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−日本転移− 防衛魔術学校の英雄譚  作者: 空条承太郎
動乱編
9/33

目覚め②

『はい。しかし正確に言えば私がパンドラではなく、私はパンドラの一部に過ぎません。…それと私の事は枢要アリスと呼んで下されば嬉しいです』


アリスと呼んで欲しい。――少女は自分に向けられる大和の視線を真っ直ぐに見つめ返しながら、若干頬を朱に染めて真面目な様子でそんなお願いをする。



「…え、えーっと」


しかしそんなお願いをされて大和は戸惑う。特に異性からモテていた過去なんて持っておらず、異性に対する免疫なんてゼロに等しい思春期の少年。それなのに初対面の女の子――それも一際目立つ美少女をいきなり呼び捨てする事にむず痒い抵抗があったから。



『……』


「うっ…」



そんな戸惑う大和を黙って見つめるアリス。心なしかジリジリと座りながら身体を動かして大和ににじり寄っている。

端に座っていた大和は立ち上がるしか逃げ場はなく、けれども立って場を濁すのは真面目にお願いをする少女に対して失礼。と、むず痒い気持ちをなんとか胸の内に押し込め、大和は勢い良く首を縦に振る。



「わ、分かったよ。…あ、アリス」


『――ありがとうございます、マスター。…それではとても名残惜しいですが、時間がもう少ないので私に付いて来て下さい』


「…んっ。よく分からないけど、ここまで来たら最後まで付いて行くよ」



心から嬉しそうに笑顔を浮かべるアリス。そんな彼女は大和に小さくお辞儀をすると席から立ち上がり、そして何故か裸足である彼女はもう一つの車両の方に向かって車両の中を歩き出す。

付いて来てと頼まれた大和も席から立ち上がるとリュックを背負ってアリスの言葉に従い、そのまま彼女の小さな背の後に付いて行く。


そして前を歩いていたアリスは車両の連結部の扉の前で立ち止まった。その後ろに居た大和は立ち止まった彼女の横隣へと移動して顔をアリスに向ける。



「どうしたの立ち止まって。向こうの車両に行くんじゃ?」


もう一つの車両に行くと思っていた大和は隣のアリスにそんな事を尋ねてみた。



『…いえ、用があるのはこの扉です』


「?」



アリスは目の前の扉を見ながら大和の問いに答える。大和もつられる様に視線を扉の方へと向けて見た。

しかし大和は目の前の扉がどう見てもただの古びた鉄製の扉にしか見えなかった、電車の車両と車両の間を繋ぐ何の変哲もない扉。



『では始めます――発動』


「んっ?…⁉」



大和は上から下まで隅々見ていた扉から目を離し、何かを唱える様に呟いたアリスの方に再び顔を向ける。見ればアリスの綺麗な琥珀色の瞳は燃え盛る様な紅き瞳となり、全身が薄く淡い光に包まれていた。―――そんな不思議な現象が目の前で起こっており大和は思わず息をのんでしまう。



『…マスター、私の手を握って下さい』


「あっ…う、うん」



大和は場に呑まれ、何の抵抗もなく無意識の内に差し出されたアリスの手を握る。そしてアリスがその手をぎゅっと握り締めると彼女を包み込んでいた薄く淡い光が握り締めた手を通して何故か大和の身体の方へと徐々に移動していく。



「な、何これ⁉」


『少しだけの間マスターの頭が痛むと思いますが、どうか辛抱を』


「えっ?…っ!」


『――マスター認証、確認完了。信号変換によりβ-エンドルフィン数増加、変性意識状態へと移行。オレキシン作動性ニューロン増幅、オレキシン増幅完了。伴い伝達による覚醒完了。術式解除プログラム構築…構築完了。第六之扉ベルゼギュラ解除。暴食者之晩餐アヴァド発動可能状態へと移行――移行完了』


「ぅっ!った…」



大和はまるで脳みそを鷲掴みされ勢い良く揺さぶられている様な、そんな激しい頭痛とそれに伴う吐き気に襲われ思わずその場で踞ってしまった。

アリスはそんな大和の姿を見ても掴んだ手を握ったまま、逆に更に力を込めて握り締める。


やがてアリスを包んでいた光が大和の身体に全て移動するとその光は大和の身体に吸い込まれていくように消え去った。するとアリスの紅くなっていた瞳は元の琥珀色へと戻り、握り締めていた大和の手をそっと離した。



「――…おぇっ。つっ。…い、今のなに?」


すると頭痛が治まったのか大和はこめかみを指で抑えながら膝に手を付いてゆっくりと立ち上がり、込み上げる吐き気を押し殺しながら少し強めの口調になってアリスを見る。



『――…すみませんでした、マスター。私に残された力で自力で扱えるものが第一之扉アディスギュラしかなく、此処からマスターを出す為にマスターの自己之世界オリジンを私に繋げました』


「えっと…アリス、君が何を言ってるのか分からないんだけど?」



相変わらず大和の理解不能な事を淡々と喋るアリスは深々と頭を下げた後、一瞬…大和が気付けなかったほんの一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべていた。そしてそんな不満気な大和を尻目に扉に向き直ると、唐突に両手の手の平を扉に当てる。



「なにして…『…マスター、今は何も分からずとも構いません。けれども一つだけ覚えておいて下さい』


何をしようとしているのか聞こうと思った大和の言葉を遮って、アリスは扉を見たままはっきりと強い意志を込めて大和に思いを伝える。



『…この先何があろうとも、私はずっと貴方の味方です』


「えっ?」



大和はアリスの何か悲壮な決意に満ちた横顔を見てどういう事なのかと首を傾げた。

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