第15話 夏祭りの始まり
浴衣のお披露目会をした後、開催までまだ時間がある為、皆でロビーへと移動すると、例年通りせわしなく人が行き来していた。
動き回る先輩方の手には鉄板やら、屋台の骨組みやらがあり、しかも全員はっぴ姿なのを見ると、この時期が来たのだと改めて実感する。
「あの、私たちも手伝いましょうか?」
現場指揮を取っている、ねじり鉢巻きにはっぴ姿のジェイへミヨコ姉が問いかけると、ジェイが苦笑した。
「いやいや、浴衣姿の嬢ちゃん達にこんな事させられねぇだろ。今年はレーナちゃんも居るし、嬢ちゃん達は目いっぱい楽しんでくれ」
ジェイの視線の先には、諸先輩方同様はっぴを着たレーナ先輩が居て、案外打ち解けた様子で動き回っていた。
「すいません、ありがとうございます」
ミヨコ姉がそう言うと、俺達もそれに合わせて頭を下げるが……何か先輩方の俺とジークに対する視線が鋭い気がする。
「《《浴衣姿の嬢ちゃん達には》》、させられないが……お前らは関係ないよな?」
そうジェイが言うと、俺とジークは先輩たちに両脇を固められる。
「連行しろ!」
「イエッサー」
普段よりも遥かに統制の取れた動きで、団員達に連行された。
「ちょっ、ジェイ! 俺は病み上がりだぞ!」
「安心しろ、そんな重労働させるつもりはねぇよ……ただ、お前らがイチィチャしてるのが気に食わないだけだっ!」
「んな理不尽な……」
思わずそう呟くが……まぁ会場設営も祭りの一部か、そう割り切ってジークの方を見ると、特に暴れる様子も無く運ばれていた。
◇
結局1時間程手伝わされた出店の準備などを終えて、水を飲むために食堂へ戻ると、皆も出店で使う食材の水洗いや下準備を手伝っていた。
「別に皆は手伝わなくても良かったんじゃないか?」
ニンジンの皮むきに四苦八苦しているシャーロットへそう問いかけると、手を止めてジロッと睨まれた。
「流石に他の人達がこんなに忙しそうにしてるのに、何もしないのは気が引けるわよ」
「そんなもんかね……俺なんてサボれるもんなら、全力でサボりたいけどな」
「ソレが分かってるから、アンタらは連れてかれたんじゃないの?」
そんな会話をしていると、厨房の方から花柄のエプロンを着たガッチさんと、10名程の女性隊員達が姿を現した。
「皆おつかれさま! 後は私達でやっておくから、そろそろお祭りに行ってらっしゃいな」
そんな声がかけられると、皆は手を洗い、一緒に作業していた先輩方と軽く言葉を交わしてる。
中でもユフィとミヨコ姉の下には数人の隊員が集まり何やら話してるが、小声で話しているのか全然会話内容が分からない。
まぁ、しばらくここを離れていたし、積もる話もあるのだろう……そう思いながら水を飲んで居ると、アリアが近寄って来た。
「ねぇねぇセン君、さっきユフィちゃんから聞いたんだけど、前に夏祭りのイベントで女装したんだって?」
「ぶふぉっ……」
「お前……そう言う趣味だったのか」
キラキラとした目で見て来るアリアと、ドン引きして気持ち距離を放してくるジーク。
「いやいやいや、趣味なわけねぇだろ!」
「そうなのー? でも、あのメイド服姿、私の次位には似合ってたわよー?」
そんな意味の分からない事を、ガッチさんが呟く。
「いや、ほんと、マジで勘弁してください」
今から2年ほど前、祭りで行われたイベントに強制参加させられ……オレはそこで女装して歌う事になった。
その時は死ぬ程嫌だと主張したんだが、俺が出る場合ミヨコ姉、ナナ、ユフィも同じ格好で舞台に上がると言われ……俺は渋々承諾する事になったのである。
――あの時の皆は、超絶可愛かった……まぁ、いつも可愛いけど
「あー、その時の写真なら私ナナちゃんから見せてもらった気がするわ」
そうリーフィアに言われ、思わずナナをガン見すると、ナナがえへへと笑った。
「実は結構お気に入りで、いつも生徒手帳に入れてるんだー」
そんな事を、ナナがのたまった。
「えっ、ちょっと待て、じゃあまさか学園の連中は俺の黒歴史を……」
「まぁ、結構な数知ってるでしょうね」
そうシャーロットに言われた瞬間、俺は机に倒れ伏した。
――くそっ、俺のクールでナイスガイなイメージがっ
「元々そんなイメージ無かったと思うけど?」
ユフィにそんなツッコミを入れられてる間にも、ナナが写真を取り出してアリアやジークに見せてる――ガッデム!
「えっと……それじゃあ皆準備良ければ、お祭りに行こうか?」
困った様な顔をしたミヨコ姉がそう言うと、俺達は麓にある街へと歩き出した……クソッ。
「お兄ちゃん、ゴメンってば。前に同級生の子が、お兄ちゃんが喧嘩ばっかりしてて怖いって話してたから見せてあげたら、いつの間にか話が広まっちゃって……」
ナナがそう言って謝って来るが……お兄ちゃんは知ってるぞ、率先してジークたちに写真見せに行ってたのを。
「まぁ、見せちまったもんはしょうがない。それで、俺の女性ファンは増えたのか?」
そう尋ねると、ナナが目を反らした。
「えっと……ファンは増えた、よ?」
「何で疑問形? 何で目を反らした?」
「それはズバリ、男性ファンが増えたからだと思うなー。写真のセン君スッゴイ可愛かったもん!」
アリアにそう言われて、ジーっとナナを見ていると、無言でコクリと頷かれた。
「……ふぅ、分かった。ナナ、今すぐに写真を見た糞どもを教えるんだ。速攻学院に行って始末してくれる」
そう言って息巻いてると、リーフィアが呆れた様な声を上げた。
「今は夏休み中だから、殆ど学生は学院にいないでしょう?」
「いや、そう言う問題じゃない!」
そんな、俺の沽券に関わる話をしていると、普段とは違い街の軒先に幾つもの出店が出ているのが見えた。
今日は普段から店をやっている所も、そうじゃない所も、店の前や広場で食べ物や飲み物をはじめとした、衣類や雑貨など様々な物を売っていた。
「ねぇユフィ、アレ見てアレ! りんご飴よ、りんご飴!」
「はいはい、落ち着いてシャル。皆で一軒一軒回って行きましょう」
テンションが上限突破しているシャーロットに引きづられる様に、皆で店舗を回って行く。
「しっかし凄いお祭りだね、ウチの領内でココまで派手なお祭りってあんまり無かった気がするよ」
そんな風にアリアに言われ、同意する。
「あー、まぁそうかもな。確か天空騎士団の初代団長が、ここに居た悪竜かなんかを退治したのが始まりって聞いてるからな、割と派手にやってるんだよ」
「なるほどな、どおりで竜の飾りが多いわけだ」
竜のお面をかぶった少年、少女たちが走り回ってるのを見てジークがそう呟くと、アリアがニヤリと笑った。
「なにジーク、もしかしてアレが欲しいの?」
「んな訳あるかボケ」
「いたっ、だからってデコピンするな! 訴えてやるぞ!」
そんな夫婦漫才を見せられて微妙な顔をしていると、ミヨコ姉達が中央広場の方で手招きをしているのが見えた。




