第24話 1学期の終わり
何だかんだで毎日寮で顔を合わせていたため、朝教室に行っても久ぶりと言う感覚は無かったが、事前に女子寮で会っていた女子とは違い、今日初めてアリアが復学した事を知った男子生徒達は一様に驚いた様子だった。
ジークも言っていたが、元々アリアが人気あった為か、一時は他のクラスや学年からまで人が見に来る始末だったが、彼女が車椅子に乗っている事を確認すると、殆どの生徒は気まずそうに教室を後にしていた。
「おい別のクラスの奴らは、いい加減自分の教室に戻れ。んで、お前らは終業式が始まるから、廊下に整列しろ」
そう担任のザック先生に言われ、皆で整列してる途中に、ティガースから話かけられた。
「もしかしてセンはんも、アリアちゃんが今日戻って来るって知ってたんか?」
ユフィ達がアリアと楽し気に話してるのを見ながら、そう問いかけて来る。
「まぁな、退院や入寮で重い荷物運んだりすんのはジークと俺が付き合ったし」
「成程なぁ……ワイも何か手伝えればええんやけどな」
ティガースが思いつめたような顔でそう言ったが、横から話に入って来たショータが首を横に振った。
「ティガース君の場合、ソレよりも明日から始まる補習の勉強でしょ? このままだと下手すると進級できないかもしれないよ?」
「いやや、もう勉強はやりたくないんや!」
そんなアホな会話を2人が繰り広げているのを見ながら終業式の会場――講堂に付くと、各学年の生徒達が集まり始め……夏休みを控えた生徒達による、やや落ち着きのない空気の中で終業式は始まった。
終業式自体は特に目新しい事も無く、入学式同様学院長は姿を現すことが無かった位で、お偉いさんからの有り難ーい話と、生徒会長であるレーナ先輩による挨拶により締めくくられた。
ただ話している途中で、レーナ先輩の視線が俺に向けられた様な気がしたのは、自意識過剰だろうか?
そんな事を考えながら教室へと再び戻って来ると、夏休みにおける注意事項や、学院での遺跡探索の斡旋等に関する案内、休暇中の教師との連絡の取り方などを説明された後、ザック先生が紙を取り出した。
「さて、全員教室に戻った所でお前らお待ちかねの成績表だ。出席番号順に呼ばれた奴から前に出てこい――セン、お前からだ」
そう言われて、大体察しのついている成績表を取りに行くと、成績表以外にも厳重に封蝋された封筒を渡される。
遺跡探索許可証と書かれたソレをためつすがめつ見ていると、ザック先生が説明してくれた。
「学院長からお前宛の遺跡探索許可証だ……くれぐれも無茶すんじゃねぇぞ」
「わかってますって」
軽く返事を返しながらも、手の中にある封筒がどうにも重く感じられながら自席に戻っていると、リーフィアに声をかけられた。
「その封筒の中身が、どうかしたの?」
「いいや、ただの探索許可証だよ」
そう返すと、さっさと自分のカバンへと封筒を突っ込み、成績表を開けて――そっと閉じた。
「今度は、どうかしたの?」
再度聞いて来たリーフィアの声は先ほどと違い楽し気だったので、肩をすくめる。
「思ってた通りの点数だっただけだ」
実技のある科目は5段階評価で5か4、ペーパーテストしかなかった科目は大体3と予想通りの成績だった。
「っと、リーフィア呼ばれてんぞ」
そうリーフィアに伝えてやると、速足で成績表を取りに行った。
その間に周りを見回してみれば、喜びを噛みしめるもの、悲嘆にくれるもの、友人と成績を競うものなど色々いた……だが、テストの点数さえ分かってれば大体の成績は分かっているので、周りに敢えて聞きに行こうとは思わない。
「センはーん」
「別に俺に成績見せても数字は変わらねぇぞティガース」
呪われそうな程どんよりとした声を出していたティガースを追い払うと、代わりにシャーロットが寄って来た。
「アンタ、成績はどうだったの?」
