始まり③
「…おっ!ラッキー。やまとっち、最上階の一緒の部屋みたいやで」
「えっ?あ、ホントだ。505号室か」
二人は黙って部屋割りの紙を確認していき、少しした後に甚八はパチンッと指を鳴らして嬉しそうにしている。大和も甚八の言った部屋番号の最上階の部屋割りの欄を見てみると、確かに505号室と書かれた部屋番号の下に自分達の名前が一緒に枠で囲われているのが確認出来た。
「ふむ。最上階ならば玄関を入ったら目の前にエレベーターがあるからそれに乗ると良い。…それより入学式がそろそろ始まるから、急いだ方が良いんじゃないか?」
「――って、うぉっ!もうこんな時間かいな。急ごうで、やまとっち!」
老人に言われ甚八は手首に巻いていた黒色の腕時計で時刻を確認する。するといつの間にか予想以上に時間が過ぎていたのか慌てた素振りで隣の大和の肩を叩く。
「…えっ!ホントだ!」
大和も甚八が見せて来た腕時計に目を向けると同じ様なリアクションになり、二人は慌てて老人に貰った紙を折り畳んでポケットにしまうと老人に礼を述べて建物の玄関へと小走りで入って行く。
「…ふむ。駄目なのかの」
二人が玄関へと入って行った直後に椅子に座っていた老人は振り返り、リュックサックを背負った二人の後ろ姿を見ながら残念そうにポツリと呟く。
無論、二人は老人のその残念そうな表情に気付く事などはなかった。
―――
――
二人が入って行った玄関は学校の様に均等間隔に下駄箱が並べられている大きめの作りになっていた。大和と甚八は取り敢えず下駄箱の空いているスペースに脱いだ靴を入れると、廊下を挟んだ玄関の直ぐ向かい側に見えるエレベーターの前に行き甚八がボタンを押す。
ボタンを押すと少ししてエレベーターは1階へと来てドアが開く、二人はそれに乗り込むと5階のボタンを押してドアを閉めた。
『マ――!―ス―!』
「…?」
「どないしたんや?急にきょろきょろ周り見廻して?」
ドアが完全に閉まる直前に大和は男か女かも分からない微かな声を聞いた様な気がした。…それは聞いたと言うより不思議な感覚、まるで脳内に直接響いた様な奇妙なものであった。
「…いや、気のせいかな。何か変な声聞こえなかった?」
「んー。別に何も聞こえへんかったぞ?」
「そう?それじゃあ、やっぱり気のせいか…」
と、甚八は大和の言葉に首を傾げた。大和は隣に居た甚八が聞いてないのだから自分の気のせいだったんだろうと思い甚八に自分の気のせいだったと軽く謝り、その声に関して気にしない事にした。
「ははっ。多分疲れてるんやろ、やまとっち」
「まぁ確かに、昨日の夜に家を出発したからね。今日は早めに寝ようかな」
「それがええと思うで」
二人が上昇するエレベーター内でそんなたわい無い会話をしていると、エレベーター内のドアの頭上に設置されている何階かを示すランプが5階に表示されて錆びた機械音と共にドアが開いた。
「おっ、着いたで!」
「よしっ。それじゃあ部屋に行こう」
そして二人は一緒にエレベーターを降りて指定された自分達の部屋へと向かうのであった………
―――?