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第8話 お兄ちゃん、私だって戦えるんだよ?

 ジェイル――団長に謝罪した翌日の朝、俺とナナ、ミヨコ姉の3人は朝5時に訓練場に集まって……そこで俺はナナを説得していた。


「なぁナナ、やっぱ訓練はやめた方が良いんじゃないか?危ないし、怪我するぞ?」


「イヤッ! そもそもお兄ちゃんとナナは、1歳しか歳離れてないんだよ? お兄ちゃんはナナの事を子供だと思いすぎっ!」


 そんな風に言われて、話は一向にまとまらない。


 後、ウチの妹が反抗期に目覚めて、お兄ちゃんは辛いです。


「まぁまぁ弟君も、折角ナナちゃんがやる気に成ってるんだから見守ってあげようよ」


「見守ろうとは思ってるけど……やっぱまだ早いんじゃない?」


「もうっ、お兄ちゃんの分からずや!」


 そんな言い争いをしていると、団長と副官の女性――ベノン・アルケマンさんが歩いてくるのが見えた。


「よっ、お前ら朝から兄妹喧嘩か?」


「おはようミヨコ、セン、ナナ」


「「「おはようございます」」」


 団長とべノンねえさんに皆で挨拶した後、俺は昨日の事を改めて問い正す。


「べノンね……副団長、俺やミヨコ姉はまだしもナナが訓練するのは早いですよ」


「お兄ちゃんっ!」


 俺はベノン姐さんにそう進言するが、ナナは一向に引く様子を見せない。


 俺が頑なにナナに訓練をさせたくない理由……それは、ナナが使徒化の実験により、体に時限式の爆弾を抱えているからだ。


 今直ぐにどうこうと言う話では無いが、ゲーム通りに進んだ場合、7年後にはナナルートでその問題が爆発する。


 それ以外のルートでは特に記載が無いが、それは未然に防いだというよりは、単純に記述が端折られただけとみるのが正しい。


 だがその事を人に伝える事は出来ない為、必死にナナを止めているのだが……。


「セン、てめぇの言いてぇ事も分からないではない。だが、妹の考えを一切聞かずに切り捨てるなんざ、男として余りにケツの穴が小さかねぇか?」


「ですが……」


 尚も俺が言いつのろうとすると、べノン姐さんが俺の肩をガシッと掴む。


「よーく分かった、どうしても退きたくねえってんなら、決着はコレでつけるしかねぇだろ」


 そう言ってべノン姐さんが拳を掲げ、隣の団長は頭を押さえている。


 ……えっ?この人脳筋過ぎません?


「単純にセンとナナが戦うのは、流石に分が悪いだろうしな……センは杖などの補助具なし、ナナにはオレの道具を渡した上でのタイマンでどうだ?」


「えっ、そんな無茶……「ナナはやるっ!」っつ」


 俺が断ろうとした所で、ナナが強く――芯の通った声でそう言った。そしてナナは、普段とは違う真剣な瞳で俺の目を見て来る。


「お兄ちゃんはナナの事も、お姉ちゃんの事も全っ然分かってない。自分だけ危ないことしようとして、ナナ達は守られるだけなんてイヤだよっ!」


 そう言われて、俺はズキリと心が痛む音がした。ダメ元でミヨコ姉を見て見るが、首を横に振った。


「ナナちゃんを、受け止めてあげて?」


 そう言われて俺は一回大きく深呼吸すると、頷いた。



「センは、杖なしでの戦闘は経験あるか?」


 べノン姐さんがナナの為の道具を持参してくるまでの間、俺のセコンドに付いた団長が聞いてくる。


「いえ、経験ないですけど……一応普段から練習はしてます」


 魔術用の補助具は杖に始まり、箒、本、指輪、剣など多岐にわたっているが、基本的に身に着けるものである以上、戦闘中に手放す可能性は0ではない。


 ゲーム中では防具破損や盗まれる事もままあったし、現実でもそれは変わらないだろう。故に、普段から練習はしているが……。


「なら説明するまでも無いだろうが、補助具無しでの魔法は変換効率が極めて悪い、大体2倍の魔力量がかかると思っといた方が良いだろう……そして面倒な事にべノンの奴は鎧も貸し与えるつもりだろうしな」


