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第2話 到着、古代都市バルザン

 猫人族の御者に導かれるままに数十分馬車が走った所で、石造りの壁に囲まれた都市が見えて来る。


「ねぇねぇお兄ちゃん、アレが今日私たちの泊まる都市?」


 そうナナに問いかけられたので、俺は首を縦に振った。


「ああ、あれがアルデラ遺跡の外周に作られた都市、バルザンだな」


 古代都市バルザン――アルデラ遺跡を囲む外壁の外に作られた都市であり、遺跡の魔物から採取できる魔石によって栄えてきた都市でもある。


「そう言えば、あの都市にはどのくらいの冒険者が居るのかしら?」


 そうリーフィアに問いかけられて、事前に調べておいた内容を思い出す。


「確か時期にもよるが、数百人って書いてたな」


「えっ、そんなに多いと魔石の奪い合いになりそうだけど、その辺はどうなの?」


 不思議そうな顔で聞いて来るシャーロットに、肩をすくめる。


「実際、遺跡に入ってすぐの外周付近は他のパーティと競合する事も割と有るらしいが、中心部に行くにつれて徐々に人は減って来るらしい」


 魔素の濃い中心部程、魔物の強さが上がるのだから、無理せず魔石を手に入れたいなら、そうするのが適切であると言えるかもしれない。


 だがどの道俺達の今回の目的は中心部にある城――通称白城の中なのだから、幾ら外周に人が多くても関係は無い。まぁ、金は有っても困らないから、当然魔石集めはして行くが。


