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第4話 見えて来る事実、そして今の思い

「要は、ゲット伯爵家が最近鉱山を独占しようとしてる……そんな認識で良いのか?」


「まっ、簡単に言えばそんな所だな。その上鉱山の里の主要人物達が連中に捕らえられて、上層部は内輪もめしてる状態だ」


「なるほどな……」


 ただの山賊退治をしようと思ってたら、急激に政治的なきな臭い香りがし始めた。


 正直、こんな面倒な話に自分から首を突っ込むなんて、只でさえ問題を抱えてる俺には真っ平ごめんだったが、引っかかている点が2つある。


 まず1つ目は今回の件はゲームでは起こらなかった上、明らかに人為的な思惑が絡んでいる事。2つ目は、ゲット伯爵家がゲーム内でのシャーロットの嫁ぎ先だった事だ。


 前者については、ゲームと現実では違うから……というのも有るかもしれないが、2つ目は特に無視できない。


「それで、アンタラ鉱山の里の住人は、ヘイズ家に助力を頼みたいって事で良いのか?」


「ああ、やっぱザンガ爺の知り合いだな、話がわかるぜ」


 パーヌにそんな風に言われ方を竦めると、唇に手を当てて考え込んでいるシャーロットの方を見る。


「……私が今ここでどうこう言える話じゃないわ。取り敢えずお父様に話をして、判断を(あお)ぎましょう」


 そう言ってシャーロットが立ち上がり、馬車に戻ろうとしたが、リーフィアが話に割り込んで来る。


「正直私はこの国のこと……シャーロットの家も、ゲットなる家も、鉱山の里も知らないのだが、元々はそれぞれの軍事力ないし政治力はある程度拮抗していたのよね?」


「まぁそうですね、軍事面ではウチが、資金面では大きな港があるゲット家が、工芸品や武器・防具の面では鉱山の里が勝ってました」


 そうシャーロットが回答すると、リーフィアが首をひねる。


「であるならば、何故ゲット家はこんな強硬手段に出たのでしょうね?幾ら何でも鉱山の里の人間がいつまでも混乱している訳がないでしょうし、周りの領地から非難を受けるのは火を見るより明らかだと思うのに」


 ……確かに、言われてみれば何故こんな強硬策を取ったのかは妙だ。


鉱山の里の民が伯爵領の人間と比べて少ないだろうとは想像できても、伯爵家と対等な契約をかわしているんだ。10分の1程度の千人以上の人間が住んでいると考えるのが妥当だろう。ゲット家が、そんな集団の主要人物を襲ったからには襲う理由や襲っても問題ない理由が必ずあるはずだ。


「その答えの一端と思われるものを、アタイらは見たよ……」


 そう答えたパーヌが、寒気を抑える様に腕を擦っていて驚く。


 出会って間もないが、パーヌが豪放磊落な性格なのは容易に想像できる。そんな彼女が、怯える程のナニカがあるのか?


「一瞬だ。一瞬でうち等の中でも最高峰の装備を身にまとった護衛達が、なぎ倒された。……アレは、いびつな翼を生やした仮面の悪魔達だったよ」


 その言葉に、俺は思わず息を飲んだ。


「その悪魔って……もしかしてこの位の身長の少女か?」


 そう言って俺は自分の胸の当たり……丁度、ナナの頭が来る辺りに手を置いた。


 すると今度は、パーヌが目を見開いた。


「何でアンタが奴らを知ってる……まさか、アンタが」


 そう言って立ち上がろうとしたパーヌを、手で制する。


「逆だ逆。アイツらは……御使いの園の連中は、俺達の敵だ」


 そう言いながら、ナナとミヨコ姉を見ると2人も顔を強張らせていた。


「そう……か。悪い、早とちりした」


「いや、いいよ。俺達も重要な情報が聞けたしな。所でお前らはあんな所で、何であんな格好してたんだ?」


 思わずそうパーヌに問いかける。最初は山賊だと思っていたため、もっと掘っ立て小屋の様な物を想像していたが、洞窟の中を行きかう人々の身なりは街の人々と大差がない。だからこそ、男達のみすぼらしい恰好に疑問が湧いてくる。