 やや苦々しそうに言う口ぶりに、俺は疑問に思ったことを問いかける。


「団長は俺の主張――ナナを訓練に参加させない事に賛成なんですね?」


「ん?まぁな」


 そう言うと団長は大きく伸びをすると、俺の目を見て聞いてくる。


「だってお前が強くなりたい理由、アノ子らのためだろ?」


 そう言って、離れている所で作戦会議しているミヨコ姉とナナの方を顎でしゃくって示す。


「まぁ、そうですね……」


「なら男として、必死に女を守ろうとしてる奴を俺は否定しねぇよ。まぁ、時と場合によるがな」


「そう、ですか」


 ゲーム内で出て来たジェイルと言うキャラクターは、イケメンで、言動がかっこよくて、普段はダラけてるけどやる時はやる男。


 そんな印象なせいで人気はあるけど、若干掴みにくいキャラクターだったが、こうして話してみると、やはり1人の人間として生きてるのだと実感する。


「オイ、こっちは準備出来たけどそっちはどうだ?」


 そう言ってべノン姐さんと、若草色の天空騎士団エアロリッターの鎧を身に付けたナナが此方を見て来た。


 持って居る武器は――槍、成長したナナが最も得意とした武器だ。


「こっちも大丈夫だ……しっかりやれよ、お兄ちゃん?」


 そう言って、団長が俺のケツを叩いてくる。


「団長にお兄ちゃんと呼ばれる覚えはありませんよ」


 そう言って手を振りながら団長から離れていくと、くつくつと笑い声が聞こえた。


「お兄ちゃん、ナナは絶対負けないからっ」


 ギュッと槍を強く握りしめ、俺を見返してくるナナに、俺は真剣に答える。


「ああ、俺もナナに負けるつもりは無い」


 そう言うと、俺達は手を出し合って握手した後に離れる。


「よしテメェら、ルールは簡単だ。この訓練用の守護球が完全に割れた方の負け、一発勝負で恨みっこ無しだ。質問はあるか?」


「「ありません」」


「よし、じゃぁ……始めっ」


 そうべノン姐さん言うと同時、空気を食い破りながらナナが突っ込んでくる。


「速いっ」


 俺は慌てて後ろに避けるが、繰り出された槍の追撃が脇腹を掠め、ピシッと守護球にヒビの入る音が聞こえた。


「オイオイ、速攻決着ついちまうんじゃねぇか?」


 そんな外野からのヤジが聞こえて来るが無視して、次々と繰り出される真っ直ぐな突きを躱し、時に魔力を纏った腕で弾いていく。


 俺とナナとの間に体格差は殆どない、加えて槍のリーチの違いが有ればその有利不利は明確だ。


 ナナの槍術は元々研究室でも教えられていたものであると、ゲームで記載されていた様に、からめ手などは無いが、こと突くと言う一点に限れば、既に大人顔負けの精度をしている。


