こんにち)では、この卵は葡萄珠ではないとする説が有力。筆者もこの説の方を支持する。おそらくたまたま異世界から紛れ込んだ、葡萄珠に酷似した「異生物の卵」であったのだろう。




(くろ)()(せき)


・元々は宇宙からやって来て、大気圏で燃え尽きずにこの星へ落ちてきた、いわゆる隕石(いんせき)の一種。

・通常の隕石は宝石界では単に「黒石(こくせき)」と呼ばれるが、この黒綺石はさまざまな美しい鉱物の結晶を含有し、手にとって(かたむ)けると夢のような虹色の輝きを放つ。この種の宝石は今までに三例しか発見例がなく、空から落ちてきた唯一無二の「最上の宝石」である。

・直径三十センチを超えるものもあったが、時を経るうちに分割されてしまった。その中でも一番大きなものは時の富豪、ガゼーラ氏が所有していたが、この石を巡って悲劇が起きる。

・ガゼーラ氏の古くからの友人であり、宇宙史の研究家でもあるインパル博士がこの石を貸してほしいと申し出た。ガゼーラ氏は(こころよ)く石を(たい)()する。しかし博士は研究欲に(あらが)えず、黒綺石を真っ二つに割ってしまった。

・二百年前の当時から、黒綺石は至高の宝石。最高裁で裁判が起こり、インパル博士は有罪となり、首を切られて処刑された。

・その後半年経って、ある秋の朝にガゼーラ氏が自宅屋敷のベットの上で変死しているのが発見された。深夜に強盗が侵入したらしく、ガゼーラ氏は全身をめった刺しにされて血だるまになって死亡していた。その両手には二つに割れた黒綺石が、しっかりと握られていたという。

・屋敷の警備は万全で、何者も侵入した形跡はなかったのに、強盗がどこから忍び込んでどこから逃亡したのかは、現在でも世界の七大の謎の一つ。

・その出来事から、この至高の宝石はインパル博士の怨念(おんねん)の宿る「魔の黒綺石」として世に知られるようになった。その後もこの石を手にした者は、例外なく非業の死を遂げている。

・手に入れた者三十人あまりを非業の死へと追い込んで、この宝石が最終的に行き着いたのは世界最大の博物館。厳重な警備と「象も壊せぬ」強化ガラスの壁に(まも)られ、機械の手で絶えずゆっくりと角度を変えられ、一対の宝石は今日も博物館の目玉として妖しい輝きを放っている。

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