 そんな会話をしている内に馬車が減速していき、都市へ入る為の検問に差し掛かっていた。


「ソコの馬車止まれ……って、ラビット亭のキティじゃないか。その人たちはお客か?」


 門番に停止を命ぜられるが、どうやら御者をしているラビット亭――俺達の泊まる宿の女性は、門番の人と気安い間柄の様だ。


「そうにゃ、因みに後ろの人たちはお客様の護衛の人たちにゃ」


 近衛たちの馬車を女性――キティさんが指し示すと門番は頷き、軽い確認をした後に都市の中へ招き入れてくれた。


「ようこそっ、古代都市バルザンへ」


 そんな門番の人の気持ちのいい挨拶と共に、俺達はバルザンの中へと入り、その光景に目を見張った。


「……すごい、噂通りこの都市は、色んな種族の人たちが出入りしてるんだね」


 石畳で出来た大通りをゆっくりと進む馬車の中で、ミヨコ姉が思わずと言った様子で呟く。


 道行く人は俺達と同じ只人を始め、猫人族や兎人族などの獣人、ホビットやエルフ等の亜人、滅多に王国の中心部では見られないリザードマンや魔人らしき姿もあった。


「流石は亜人の国が近い、冒険者が主流の都市だな……」


「ここまで色んな種族の人たちは、私たちでも見た事無いよね?」


 ユフィが同意を求めて来たように、俺達は騎士団の任務の中で幾つかの都市を行き来したが、ここまで多様性の富んだ場所は今までに無かった。


「お待たせいたしましたにゃ、ここがラビット亭にゃ」


 その言葉と共に馬車が停止すると、扉を開いて外へ出た。


「へぇ……」


 俺達の泊まるホテルを見上げ、思わず声を上げる。


 普段この世界で見かける事が多い、前の世界で言うヨーロッパ風の建造物とは異なり、この都市特有の茶色がかった石造り建物は、俺達を魅了した。


「後ろの騎士様たちは私が馬屋へ案内するので、皆さんはソコから中へ入ってくださいにゃ」


 キティさんが指し示した木製の扉を開けると、外観とは異なりモダンな内装が広がっている事に驚きながら、受付の方へと歩いて行く。


「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」


 受付の女性にそう尋ねられ、事前に用意していた予約の証明書を手渡しする。


「本日から1週間予約している、セン・アステリオスです」


「かしこまりました、こちらでお調べしますので、しばらくお待ちください」


 そう言って受付の人がカウンターの奥へ下がってから数分で、再び受付へと戻って来た。


「確認が出来ました、6人部屋が1つと1人部屋が1つですね。お代については既に頂いていますが、夕食以外のお食事については別途料金が発生しますので、ご了承下さい」


「分かりました」


 事前に学院長を通してお金を支払ったおかげで、スムーズに鍵を受け取ると、丁度近衛達が入り口から入って来る所だった。


 その中の一人――ゼネットがリーフィアに一礼した後、俺の方へと近づいて来る。


「セン殿、改めて久しぶりですな。落ち合った時に何やら部下達が無礼を働いたみたいで、申し訳なかった」


「いや……まぁ、いいですよ。ヘイズの領地に行くときも一緒だった人たちですし、彼らには良くしてもらってますから」


 思わずそう苦笑しながら応えると、「かたじけない」と返してきたたので、気にしないでくれと手を横に振った。


 すると、受付から鍵を受け取った近衛の一人が歩いてきて、ゼネットへと渡した。


「俺達の部屋の番号はコレですが、そちらの番号は?」


「私たちの番号はコレですな、一応宿には姫殿下の隣を用意する様に言っていましたが、無事予約が取れた様です」


 確認してみると部屋割はリーフィア達の部屋が301、近衛達が302で、俺が204号室だった。


「別の階がもし不都合で有れば、我々の部屋に来ますか?」


 そうゼネットに尋ねられるが、俺は首を横に振る。


「もしもの時はそちらへ移動するかもしれませんが、今日と探索後しかここに泊まりませんので、このままで大丈夫です」


――何より、久しぶりの一人部屋を満喫したいって気持ちもあるしな


 思わずそう苦笑した後、皆も交えてロビーに集まり、緊急時の対応など幾つかの事を再確認し、その日はお開きとなった。





――コン、コン、コン


「……朝よ! 起きなさい!」


 ノックの音と共にそんな声が聞こえてきて目を開けると、石造りの天井が視界に入って来る。


 まだ眠気を感じ、大きなあくびを一つした所で……先ほどドアの外から声をかけて来たのがナナでもユフィでも、ミヨコ姉でもない事に気づき、思わず首を捻った。


「悪い、今開けるからちょっと待ってくれ」


 取り敢えずそう謝りながら扉へと近づき鍵を開けると、ソコには既に動きやすい私服姿に着替えているリーフィアとシャーロットが立っていた。


「おはよう、セン」


「ああ、おはようリーフィア……なんで2人がここに居るんだ?」


 思わずそう口走ると、シャーロットが頬を赤くした。


「別に良いでしょ、アンタが寝坊助だって聞いたから、わざわざ来てあげたんじゃない!」


「いや、まぁ、それはありがたいと思うが、てっきりナナやユフィあたりが来ると思ってたからな」


 苦笑いしながらそういうと、シャーロットはそっぽを向き、リーフィアはクスクスと笑った。


「確かに最初はその予定だったのだけれど、どうせだからと皆でじゃんけんして起こしに行く人を決めたの」


 今朝あった事でも思い出しているのか、リーフィアが笑顔でそう言った。


「ねぇセン、中に入っても良い?」


「ああ、別に良いぞ」


 興味津々といった様子でシャーロットが中を覗き込んできたのでそう返すと、リーフィアも一緒に入って来た。


 恐らく自分たちが泊まってる部屋と比べているのだろうが、特に物珍しくもないビジネスホテルの様な間取りの、特徴の無い部屋である。


その内飽きるだろうと考えて、部屋の中の散策を始める2人を放って、遺跡で使う荷物を改めて点検していく。


「ふーん、こんな風になってるんだ……ねぇ、学院の男子寮もこんな感じなの?」


「まぁ似たようなもんだが、2人で生活してる分だともっと狭く感じるな……というか寮に関しては、多分女子寮と大差ないと思うぞ」


「……そっか」


 洗面所から顔を出していたシャーロットがそう呟くと再度引っ込み、リーフィアと2人でキャイキャイ盛り上がってるんだが……そろそろ出て行って貰わないと、俺着替えられないんですが?

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