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第22話 戦いの後

 グェスと戦って約一週間が経ち、ジェイもすっかり元気になった頃、俺は団長から呼び出されていた。


「今回のグェスとポーリーの捕縛、改めてご苦労だった。お陰でグランドリー家との交渉も楽に行うことが出来た」


 そう言って告げられたのは、グランドリー家の顛末。


 これまでも贈賄や麻薬の密売等で王家からマークされていたグランドリー家だったが、今回聖堂教会の人間を襲ったことで国内屈指の規模を誇る宗教団体から明確に敵対された他、陣営深くに入り込んでいた天空騎士団の内部告発などが積みあがった結果――グランドリー家は断絶となった。


 何故小さい街はずれの寂れた場所とは言え、騎士団が護衛する教会へ放火などと言う行為を行ったのか、そもそも連中が何を探していたのについては未だ分かっていないと言う。


「……という事は、俺達がポーリー達を捕まえた事は大勢には影響しなかったんですね」


 もし仮に自領土へ逃げていたとしても、放っておけば、どの道処断されていた……そう言う事なのだろう。


「確かに、結末自体は変わらなかっただろうな……ただ」


「ただ?」


「俺たち天空騎士団の人間は、仲間の仇を討ってくれたお前らに感謝しているよ。ありがとう」


 そう言って団長が真摯に頭を下げている姿を見て、思わず鼻の頭を掻く。


「そう言えば、ポーリーとグェスはどうなったんですか?」


 思わずそう尋ねると団長は、やや渋い顔になった。


「ポーリーは、あれでも元侯爵家の長男だからな、短い投獄だけで今後は平民として生きていくだろう……代わりにグェスは即日処刑された」


 処刑――その耳慣れない単語に、思わず背筋が寒くなる。


「グェスは今回の事だけじゃなく、グランドリー家の暗部に深く関わってたからな……グランドリー家以外の人間も、要らない事を漏らされる前に殺しておきたかったんだろう」


 苦笑いする団長の言葉に、俺も思わず苦い顔になる。グェスは碌な人間ではなかったが、上層部の人間の思惑によって人が1人殺されるのは、やるせない気持ちになる。


「とまぁ今回の結末についておおむね話したが、他に何か質問はあるか?」


 そう聞かれて、俺は直ぐに疑問が湧いてくる。


「ユフィ達は、この後どうするんですか?」


 ユフィ達は事件以後寮の客室で生活しており、それも最近馴染んできたのか、ユフィはべノン姐さんやミヨコ姉と、シスターは医療スタッフの方々と話している様子を割と見かける。


「シスターに関しては本来もう引退される筈だったからな、直に実家へ帰省されるそうだ。ユフィに関しては別の教会へ派遣される予定だったが……結局ウチが引き取ることになったよ」


 そう言われて思わず目を見開く。元々嘱託にするという話だったが、まさか本格的にウチで預かる事になるとは。


「シスターと本人からそれとなく聞いているが、彼女は特殊な体質の様だけれど、ウチにそんなことを気にする肝っ玉の小さい奴もいないし、何より同年代のお前らが居るからな」


「確かに、ココの人たちは良い人が多いですね」


 思い返してみれば俺が入団して未だ2か月くらいしか経ってないが、ここの人たちは初めから身寄りのない俺達を快く受け入れてくれていた……それは、俺だけじゃなく、ミヨコ姉やナナにとっても有難いことだった。


「まぁそう言ってもらえると、団長の俺としても嬉しいよ。そうそう、今晩ジェイの復帰祝いとユフィの入団祝いをするから、そのつもりでな」


「了解です」


 そう言うと俺は執務室を出て、突き抜ける様に青い空を見上げた。





「で、ユフィの入団祝いを買おうと思うが、何がいいと思う?」


 今日は休日という事も有り、賑わう大通りを歩きながら、隣にいるミヨコ姉とナナに問いかける。


「弟君がお休みの日に誘ってくれたから何かと思ったら、ユフィちゃんのことだったんだ……ふーん」


 何故か口を尖らせた様子のミヨコ姉に睨まれたので、ナナの方を見る。


「ナナはね、ユフィお姉ちゃんにお手紙送るよ!何時も色んな話を聞かせてくれてありがとうって」


 そう言いながら、ユフィは文具店で買った女の子らしい装飾の付いた手紙を見せて来る。


 ユフィは普段常に目を閉じているにも拘らず、読書家であるため、ナナに夜な夜な本の読み聞かせなどしているそうだ……うん、俺もやってほしい。


「ミヨコ姉は何贈るの?」


 改めてそう問いかけると、ミヨコ姉はまだ拗ねた顔ではあったものの、回答してくれる。


「私はちょっとしたネックレスを」


「……ミヨコ姉はネックレスか、そうなると装飾品は無いかな」


 ユフィは何だかんだで髪飾りを毎日付けてくれているし、また装飾品を贈ろうかとも思っていたが、この調子だと姐さん方からも贈られる可能性もあるし、装飾品は避けた方が良さそうだ。


「となると、ブックカバーとか?」


 趣味に則した物なら、そう外れは無いかと思い案を出してみるが、ミヨコ姉が渋い顔をする。


「あー……ブックカバーは先日べノン姐さん達が贈ったのを、気に入って使ってたよ?」


 そう言われて思い返してみれば、先日ロビーでこれ見よがしに革製のブックカバーを付けた本を読んいるユフィを見かけた気がする。


 ……その後に話しかけた時、機嫌が悪かった気がするのは、話を振らなかったせいか?


