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第8話 潜入作戦決行前

 晩さん会は、端的に言えば不愉快の一言だった。


 奴の視線も、匂いも、挙動も、容姿も全てが不快で有ったのだから文句の一つも言ってやりたくなったが、それでも一番近くに居て一番不快だったろうシャーロットが、普段の刺々しさを抑えて対応していたのだ。俺がとやかく言う訳にも行かないだろう。


「私、あの人嫌いだな」


 城を出た後、宿に到着して皆で集まると、ナナがぼそりとそう言った。


「実は私も、あの人はその……得意じゃないかな」


 ミヨコ姉が珍しく言葉を濁しながらも、批判しているのを聞いて思わず苦笑いするが、それでも柔らかい表現をするミヨコ姉にパーヌが驚いた顔をする。


「アンだけキモイ奴に、良くそんなお優しい言葉かけられるな。正直に言っちまえよキモ過ぎだって」


「ははは……」


 ミヨコ姉が空笑いする中、俺は食事中も一切食べ物に手を付けず、今も口元に手をあてて堪えているユフィの背を撫でる。


「悪かったなユフィ、あんな奴の内面を覗かせて」


 そう言うと、ユフィは気丈にも首を横に振った。


 奴が何を考えていたのか……それは分からずとも、覗き込んで決して気分の良いモノで無かったのは容易に想像できる。


奴のイメージをダイレクトに叩きつけられたユフィの心労は、下手をすれば一番距離的に近くに居たシャーロットさえも上回るモノだっただろう。


「事前にも説明してたけど、アノ男が最低の下種野郎だってのは、皆にも分かってもらえたと思うけど……肝心の鉱山の里の人たちが捕らえられている場所は探れた?ユフィ」


 普段より幾分柔らかい声でそう問いかけるシャーロットに、ユフィが頷く。


「城内の地下3階に有る牢獄で……尋問を受けてる筈」


「クソッ、アイツそんなものは知らないとか言いやがって! 真っ赤な嘘じゃねえか」


 ユフィがか細い声で告げると同時、パーヌが吠えた。


 分かってはいた事であるが、やはり奴は完全に黒だ……だが、幾ら奴に怒りを覚えた所で俺達が今ここで暴れた所でどうにかなる物でも無い。


――やるなら、正式なお題目が立ってから正々堂々叩き潰す


「逆に言えば連中は、現在存在しない筈の人間を捕らえている訳だ。なら俺達が救出しても何も言えないだろ」


 そう言うと、皆が頷いた。


「救出には当初の予定通り俺とユフィ、ナナの3人で向かう。ミヨコ姉はシャーロットとパーヌおよび馬車の護衛を頼んだ。作戦開始時間は深夜0時、3時を過ぎても俺達が戻らなかった場合、ミヨコ姉は俺達を置いて先にヘイズ領へ向かってくれ」


「ねぇセン、馬車の中でも言ったけど戻らなかった場合は私たちが救出に行くんじゃダメなの?」


 そう言ってシャーロットが聞いて来るが、首を横に振る。


「駄目だ、もしお前らが捕まった場合……政治的に取り返しのつかない事になる可能性が高いからな」


 シャーロットをこれ以上アノ男に近づけたら、何が起こるか想像も出来ないと言う気持ちも有る。


「他の皆は良いな?」


 確認の意味で問いかけると、みんな頷いてくれた。





 夜の帳も落ちた頃、泊っている宿を出ると、真っ暗な静寂が俺を出迎える。次いで生ぬるい風が頬を撫でる感触に、思わず顔を顰めた。


 空を見上げてみれば星は見えず、あるのは一面の曇り空。潜入する事を考えれば絶好の機会だが、どうにも気分までどんよりとした気分になるのは拭えない。


「お待たせ、セン。やっぱりこの格好は目立つかな?」


「いや、いいよ。どうせ監視の穴を突きながら進むんだ……もしもの時の為にも、その恰好の方が良い」


 宿の扉を開けて現れたのは、かつて出会った頃に着ていた物に近い、修道服を身にまとったユフィ。


 この世界はゲームの時の様に能力が数値化されている訳では無いため、厳密な能力の上昇値等はさっぱり分からないが、昔任務で聖光国に行った際に、光の祝福が施されている聖衣として手に入れたユフィ用の装備である。


 実際ユフィに何度かその服を着て治療して貰ったが、ほぼゲームの時と同等の能力アップが見込めていたので、目に見えないだけで一部効果が適応されている事が確認できている。


 だがゲームでは下手な甲冑よりも防御力も高かった布製の聖衣だが、この世界ではそんなバカげた話が有る訳も無く、強度に関してはあくまでも只の布の服だった。


「それとあの場では言えなかったけど……」


 そう言ってユフィに耳打ちされた内容に、ある程度予想していたとは言え思わず渋い顔になる。


「あっごめんなさい、ナナが最後だったんだ」


 そう言いながら現れたナナは、騎士団の緑色の甲冑を身に纏い、普段から愛用しているザンガ爺謹製の、紅色の槍を手にしていた。


「別に良いさ、時間に遅れたわけでも無いしな」


 時計を見てみれば、時刻は23:50。


 軽い準備運動と装備の点検を各自改めてしていると、もう一人宿から外に出て来た。


「ミヨコ姉、どうかした?」


 現れたのは、厚みの有る魔術書を片手に持った、魔道士服を着たミヨコ姉だった。


「うん、一応皆の見送りにね」


 不安そうな瞳で俺達を見て来たため、その頭を撫でた。


「心配するなって、2人の事は何があっても守るから」


 そう言って笑いかけると、ミヨコ姉が頬を膨らませた。


「もうっ、お姉ちゃんは弟君のことも心配してるのっ」


 手が近づいて来たかと思うと、デコピンを食らう。


「大丈夫ですよ、ミヨコさん。私たちがセンの事は見張ってますから」


「うん、私も監視してるから大丈夫! ミヨコお姉ちゃんはここでシャーロットさんと、パーヌさんを守ってて!」


「ありがとう、ユフィちゃん、ナナちゃん。私も頑張るね」


「……」


 そんな風に3人が固い握手を交わしてるのをみて、思わず肩を落としそうになる。


――そんなに俺無茶やりそうか?


 そんな事を考えながら時計を見てみれば、作戦開始1分前になっている事に気づき、声を出す。


「1分前だ。ミヨコ姉、改めて2人を頼む」


「分かった。皆も、本当に気をつけて……絶対皆で帰って来てね?」


 そうして俺達はミヨコ姉に見送られながら、城の潜入に向けて歩き出した。

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