「あー、それはゲット家の人間を襲ったのが鉱山の里の人間じゃなく、山賊だと思わせるためのカモフラージュだな」


「流石アネゴ、頭が切れるぜ!」


 そんな風に男たちが囃し立てるが、果たしてその行為にどれ程の効果があったのかは分からない。だが彼らが相手に構わず襲い掛かろうとしていたおかげで、ユフィの索敵に引っ掛かり、結果的に彼らにとっては良い方向に転がっているのだから、人生どうなるか分からない。





 その後俺達は、パーヌだけを引き連れて予定通りヘイズ家へ向かう事に成った。


 てっきりもっとお偉いさんの年よりが出て来るかと思っていたが、パーヌは鉱山の里の中では地位が高いらしく、彼女が交渉に行くと言ってもだれも止めなかった……明らかに交渉とかには向かない人材だろうに。


「そもそも、これから伯爵に会おうってのに、その恰好はどうにかなんないのか?」


 山賊時よりも露出度の高い、へそ出しのシャツにショートパンツ姿のパーヌに呆れながら聞くと、ニヤッと笑われる。


「なんだ、アンタ私の足がそんな気に成んのか?」


 そう風に言いながらパーヌが引っ付いて来ようとして、近くでミシリと音がした。


 音の下方を確認してみれば、ユフィが自身の持った棒を強く握りしめながら、口元を引くつかせていた。


「セン、貴方は女と見れば見境なく……」


 そんな風に、いつも通りユフィのお説教がまた始まるかと思ったが……今回は違った。


「アン?もしかしてアンタ、この兄ちゃんの事が好きなのか?」


 そうパーヌに問いかけられて、真っ白なユフィの顔が途端に真っ赤に変わった。


 それを見て、俺の顔も何となく熱い気がする。


「はっ、その様子を見る限りアンちゃんの方も満更でも……「それはダメっ!」」


 パーヌが勝手に結論付けようとすると、大きな声でミヨコ姉がそれを遮った。


「弟君には、まだれっ、恋愛とか早いよ!ねっ?ナナちゃん!」


 突如話を振り出すミヨコ姉に、ナナが目を白黒させている。


「えーっと、お兄ちゃんも年ごろだし私はしょうがないのかなぁとは思ってるよ?」


「でも、他人にお兄ちゃんは取られたくないんでしょ? ナナ達は放っておくと、いつもセンと出かけてるものね」


「にゃっ、なんでリーフィア様がその事を知ってるんですか!?」


「それは、私も何時もセンと出かけようと思ってるからよ」


 そう言ってフフッと魅惑的な顔で笑いながらこっちを見て来るリーフィアに、俺は思わずそっぽを向く。が、向いた先に居た頬を赤くしたシャーロットに、睨まれる。


「何鼻の下伸ばしてんのよ、気持ちワル」


「そう思うならわざわざこっち見んな、シャーロット」


 ふんっ、と鼻を鳴らし合ってるとカカカとパーヌが笑う。


「かーっ、思ったよりアンちゃんやるなぁ。何股かけてんだ?」


「俺は……別に誰かと付き合ってるわけじゃないよ」


 正直みんなと付き合いたいとは思ってるし、皆への好感度何てとっくに上限を突破してる。


 ただミヨコ姉やナナのソレは家族としての愛情が強いだろうし、リーフィアのソレは殆ど好奇心で、シャーロットはそもそも俺に好意が無いだろう……まぁ、ユフィの俺に対する気持ちは、一様分かってるつもりだ。


 だけど、今の俺にソレは許されていない。


 この世界に来て、皆に会うたびに感じる思い……皆を不幸から救いたい。


 そう強く思った気持ちに嘘偽りはない。


 仮に誰か一人と付き合ったからって、その思いが無くなるわけでは無いけれど、それでも今も抱え続けている様々な問題が解決するまでは、俺一人が幸せになるつもりも、心から幸せになれる気もしない。


「まぁ、皆の事は好きだけどね」


 だから俺は、そんな曖昧な答えしか返すことが出来なかった。

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