異世界に転生したら、悪役令嬢の兄になったので、家の有り金全部でガチャしてみた。
俺の趣味は闇ギルドのガチャ場でのガチャだ。
俺を貴族として裕福に暮らさせてくれる両親。そんな両親の代わりに俺の面倒を見てくれたメイドのリサ。俺のいもうととは思えないくらいかわいい妹のラセリー。そんな俺にとって大事な人達の顔が浮かんだ。
この金を使ったら、きっと皆はもう貴族でいられないし、何よりもうガチャが出来なくなる。
俺の中の天使も、悪魔も頭を指差しながら声を揃えてお前は馬鹿かと言ってる。本当に大事なものはなにか分かっただろう…と。
ああ、そうだな。俺は一筋の涙を流し、
「おじさん、やっぱり「今日は非常にレアなエルフの娘が入荷したよ」なに!? ガチャやる!」
………………。
結論から言うと、エルフは当たった。あと、有り金全部消えた。一文なし。
俺はカードのエルフを見た。本当にこいつを俺の残りの人生全てのガチャを犠牲にしてまでゲットする価値があるか? いや、無い。
俺は頭を悩ませた。
誰かに高く売りつけられないものか…。
カーキンはトボトボと裏路地を歩きながら脳みそをフル回転させた。
その姿を見た浮浪者は、カーキンを襲うどころか、肉を狙う肉食獣じみた気配を察知し勝手に離れていった。
エルフ好きの脂ぎったおっちゃんは…ダメだ、最近うさ耳族の獣人を買って金欠と言ってたな。
ロリコンの同性愛おばさんは、ダメだ。こっちも最近、いい感じのロリをガチャで手に入れたと言ってたな。
えー、どうしよう。もうガチャ出来ないや。
カーキンは、泣いた。もうわんわん泣いた。金の匂いに敏感な裏路地の住人たちは、一文なしのクソガキに手を出す暇を持ち合わせて無かったので、まるでそこには何もないかのように人々はカーキンを無視して通り過ぎる。
やがてカーキンの涙も枯れ、見る人が見れば、FXで貯金を全額溶かした人と同じ顔をしていた。
ふと、ポッケにあるエルフのカードを触った瞬間、カーキンに電流が走る。
いる、一人。エルフ好きの知り合いがいる! アイツからボッタクろう!
するとカーキンは、スキップしながらそいつの家へ向かった。
カーキンは後戻り出来ないので、現実から全力で目をそむけている。
「おーい、マルクルー!」
マルクルは貴族だ。
しかし他人に隠している秘密があった。それは、自身がエルフの王子であること。
彼は遠い昔妹と仲睦まじく暮らしていた。しかしながらそんな時間はは長く続かない。ある時、マルクルは精霊の森へ向かう。そこで一人の精霊と恋に落ちる。が、その精霊は嫉妬深く、仲睦まじい兄妹を、引き裂いた。妹を異次元へ飛ばし、マルクルを独占しようとしたのだ。
マルクルは絶望した。妹を失ってしまったことと、こんな事をした精霊をまだ愛している自分にだ。
結局、マルクルの住む森は人間に焼かれ、マルクル達エルフの一族は人間社会に溶け込み、復讐の機会を伺っていた。
「おーい! マルクルいないのか? いてくれー! そして金をくれ!」
「何だこんな夜中にうるさい奴め」
マルクルは、カーキンの事を嫌いでは無かった。嫉妬深い精霊が四六時中マルクルにまとわりついているため、大抵の人間もエルフも近寄って来やしない。然しカーキンはまるで精霊が見えていないかのようにマルクルに接してくる。人との温もりに飢えていたマルクルは、カーキンをなんか変わってるけど良い奴との高評価をしていたのだ。
だから深夜に尋ねられたところで屁でもない。むしろ、これから遊びに誘われるのかな等と考えている始末である。
因みに精霊は、以前魔力を吸う剣と戦い、体の半分を持っていかれたことがある為、その剣と全く同じ状態の男。体から全く魔力を漏らさないカーキンに恐怖していた為。今は、家でお留守番中である。その精霊いわく、どんな人間、膨大な魔力を持つエルフでさえも、エルフで最も魔力を持ち、完璧に制御しているマルクルでさえも僅かに魔力を体から漏らしているという。
「見てくれマルクル! これ買ってくれたのむ!」
「なんだこ……………………………れ………は………」
カーキンが持ってるカードに、描かれているのは、間違いない。いや見間違いであるものか。過去の全てを忘れたとしても必ず取り戻すと誓った妹の姿ではないか。
通常。精霊に異次元に飛ばされた生物は死ぬ。しかし稀に、溜まり場の様な場所に留まる事がある。そこで高濃度の魔力で一瞬にして圧縮されたモノがカードとなり、ガチャ場に出回る。エルフはどんなエルフであっても最高レアとして扱われる。しかもガチャ場で最高レアを当てる確率は、例えるならば3度生まれ変わってもおんなじ人を好きになるぐらいの確率。つまりゼロだ。
だがしかし稀にこの確率を突破するものが現れる。それを言葉で表せるならば、運命力がキチガイ。そう、運命力がキチガイとしか表現出来ないのだ。
それが今。目の前にいるカーキンなのだ。運命力のキチガイなのだ。
「そのカードは買えないよ」
なんとか口から言葉を紡ぐ。ホントは今すぐ妹を出してやりたいが、カーキンならば、安心して任せられる。運命力がキチガイなのだから。
その言葉に吐き気を催したのはカーキンその人である。
「え、エルフ好きって言ってた! 言ってた!」
カーキンは語彙力を失った。もし、マルクルが買ってくれなければ、こんなエルフ誰も買いやしない。
悲しいことに、人間、ひいてはカーキンは、異次元だとか、ガチャのシステムだとかに全く興味がない。ただガチャを引くことだけを楽しみにし、最高レアを当てた瞬間。夢が冷め、現実に戻る。そして残りの残高を計算する。明日生きていけるか、明日ガチャが、出来るのか。
「じゃあ、アゲル。俺これいらない」
カーキンはショックのあまり正常な判断もできなくなっていた。最後の希望が打ち砕かれたからだ。
トゥンク。一方マルクルは心臓を高鳴らせた。この人間の友カーキンはこんな貴重なモノを私にくれるというのか。いや待てよ。思えば最初会ったときからカーキンは変だった。
私だけをまっすぐ見て、「お前誰?」と聞いてきたのだ。今まで、私だけを見て言葉をかけてくる相手など居なかった。以前は魔力、精霊が取り付いてからは精霊に意識が持っていかれる奴ばかりだった。
もしかして、カーキンにとっても私は特別な存在なのではないかと言う思いが、マルクルの、胸の内から溢れ出す。
「カーキン、もしかして俺達親友か?」
一方カーキン。突然の親友発言に若干の混乱を隠しきれないものの、続くマルクルの言葉で、全てが救われる。
「俺達は親友だ! そうだろ!
だからなんでも相談してくれていい!!」
「金くれ!」
こうして、カーキンはエルフのカードを持ったまま、家からくすねてきた全財産分の金をマルクルから貰うことができた。これ以来、両親から、課金と言う行為を行おうとした瞬間、死ぬほど痛い苦しみを味わう呪いをかけられ、妹からは軽蔑され、リサは俺の前には二度と姿を見せなくなった。
しかし、マルクルと奴隷のエルフだけはそばにいてくれましたとさ。めでたしめでたし。
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