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第9話 お人形とは違うから

 守護石の砕ける音が訓練場に鳴り響き、勝負の決着が決まると団長が近づいて来る。


「勝負ありだな。センは守護球が有ったとは言えダメージが貫通している可能性があるから、一応医務室行ってこい。ミヨコは付き添いに言ってやれ。ナナは、べノンと早速訓練開始だ」


「団長、俺は大丈夫です……」


 多少の手足の痺れは有ったが、大半のダメージは守護球が受け持ったため時間が経てばもとに戻ると主張しようとしたが、団長は首を横に振った。


「念のために行ってこい、表面上何とも無くても後遺症が残る事もある。これは団長命令だ」


 そう言われて、俺は渋々ミヨコ姉と病院に向かうことにした。


「弟君、体の調子は大丈夫そう?」


「さっきも言ったけど、全然大丈夫。多少手足が痺れてる位だよ」


「そっか」


 そういうと、ミヨコ姉は何かを考える様に押し黙り、俺も先ほどの試合を思い返す。


 勝てない試合では無かった――魔反射の鏡に関してもゲーム内で存在は知っていたのだから、カウンター系の道具を警戒しながら接近戦を行っていれば勝てただろう。


 だが果たして俺は傷ついていくナナを見ながらも、殴り続ける事が出来るか?と言われると難しい。


 それにナナは、どれだけ痛めつけても退かなかった気がする。


 守るべき人――ナナを痛めつけてまで、ナナの暴走するまでの時間を僅かに長引かせるのが正解なのか……それは俺には分からない。


「弟君」


 突然ミヨコ姉に声をかけられてそちらを見てみれば、揺れる俺の瞳を覗き込む、黒い瞳が2つ有った。


「弟君が何を考えてるのか、何で悩んでるのか私たちには分からない。だけど、私やナナちゃんの事を不器用だけど真剣に考えてくれてるのは分かる」


 そう言うとミヨコ姉は少し微笑んで、俺の頬に触れて来る。


「だけど私たちのために弟君が傷付くのは、私たちも見たくないんだよ?確かに弟君は私たちを、アノ研究所から救い出してくれた」


 優しく俺の頬に触れて来る温かい感触――労わる様に触れて来るその感触を通して、ミヨコ姉の心が流れ込んでくる様な気さえする。


「だけど、だからってずっと守らなくても大丈夫だよ?私たちも弟君のお姉ちゃんと、妹なんだから、ただ守られてる()()()()()とは違うんだよ?」


 一転して悲しそうな表情で()()()と表現したミヨコ姉に、俺は心を締め付けられる。


 俺は……彼女たちを本当に、一人の人間として扱えていただろうか?


 ゲーム内のキャラクターで、守ってあげなければ不憫になる()()だと思っていたんじゃないのか?


 自問自答してみるが、答えは出ない。ただ分かるのはミヨコ姉もナナも自分の意思を持った一人の人間で、()()なんかじゃ決してないという事だけだ。


「ミヨコ姉と、ナナを守りたかった」


「うん、それは私たちも痛い程分かってる。ありがとう」


 再び優しく微笑んでくれるミヨコ姉に、俺は胸の内を打ち明ける。


 ずっと抱え込んでいた……俺が2人を守りたい理由の一部を。


「理由は言えない……だけど、俺には未来の事が見えてて――将来不幸に成るかもしれない2人を絶対に守りたいと思ったんだ」


 未来が見えてると言ってミヨコ姉は目を一瞬見開いたが、それを飲み込んで真剣に答えてくれる。


「そっか……じゃあ私を救ってくれたのも」


「そうだね、あのままだとミヨコ姉が不幸に成ると思ったから」


 そんな曖昧な回答にも、ミヨコ姉は真剣に考えてくれる。


 突拍子もない事を言ったにも関わらず、真面目に取り合ってくれるその姿に、俺は心から感謝した。


「その弟君の未来予知には、私たちがこれからやる事全部見えてるの?」


「いや、先に起こる事件が何となく分かってる位だけど」


 そういうと、ミヨコ姉は突然俺を抱きしめて来た。


 ……えっ?



