第2話 馬車に揺られるぶらり旅
機関車に2時間程揺られてヘイズ侯爵領の最寄駅まで来ると、事前にリーフィアに指示を出されていた近衛たちと合流し、昼食を取った。
その間に近衛たちとヘイズ領に到着するまでの方針について意見を交わし、事前に手配しておいた皇室用の馬車に俺達6人で乗り込むと、近衛たちは別の馬車へと乗って行く。
「そう言えば、シャーロットの家まで最寄駅から馬車でかなり時間かかるよな?」
本来であればシャーロットの家――ヘイズ城まで機関車で行きたい所だが、それは国営の鉄道が通っていないため出来ない。
であれば独自の鉄道を保有すれば良いとも考えるが、領内に自領の鉄道を保有する事が許されているのは、公爵以上の爵位が有る人間だけであるためそれもかなわない。
結果として、時間はかかるが領内の長距離移動では今もなお、馬車が頻繁に使われている。
「大体馬車で2時間位かしら」
「改めて長いな……」
「まぁね、ウチは色々有ってある公爵から嫌われてるから」
そう言ったシャーロットの顔は、渋いものであった。
とある公爵が特に、優秀な人材を抱えるヘイズ家を疎ましく思っているため、その力を削ぐためにも、鉱山に囲まれた彼らに輸送の手段を与えようとはしなかったのである。
そんなヘイズ家の実情に苦々しい思いを抱えていると、リーフィアが割って入って来た。
「そう言えばシャルの父君が、先日のクラス対抗試合に来てたらしいわね。感想とかどんな事を言ってたのかしら?」
そうリーフィアが尋ねると、唇に手を当てて考える仕草をしながらシャーロットが答える。
「えーっと、まず今年は全体的にレベルが高いって言ってたわ。ただ、誰かさんのせいでココに居る面子の実力を見れなかったことを、残念がってたけど」
そんな風に言いながらシャーロットにジト目で睨まれるが、俺の知った事では無い。そもそも皆が試合に出なくてもあれだけ忙しかったのだ、試合なんて出られたら目も当てられない。
「でも私は弟君の判断は、間違ってなかったかなと思うな。って、襲われた私が言ううのもなんだけれど」
苦笑いしながらやんわりと俺を支持してくれるミヨコ姉、マジ天使。
「ぐっ……諸々の話を聞いてると、私もそうは思うんですけどね。えーっと、他にお父様が言ってたのは、レーナ先輩の練度は、他の生徒に比べて頭2つ抜けてるって言ってました」
「まぁ、そうだろうな」
「正直、ウチの領内でも真っ向からやり合って先輩に勝てるって言えるのは、お父様とその側近たち位じゃないかしら……」
複雑そうな顔をして答えるシャーロットに、ナナが賛同する。
「確かに一番最後の技、凄かったですよね! お兄ちゃんはよくあんなの、正面から相手したよね。逃げ回ってれば勝てたんじゃないの?」
ナナが不思議そうに聞いてきて、苦笑する。
「まぁ逃げ回ってれば比較的楽に勝てたけど……それってカッコ悪いだろ? あくまでエキシビションマッチだしさ、多少は観客を盛り上げるのも大事だと思ったんだ」
おそらく、人によってはエキシビションマッチだろうと、全力であたるべき……そう言う人もいるだろうが、俺はそれが正解とは思わない。
戦争では無く観客が居る以上、客を楽しませ、自分も楽しむってのも、大事なことだ。
「あのレベルを相手取ってまだ余裕があるなんて……本当、アンタって出鱈目よね?」
「出鱈目って言う意味なら、ウチの団長には遠く及ばないし、この中だとミヨコ姉も大概だからなぁ」
そう言うと、ミヨコ姉が突然話を振られて、目を見開いた後ワタワタする。
「えっ、私なんて全然だよ。近接戦闘の授業何て、クラスでも真ん中位だし」
「いや、そもそもミヨコ姉に近接戦仕掛けられる人間の方が少ないでしょ」
「確かに、ミヨコさんの魔法は凄まじいわね」
「うん、ミヨコお姉ちゃんのは凄い」
元々騎士団で一緒だった俺達は、かつての演習を思い出し身震いする。ドーム状に全方位を魔法矢で囲まれた時には、翌日夢に見た。
「そう言えば、この中で1番と2番はお兄ちゃんとミヨコお姉ちゃんで良いとして、3番目は誰なのかな?」
そんなことをナナが言うと、馬車の中が夏なのに一瞬寒くなる。
「そう言う事なら、幼少期から厳しい訓練を受けてた私ね!」
「あら?幼少期から鍛錬していたという意味でなら、私も一緒よ?」