「そうすると、どうするかなぁ」


 当ても無くぶらぶらと大通りを歩いていると、一件の文具店が目に入って来る。


「お兄ちゃんもお手紙にする?」


 そうナナが問いかけて来るが首を横に振り、俺は別の物を手に取った。


「これなんか悪くないんじゃないか?」


 俺はある商品を手に取ってミヨコ姉とナナに問いかけると、2人からも賛同を貰い、即座に店でラッピングしてもらった後、3人で仲良く寮まで戻った。


 ……そしてその日の夕方、前回とは異なり俺達を含めた手すきの隊員の皆で、パーティの準備を進めていた。


「違う違う、そっちの看板もっと右だ、あーっ、行きすぎたボケ」


 そうやってべノン姐さんに暴言――もとい指示を飛ばされながら、会場設営をしていると、一人の爺さんが目に入る。


「ジル爺が武器庫以外にいるの珍しいね、爺さんも今日のパーティ出るの?」


 そう聞くと爺さんが眼光鋭く、睨みつけて来る。


「お前の爺さんになった覚えは無いわい、ただまぁ……ジェイの坊主とは昔馴染みだがらな」


 そう言いながら白髪をかく爺さんに、思わす口角が上がる。


「そう言えば坊主、新調した武器の調子はどうなんじゃ?」


 ふと思い出した様に爺さんに言われて、新しくなったナイフ……柄の部分に黄色い宝玉の付いたナイフを撫でる。


「コイツの調子は凄くいいよ……だけど、宝玉付きの武器ってそれなりに値段するんじゃなかったっけ?」


 そう思いながら問いかけると、爺さんが鼻を鳴らした。


「その宝玉は元々ナナお嬢ちゃんが持ち込んだもんじゃ」


「ナナが?」


「ああ、坊主も見覚えある筈だと嬢ちゃんは言っておったぞ」


 そう言われて思わず首を傾げる……宝玉、宝玉、あっ研究所で見つけた杖に付いてた奴か!


「じゃから別に金はたいしてかかっとらん、ただ一点ものじゃから次は壊すんじゃないぞ」


 爺さんにそう言いながら睨まれて、俺は肩を竦める。なんせ前回柄だけになったナイフを持って行った時、盛大に怒られたからだ。


「おい、セン、サボってんじゃねぇぞ」


「すいません、今行きます!ジル爺、また後でな」


 そう爺さんに言い残すと、俺はご立腹なベル姐さんの下へ走って行った。





 その後会場の設営は滞りなく行われ、パーティは開始された。


 速攻で「俺はついでかよ」っと叫ぶジェイが隊員達にもみくちゃにされる些末ごとが起こりつつ、ユフィへのプレゼントタイムが始まった。


 ……前回俺は此処で男の先輩方から着古したジャージ等を頂いたが、今回俺は贈る側でかつ、まともな物を買ってきたつもりだ。


「じゃあ次はセンからのプレゼントだ」


 そう言って団長が取り仕切る中、ひな壇の上に立つユフィと正面で向かい合う。


「……こんなイベント開いてもらえるなんて、夢みたい」


 そんな風にユフィが、皆から貰ったプレゼントが並べられた机を見て言う。


「誕生日とか祝ってもらえなかったのか?」


 そう問いかけると、ユフィは首を横に振るが少し苦笑いする。


「私は基本的に外出れなかったから、お祝いはおばあ様と2人でひっそりとやっていたわ」


「そうか……じゃあ、これからはこれまでの分も楽しめよ」


 そう言いながら、買ってきたプレゼント……細長い箱を渡す。


「開けてもいい?」


 そう聞かれたため黙ってうなずくと、ユフィが丁寧に包装を解いていき――中から、一本の羽ペンが現れた。


「わぁ……綺麗」


 そう言って掲げられた羽ペンは銀色に輝いており、彫り込まれた細工が灯りを反射して水色に光っていた。


「まぁなんだ、これからシスターに手紙とか書くだろうからさ、その時にでも使ってくれ」


 頭を掻きながらそう言うと、ユフィが俺を覗き込むように中腰になりながら、口を開いた。


「センっ、ありがとっ」


 輝く様なその笑みを見て、俺は改めて皆に感謝した。

 ここまで読んで頂きありがとうございます!皆様のお陰で本作品が異世界転生のファンタジー部門で231位に入る事が出来ました!改めてお礼申し上げます。


 また、本作品が面白いと思っていただけた方がいましたら、ブクマと↓の☆を付けて頂けると作者が泣いて喜びます。


 まだまだ作者として至らない点も有りますが、これからも何卒よろしくお願いします。

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