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第8話 黒翼の堕天使

「結局この辺り一帯をグルっと一周回ってきたけど、出口があるとしたらここしか無さそうね」


 シャーロットが眼前の扉を見据えながら、忌々しそうに口走ると、リーフィアが肩をすくめた。


「でも元々、センとシャーロットも一目見た時からそんな気がしてたんじゃない? ココしか道は無いんじゃないかって」


 ため息交じりにそう言われて、俺とシャーロットが「まぁね」と答えた。


 あんな仕掛けを作って、転移魔法で人を飛ばすような連中のやる事だ……安全な出口なぞ作っておいてくれるわけがない。


 2人と転移された先で探索すること数分で眼前の扉を発見したが、その内から漏れ出る威圧感――魔力量に躊躇した俺達は、一旦扉の前を通過して別の扉が無いか探して回った。


 だが結局探索して出会ったのは10体のリビングメイルだけで、分かったのはこのフロアがドーナツ状の通路となっており、行きつく先が眼前の異様な扉しかない事だけだった。


「しかし、うんざりする威圧感だな……」


 天使と悪魔を模した装飾が幾つも成された金属製の扉は、やや薄暗い場所である事も相まって不気味さを感じるが、中の威圧感はソレとは比較にならない。


――間違いなく、ナナのクローン以上の魔力量を持ったナニカが待っている


 そんな確信と共に、一度大きく深呼吸すると、気持ちを落ち着ける。


「作戦は?」


 シャーロットにそう問いかけられ、俺はニヤリと笑った。


「接敵直後から、ぶちかまして行く」


 そうして俺は、探索しながら考えていた大まかな作戦を、2人へと伝えていった。





「2人とも、準備は良いな?」


 そう問いかけた後、2人が頷きを返してくるのを見て、ゆっくりと巨大な扉を押し開いて行く。


 すると同時に、真っ暗だった部屋が俺達の入った扉の両脇を起点として、炎が順次ついていくと、室内の全貌が見えて来た。


 広い、百人は優に入れそうな円形の部屋には白い石が敷き詰められており、先ほどまでの部屋とは違う、静謐で冷徹な雰囲気を感じさせる。


 そんな景色を確認していると、ひとりでに扉が閉まり……肌が泡立つような感触と共に、禍々しい気配を感じて頭上を見上げて見れば、開いた天井部からソレはゆっくりと降りて来た。


「あれは……天使、なの?」


 そう言葉を漏らしたシャーロットの視線の先に居たのは、黒髪、黒翼の異様な恰好をした少女だった。


「……何なの、アレは?」


 思わずと言った様子でリーフィアがそう言葉を漏らしたのも、無理は無い。


 顔の大半を黒い布で覆い、視界を自ら塞いでいるだけでなく、拘束具によって固く縛り上げられた両腕は、自身の身動きすらも束縛している。


 だがソレの不気味さは外見に現れている物よりも、無作為にまき散らされている魔力の方が何十倍も上だった。


「……シャーロット、予定通りブチかますぞ」


 そうハッキリとした声で告げると、奴のおぞましい魔力に飲まれていたシャーロットに声をかけ、一度大きく深呼吸した後に奴へと視線を向ける。


「……ええ、分かったわ」


 俺達が戦う準備を整えたのに対し、黒天使はその黒い布越しに俺達を見下ろしてくるだけで、まるで攻撃を仕掛けて来る気配が無い。


 それは敵意が無いと言うよりも……俺達に対する、嘲りの色を含んでいた。


――俺達如きに負けるわけ無いってか? 上等だ、飛び切りの一発をくれてやる


 内心憤慨しながら、シャーロットと視線をかわし合うと、事前に詠唱を終えて手の中で荒ぶっていた同調魔法を……解放する。


 ――蹂躙せよ雷双四閃


 開放と同時に複雑に絡み合う魔法陣が固定され、紫電を纏い始めた。


 それを確認した黒天使が何かを察したのか動こうとするが……もう遅いっ。


 ――紫電槍双っ


 雷速で打ち出された極大の槍が唸り声を上げながら敵へと食らいつくと、そのまま壁面へとぶつかり、光の奔流と共に部屋全体を揺らした。


「直撃……よね?」


 直前まで防御や回避の素振りすらも無く当たった紫電は、間違いなく当たっていた……だが、蒸気が巻き上がる先に……どうしても奴が倒れている姿を想像する事が出来なかった。


「……」


 ナイフに雷撃を込めながら、ジッと煙が晴れるのを待っていると……ゆっくりと歩いて来る黒天使の姿が見える。


 流石に無傷とはいかなかったのか、所々が赤くただれていたがソレだけで、大きな傷を負ったようには見えない。


 そして先ほどまでと最も違うのは―拘束具が外れ、自由になった異様に長い左右の指先が露になっていた事だった。


「――来るぞっ!」


 8本のナイフを投擲するが……その時には奴の姿はかき消えていた。


――ギンッ


「ぐっ」


 気配を感じ取り、刀を抜き放つと攻撃を迎え撃つが……無造作にふるわれた爪の衝撃に、吹き飛ばされる。


「――剣嵐撃」


 地面を削りながら何とか踏みとどまっていると、その隙にリーフィアがこれまで溜めていた暴風の刃を、解き放つ。


 轟ッと言う音と共に、部屋中に嵐が巻き起こり地面を巻き上げるが……奴はソレを片腕で受け止め……もう片方の腕がゆっくりと振り上げられる。


「雷轟四閃、雷槍っ」


 シャーロットの声と共に雷槍が駆け抜け――同時、俺のナイフが奴目掛けて飛んでいくが、それらは漆黒の翼によって弾き落される。


「……でたらめね」


 俺達の方まで引いて来たリーフィアが、苦々しげに言葉を漏らす。


「だが、やれない事は……」


「――――ッ」


 ……ない、そう言おうとした所で、奴が叫声を上げると、その青白い肌に幾何学模様が浮き上がり、同時に爆発的に魔力量が増大して行く。


 全身の肌が泡立つ感覚と共に、俺は奴へと接近すると、その首元目掛けてナイフをふるい――直後、地面へと叩きつけられた。


「「決戦術式、解放」」


 リーフィアとシャーロットの声が聞こえると同時、2人の魔力量が桁違いに跳ね上がるが……続いて聞こえて来たのは、2人の悲鳴だった。


 視線を上げた先、俺が見たのは足蹴にされるリーフィアと首を掴まれて呻きを漏らすシャーロット。


――それを見た瞬間、俺の中のナニカがハジケる……


 腰のホルスターに入れていたブースターを二本引き抜くと、首へと突き刺してトリガーを引いた。

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