「大変だったね?」

 優しく、耳元でそう囁かれて俺はこれまでの苦労を思い返し、胸が詰まりそうになるが押しとどめる。


「だけど、一人で何でも抱え込もうとしないで。皆で一緒に考えていこう?どんなに大変な事があっても、きっと3人なら解決できるから」


 そう言ってほほ笑むミヨコ姉の事を見て居られなくて、滲み出した視界の中、青く広がる空を見上げ、鼻声になりながら答える。


「俺はミヨコ姉とナナを何が有っても守る……それだけは譲れないけど、3人で一緒にこれからの事を考えて貰っていいかな?」


 そう問いかけると、今までで一番元気な返事が返って来た。



 病院に行き、ルーランさんを見つけて声をかけると、また怪我したのかと呆れた顔をされたが、軽い問診と検査の結果特に問題なしと判断されて、再び訓練場への道を歩いていた。


「そう言えば弟君は今、幾つの魔法が使えるの?」


 そう聞かれて、俺は指折り数えてみる。


「灯りに、引寄せ、雷矢、雷槍、雷刃の計5つかな」


 本当はゲーム知識を生かしてもっと色々使ってみたかったんだが、ゲーム中に出て来た1句で使える2種の魔法と、雷系以外の魔法を使おうとすると靄がかかった様に頭に浮かんでこない。


 グンザークが使ってた石礫に関しては試そうとしたが適正が無いので、使えなかった。


「それなら、私が今使えるのは水が5つ、風が4つだから、お姉ちゃんの勝ちだねっ」


 ニコッと笑いながらVサインするミヨコ姉に笑い返しながら、俺は内心驚いていた。


 ミヨコ姉はゲーム内だと魔法特化の敵として、主に水と風を使っていたのは覚えていたが、それでも現時点でその能力は破格だろう。


 なんせ、物語スタート時点で17歳の主人公より、2属性に限れば数が多いのだから。……まあ奴は全属性使えるんだが。


「俺もミヨコ姉に魔法教えてもらおうかなぁ」


「うん、魔法に関してならお姉ちゃんに任せて」


 そんな風に会話をしていると、訓練場に多くの隊員たちが整列しているのと、団長が手招きしているのが見えた。


「おー、やっと戻って来たか。一応こっちで皆に挨拶しとけ。ナナはもうやったから、後はお前らだ」


 そう言う団長と、べノン姐さんの横に立ったナナが心配そうに此方を見て来るが、大丈夫だと笑顔を返すと、その顔がほころんだ。


「今日からお世話になるミヨコです。至らないところも多いかと思いますが、よろしくお願します」


 そう言ってミヨコ姉が頭を下げると、整列した隊員達からヤジが飛んでくる。


「ミヨコちゃんかわいー」


「俺達は君たちみたいなお淑やかな子を待ってた!」


「6年たったら俺と結婚してくれー」


 男女の隊員たちが好き勝手叫んでるのを聞きながら、俺も挨拶をする。


「今日からお世話になるセンと言います。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」


 そう言って頭を下げると、お姉さん方から「かわいー」というありがたい声と共に、男の隊員達から怨嗟のこもった声が飛んでくる。


「優しいお姉ちゃんと可愛い妹が居るとか許せんっ、シバキ倒すから覚悟しろ」


「俺の所に来たら教育――可愛がってやるからな」


「あんらぁ可愛い男の子、とっても私好みだわぁ」


 最後の言葉に特に寒気を感じながら、俺は頭を上げる。


 ……誰だ、最後の言葉を言ったやつ――まぁ、想像は付いてるんだがこの体では近寄りたくない。


「よーしお前ら、新人の紹介も終わったから訓練開始するぞ。まずはランニングだ、ついてこれなかった奴は罰ゲームだから気合入れろ」


「はいっ」


 そう言ってべノンさんが走り始めると、隊員たちもその後ろについて一緒に走り始める。


 その数実に300名以上……改めてみると壮観だな。


「嬢ちゃんたちは初日だし、無理しない程度にべノンについて行け。センは……まぁ、大丈夫だろ」


 そんな団長の言葉にコクリと頷き走り始める2人を見ながら、俺は団長に聞き返す。


「俺はリタイアした場合、罰ゲーム有るんですかね?」


「そうだろうな……まぁ、祈っといてやるよ」


 団長は俺に向かって合掌し、あっという間にミヨコ姉たちを追い抜くと、隊員達と同じペースで走り始める。


 ……くそっ。


「やってやるよ、くそ野郎っ」


 そう言って悪態をついた後、俺も全力で走り始めた。


 ここまで読んで頂きありがとうございます!

 もし面白いと思っていただけたなら、ブクマと↓の☆を付けて頂けると作者が泣いて喜びます。

 これからも何卒よろしくお願いします。

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