「だからって、負けてやらねぇけどなっ。駆けろ雷撃、雷矢サンダーアロー


 転生して直ぐの時よりもスムーズに展開された雷矢が、ナナの胸元に飛び込んで行き――弾かれる。


「ちっ、やっぱその鎧出鱈目(でたらめ)だなっ」


 雷矢が飛んで来たナナは一瞬ひるんだが、何ともない事を確認すると再度突っ込んできて、一方的に俺の間合いの外から攻撃を加えて来る。


 ……そこからの戦いは、俺には反撃する間さえ無く、ただただ躱し、逃げるだけの防戦が続いた。


 何せナナの防御を抜けるだろう攻撃が、現状雷槍ともう1つだけであり、雷槍は今の俺では魔力量的に杖なしでは展開できないし、もう一つの手段は準備に時間が居る。


――故に、俺はジッと時が来るのを待ち続けた


「はぁっ、はぁっ……」


 間断なく攻撃を加え続けたナナの体力は見る間に減っていき、今では肩で息をしながら構えられた槍は、先端が震えている。


 そもそも幾ら魔力で強化され、鎧全体に重量軽減の魔法などがかかっていたとしても、鎧を付けた訓練をしていないナナでは、じきに体力の限界が来るのは目に見えていた。


 だから俺は、それをただジッと待ち続けた。


「オイオイ、男らしくねぇな」


 外野から――べノン姐さんからヤジが飛んでくるが、そんなものは無視だ。


「ナナ、もうやめよう。結果は見えてる」


 そう言ってナナに降参を促すが、ナナは首を横に振った。


「まだ……まだ終わってない。まだ、何もできてないっ」


 言葉と共に槍を突き出してくるが、単調で速度の乗っていない槍を俺が容易く躱すと、ナナがよろめいた。


「そうか……なら兄ちゃんが、終わらせるよ」


 言葉と共にせめて一撃で終わらせようと、魔法陣を展開していく。


 魔法の威力と魔力量は、基本的に等価だ。それは銃弾に込められた火薬の量と弾頭の大きさの様な物で、その法則が基本的にひっくり返る事は無い。


 だが、もし魔法陣を書き換えてやれば?


――丁度、弾頭に切れ目を入れる様に


 そうしてやると魔法は安定性を失う代わりに、瞬間的な火力を得ることが出来る様になる。


 ただ詠唱は長くなるし、命中精度や貫通力などは低下するため、有効な場面は多くない……だが、今に限って言えばこれ以上ない方法だ。


「獰猛なる雷撃よ、今ここに集いて剣を成し――」


――4つの魔法陣から展開された雷矢が、空中で一つに束ねられて形を成す


「その白刃を持って敵を穿てっ」


――激しい音を鳴らしながら顕現した剣が、眼前に立つナナを目標に据える


雷刃サンダーブレイドっ」


 満身創痍のナナには到底躱すことのできない速度と、質量で雷刃が射出され、それを見たナナは……笑った。


()()()()()、お兄ちゃん」


 そう言ってナナが胸元からナニカを取り出して雷刃に向けると――雷刃は跡形も無く消え去った。


「はっ?」


 俺の大半の魔力を使用して打ち出された魔術が、完全に掻き消えたのを見て、思わず間抜けな声を漏らす。


 それは、グンザークの時の様に弾かれたのではなく、正真正銘の消失だったのだから。


「お兄ちゃん、ナナを舐めすぎだよ。……ナナは、お兄ちゃんがそう来るだろうこと、ベノンさんに聞いて知ってたよ?」


「っつ……」


 ゆっくりと近づいて来るナナの奥で、満面の笑みで俺に中指を突き立ててるべノン姐さんに、思わず舌打ちをしたくなる。


「魔反射の鏡――1日1回しか使えないみたいだけど、今のお兄ちゃんには十分だよね?」


 俺の眼前……俺が絶対に躱せない距離にまで近づいて来たナナは、鏡を向けてくる。


「お兄ちゃんの敗因はナナを甘く見てたこと、だけどこれで分かったでしょ?お兄ちゃん、わたしだって……戦えるんだよ?」


 ――解放


 何処か悲し気な顔をしたナナの顔と、すさまじい勢いで迫って来る雷刃を見ながら……どこかで俺は、ナナの成長を祝福していた。

 ここまで読んで頂きありがとうございます!

 もし面白いと思っていただけたなら、ブクマと↓の☆を付けて頂けると作者が泣いて喜びます。

 これからも何卒よろしくお願いします。

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