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−日本転移− 防衛魔術学校の英雄譚  作者: 空条承太郎
動乱編
3/33

始まり②

校長は着ている白のYシャツの腕を捲りラフな恰好をしている、そして蓄えられた顎髭に手を添えながら大和に近寄り左手で大和に何かを手渡す。その顔は何か難しい表情を浮かべていた。



「…仙石大和くん。君に政府から国立魔術学校への入校辞令が届いた」


「えっ…」


「授業で習ったね?日本国民の"四大義務"については」


「は、はい」



大和は一瞬自分の耳を疑うが、渡された封筒に書かれていた文字を見て校長に言われた事が現実の事だと理解した。



「まじですか…防衛の義務、ですよね?」



日本国民の四大義務。

それは勤労、教育、納税、そして新たに定められた防衛の義務。


元々日本国憲法には三大義務として防衛の義務など存在していなかったのだが、独立戦争後の日本は憲法改正に動き出して国民投票の圧倒的賛成により憲法改正が行われ、変更後の追加された一部がその防衛の義務と呼ばれるものであった。


日本に戸籍を持つ全ての国民は国の防衛に協力する義務を負う。これは帝国の日本侵略において一般市民数百万人が虐殺され、戦闘において自衛隊、在日米軍合わせて十数万人以上が命を落とした結果生まれた義務である。

その義務の内容の一部が大和が渡された政府発行の魔術士養成学校への入校辞令書。


通称赤紙と呼ばれる"任意"と言う名の"強制"的なもの。義務教育期間中に学校で行われる国が主導している未成年の全国均一の健康診断の結果で、魔術士としての高い素養を持つと判断された者に渡される。


何故それが赤紙と言われているのか。それは100年程前日本がまだ地球に存在していた頃に軍隊が存在していた時代、その軍部が暴走し起こしてしまった戦争での徴兵の際に各家庭に届けられた紙の通称から、一部では皮肉を込められて同じ通称をつけられている。



しかし昔とは違いあくまでも"任意"であり逮捕などはされない。働かない者や学校に行かない者、納税していない者が逮捕されないのと同じく。


けれどもその辞令を辞退すると様々な不利益を被る事となり、逆に辞令に従えば納税の一部免除など多くの特権が貰えるという露骨なまでの飴と鞭政策により当事者の若者達は声を上げなくなり、それによって周りの批判の声も年々静まっていっていた。



「……」


「…別に今決める必要はないよ、君の今後の人生の事だからね。来月末までは返信を待てるから、家の人とゆっくり考えなさい」


「…はい」


(姉ちゃんは反対しそうだな…いや、絶対反対するだろうな)



近所の良くも悪くもない無難な公立高校に合格していた大和はこの辞令書に自分が魔術士としての高い素養があったんだと驚きつつも心が揺れていた。

そもそも国立魔術学校に辞令書ではなくて一般的に願書を提出した後に普通に試験を受ける場合、筆記や精密な適性検査など多くの試験が待ち構えており、最難関の国立大学を受験するよりも高い倍率が受験者達を阻む。

大多数の普通の者には扱えない魔力を扱えるようになれる魔術は、若者達にとっては魅力的なものなのであろう。今では普通の入試では入る事は難しいものであった。


しかしそんな大和の考えとは裏腹に、幼い頃に両親を亡くしていた大和は歳の離れた姉が親代わりとして育ててくれており、その姉は少し過保護気味なところがある為に絶対に反対するであろう事が明白だった。



「それじゃあ用件は終わったから、もう行っても良いよ」


「はい。…失礼しました」



大和は是非この学校に行ってみたいと思っていたがどうやって姉を説得しようかと悩みながら心ここに有らずな表情で校長に無意識に頭を下げると、そのまま振り返って扉を開けて校長室を後にした。






「おーい、何処まで行くんや?」


「えっ?あ、過ぎてた。えっと…ありがとう」



誰かがボーッと歩いていた大和の肩を叩く。我に返った大和は既に言われていた建物を過ぎ去っていた事に気付くと、引き止めてくれた者に向き直り礼を述べた。



「っと。別にかまわへんよ」


大和の傍に立っていたのはいたって平均的な身長の大和と同じくらいの身長の少年。そしてツンツンした茶色の混じった若干長めの髪に笑顔を浮かべている口元の端には八重歯が覗いているのが見える。

そしてかなり目立つ赤いアロハシャツに下は短パンといった季節がずれてる奇抜な恰好をしており、背中には大和の様に大きな荷物を背負っていた。



「…あ、もしかして入学生?」


「んっ、そうやで。大きな荷物背負って前歩いてる奴がいたから同じ入学生かなって思ったけど、建物過ぎ去って行ったから声かけたんや」


「んっ、ありがとう。自分は仙石大和って名前、君は?」


「ワイは北条甚八ほうじょうじんぱち。宜しくな、やまとっち!」


「よ、宜しく」



大和が差し出した手を力強く握り締めて肩が外れるんじゃないかと思うぐらいぶんぶん振りながら、にこにこと笑顔を浮かべる甚八。

そして初対面の挨拶と握手を交わした後、二人は一緒に並んで目的の建物の正面玄関まで歩いた。


建物は築数十年は経っていると思われるコンクリートの高い建物。飾り気などまるでなく色はそのままである灰色、コの字型になっているようで先が直角に曲がっているのが分かる。


そんな建物の正面玄関には机とその上で紙とペンを出してパイプ椅子に座っている老人が今来た大和達二人に視線を向けていた。

身体に張り付くようなぴっちりした高級感あるスーツを身に纏い、白髪混じりの整えられた髪。そんな老人は年季の入った皺だらけの顔に笑顔を浮かべて二人に対して手招きをする。

二人はそれにつられて老人に近寄り、机を挟んで対面する様な形で老人の前に横並びで立った。



「君達は仙石大和と北条甚八だね?」


老人はスーツのポケットから眼鏡ケースを取り出して中の丸眼鏡を掛けると、机の上にあった紙を手に持ち二人を交互に見ながら話し掛ける。



「あ、はい」


「んっ?おっちゃん何でわい等の名前分かったんや?」


「…それは君達二人で最後だからだよ。ほれ、部屋割りの紙だ」



そう言いながら老人は机の中をゴソゴソと漁って二枚の同じ紙を取り出して二人に一枚ずつ渡した。

二人は自身に手渡された紙を見てみると、それは部屋の番号とその下に二名づつ枠で囲われている見やすい部屋割りの紙であった。


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