「別に普通だよ普通。見たきゃ、勝手に見れば良い」
そう言って成績表を渡すと、シャーロットが肩を震わせた。
「どうかしたのかよ?」
「……納得いかない」
「はぁ? 何がだよ?」
シャーロットがボソリと呟いたので、思わず問い返す。
「私より遥かに雷魔法が上手いアンタが、私と同じ成績はおかしいでしょ! 絶対何か間違ってるわ」
そんな事をシャーロットが喚き出すが、そもそも5段階評価で5の評価がついてるわけだから俺としては特に不満も無かったが――そう言えば、コイツはこれまで学校に通った事が無いから、その辺の仕組みが分かって無いのかもしれない。
そう思って説明してやった所、全く納得いって無さそうな顔をしていた。
「それでも明確に力量差が有るのだから、優劣はつけるべきだと思うわ」
「仮にそんな事したら、只でさえ酷いティガースの成績が更に無残に成るだろうが」
「……確かに、それもそうかもね」
俺達がそう言っていると、どこかからティガースのくしゃみする音が聞こえた。
「おいお前ら、一回席付け」
そう言われて立って居た生徒達が席に戻ると、再度ザック先生は夏休みの注意事項を説明した。
「夏休み中、多少はっちゃけるのは良いが、犯罪や面倒ごとには極力絡まない様に注意しろよ」
言いながらザック先生が俺の事を注視していたのは、気付かなかったことにする。
「それじゃあ、くれぐれも無茶だけはするんじゃねえぞ。じゃあ、また夏休み明けにな」
そう言ってザック先生が立ち去ると、部屋の中はまた騒がしくなった。
「ねぇねぇ、セン君達は成績どうだったの? ユフィの成績表見たんだけど全部5でつまらなくてさ」
「勝手に見といてつまらないって、酷くないアリア?」
ユフィとアリアがそんな事を言いながら近寄って来たので、アリアへ成績表を手渡した。
「あー、うんうん。これが普通の成績表だよね、ユフィの見てもしかして皆結構良いのかな?って思っちゃった」
「おいアリア、お前さりげなく俺の事バカにしてないか?」
「いやいや、滅相も無いですよ?」
ニヤニヤしながらアリアがそう言ってきたのに対し、再度文句を言おうとした所で、俯きながら別のクラスの女生徒2人が部屋に入って来て、アリアの方に近づいて来るのが見えた。
「えっと、アリア……さん、その……中々お見舞いに行けなくて御免なさいっ!」
二人の女生徒が同時に頭を下げるのを見ても、アリアは特に表情を崩すことなく笑顔で応えた。
「ううん、別に良いよ。皆忙しかっただろうし!」
そうアリアが返すと、2人は良かったと言った後、アリアをこの後の打ち上げに誘ってくる。……それを見ていたリーフィアが口を開きかけるが、ユフィが止めていた。
「ごめんね、今日は別の友達と約束してるから、また何かあったら誘ってねー」
「そっか、じゃあ又ね」
そう言って別のクラスの生徒達は足早に去って行った。
俺はその場で何とも釈然としないモノを感じたが、周囲の眼も有ったのでその場では聞かず、素早く帰り支度を済ませるとクラスメイトに軽い挨拶をして教室を出た。
校舎の入り口付近でミヨコ姉やナナと合流すると、アリアの退院祝いと打ち上げを兼ねた会場に向けて移動する中で、思わずアリアに聞いてみる。
「アイツらに対して、あんな対応で良いのか?」
……もっと言いたいことが有るんじゃないのか? そう思ったが、アリアは頷いた。
「別に、全員と親しい友人になる必要なんか無いしね……今、皆と楽しめてればソレで良いよ。それに、一応病院でも文通してた元クラスメイトとかも居たからね!」
そう言って笑うアリアは、思った以上に強い人だなと感じながら皆で会場に決めた喫茶店へと向かった。
――なおその後、退院祝いの会場で皆からのプレゼント攻勢にあったアリアは、喜びながらも瞳から雫を零していた