「シャル、リーフィア、2人は忘れてるかもしれないけど、私は現役の騎士団員でもあるんだから、2人にはまだ負けないわ」
最近愛称や呼び捨てで呼び合い、めっきり仲良くなった3人娘は妙な所で張り合ってた。
「3番手かぁ……」
俺も思わずつぶやきながら、少し真剣に考える。
まず魔法の面で考えると、他の追随を許さないミヨコ姉と、ゲーム内で出て来た雷魔法を一部を除いて取得済みの俺を置いておくと、少しシャーロットが勝っている。
4位はオールマイティに使用出来る風属性のリーフィアが来て、5位には魔法の練度的には勝っていても、光魔法が回復に寄っている特性上、戦闘に限れば不利なユフィが来る。6位はナナだが、年齢差もあるし当然と言えば当然だろう。
続いて肉体面だが、これは逆にナナが1番強いだろう。研究所時代からの下地がありつつ、日々真剣に槍と向き合ったおかげで、短槍・長槍問わず扱えて苦手な距離が0距離以外存在しない。後はリーフィア、ユフィ、シャーロットの順になりそうだ。
最後にその他の能力だが……ユフィの精霊眼が強すぎる。相手の行動が読めるという事は、未来を知っている事に等しく、勝つ為には団長……とまではいかなくても、ミヨコ姉レベルの1点突破による一方的な蹂躙じゃないと勝てる可能性が薄い。
よって、得られた結果は。
「1対1の戦闘に絞るならユフィだな」
そう答えるとユフィが顔を綻ばせ、2人の顔が途端に曇る。
「なんでユフィが1番なのよ! 私の方が戦闘魔法なら勝ってるし、それ以外のスキルも大差ない筈よ?」
「私もその決定には意を唱えるわ!」
「いやいや、お前らもユフィの眼の事は知ってるだろ? 単純にそれを突破すんのが難しいってだけだよ」
「「あー、確かにそうね」」
2人はすっかりユフィの特殊能力が頭から抜け落ちてたのか、すぐに納得していた。
――まぁ、能力について変に意識されてるよりはよっぽどいいか
……その後も、たわいのない会話を続けていたが、シャーロットに聞いておきたいことが有ったのを今更ながらに思い出す。
「ゆう――暁の調子はどうなんだ?」
そうシャーロットに主人公の件を問いかけると、悲し気な表情をした。
「まだ意識が戻らないみたい。一応悠斗の妹の茜からも話を聞いてるんだけど、正直なんで目覚めないのか分からない状況だって。体だけは前から丈夫だったのに……」
そんな風に落ち込むシャーロットを見てやらかした……そう思っていると、ユフィに耳元で囁きかけられる。
「この先、待ち伏せされてる。2時方向」
その言葉に思わず目を見開きながら、問い返す。
「相手の人数は?」
「30人、この感じは多分山賊だと思う……どうする?」
「……仕方ない、連中には痛い目を見てもらおう」
そう言うと、御者に馬車を止める様に告げる。
「さっきから二人で話して、何かあったの?」
シャーロットがやや強張った顔で聞いて来たので、敢えて笑う。
「大した話じゃないんだが、大型の獣が近くに出たらしくてな。危ないからちょっと狩ってくる」
「熊ぁ?それなら私たちも……」
「シャル、辞めといた方が良いと思う。野生動物は舐めてると危ないから」
そう言いながら、ユフィがシャーロットを止めてくれる。
――コンコン
ノックと共に、近衛が「急に止まったが、何かあったのか?」と問いかけて来たので、皆を置いて外へ出る。
「山賊がこの先で待ちぶせしてると思われる」
「なんだと!? じゃあすぐにここから離れなければ……」
「いや、近衛の人たちはリーフィア達を頼む。俺が連中を狩って来る」
ナイフの調子を確認しながらそう言うと、近衛の一人が驚いた顔をする。
「一人でか?」
「一人でだ。悪いが、皆の事を頼んだぞ?」
そう言うと俺は未だ疑問を投げかけていた近衛を置いて、進行方向右側の森の中へと入って行く。森の中の様な入り組んだ場所で、俺達を待ち受けていた事を相手には存分に後悔して貰おう。
そんな事を考えている内に、薄汚れた甲冑を身に着けた男たちが見えて来た。
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まだまだ作者として至らない点も有りますが、これからも何卒よろしくお願いします。




