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−日本転移− 防衛魔術学校の英雄譚  作者: 空条承太郎
動乱編
2/33

始まり①

心地良いそよ風に吹かれて草花が揺れる。

天気は雲一つ見当たらない快晴、辺りには満開の桜が一面に咲き誇っている。出会いと別れのそんな季節。

日本が地球から異世界に転移してから50年以上の月日が流れていた。


帝国に対する防衛戦争や転移の影響で壊滅状態だったインフラは急ピッチで復興が進み、今ではその爪痕は日本の何処を探しても見当たらない。

終戦後は食糧難やハイパーインフレといった様々な社会的国難も襲ってきたが民間の助け合い、そして政治家や官僚達などの活躍によって国難も去り、今では数年前に人工衛星一号を打ち上げるに至った程に新しい世界に日本は適応していた。



そんな中、とある寂れた無人駅に一人の冴えない顔した少年が降り立った。無地のTシャツに安物のジーンズ、背中には大きな旅行用のリュックサックを背負っている。

そんな少年は自販機すらない朽ちたベンチのみ設置されている小さな無人駅のホームを尻目に、改札口に設置されていた機械に切符を通して駅を出る。



「…ふぁっ。ねむっ」


駅を出た少年は背負っていた旅行用の大きなリュックサックを地面に降ろして欠伸をしつつ眠気を堪える。そしてジーンズのポケットから畳まれた白い手紙を取り出し両手でそれを広げた。

それは何かの地図、少年はそれを目でしっかりと確認しながら再びそれを閉じてポケットにしまう。

ポケットにその紙をしまった後に再びリュックサックを背負うと、少年は目的地に向かって歩き出した。


それから30分程歩いただろうか、アスファルトで舗装された道はとっくに消えて少年の歩く道は剥き出しの砂利道で左右を見渡せば生い茂る木々、そして前方には均等に立ち並んでいる建造物が少年の目に映る。



「よしっ…」


少し眺めた後は少年はその建造物から視線を外し、道の先に続く目の前の正門の方へと近寄って行く。

その正門の上には立派な筆記体の文字で【国立魔術学校】と大きく書かれていた表札が飾られていた。



「おはよう」


「あ、お、おはようございます!」



門の横に不動の姿勢で立っていた中年の男が門の前に立つ少年に近寄って来て挨拶をすると、少年も一瞬遅れてその男に軽い会釈をしながら挨拶をする。

その中年の男は陸上自衛隊の緑の迷彩柄の作業服を着ており、頭には防護帽ライナーを被り腰には弾帯ベルトといった標準装備を身に纏っていた。



「…んっ。もしかして入学生かな?」


「あ、はい!仙石大和せんごくやまとって言います、宜しくお願いします!」


「うん。やっぱり若いもんは元気良いね、それじゃあ書類見せてね」


「あ、はい。分かりました」



物腰の柔らかい中年の男は満足気に笑みを浮かべると軽い調子で大和に促し、大和はそれを受けてリュックサックをおろすとチャックを開けて中を漁り、クリアファイルに入れていた茶色の封筒を取り出した。

大和はその取り出した茶色の封筒を開き、中から一枚の紙を取り出すとそれを広げて男に手渡す。


大和が男に手渡した紙には細かな字がびっしりと書き込まれていた、そしてよく見ればその紙の1番下には現役の総理大臣の名前と横に日本国政府の実印が押されていた。



「…赤紙の方か」


男は苦虫を噛み潰した様な表情で大和から手渡された紙を確認する、その書類は通称赤紙と呼ばれ一部の国民からは根強い反発を招いている物だからだ。



「…うん、確認オッケー。それじゃあ敷地内に入ったらそのまま道をずっと真っ直ぐに行って、一番端にある大きな建物が一年生の寮になるから、そこの玄関で受付をしているからね」


「あ、はい。ありがとうございます」


「んっ。頑張れよ、若者!」


「はい」



男は大和の肩をガッチリ掴んで檄を飛ばし大和はそれに応える様に大きく頷くと、男は肩から手を離して後ろを振り返り門の鉄柵を開ける。

大和はリュックを背負い直し、そのまま開かれた門から学校の敷地内へと足を踏み入れた。


門から敷地内へと足を踏み入れた大和がふと右の方向を見ると、【警備隊】と書かれた表札を掲げた平屋のコンクリートの建物があり、その横にある広めの駐車場には物々しい装甲車が数台止まっているのが見える。



(やっぱり自分って場違いかな…)


大和は思いながらも、砂利道から再びアスファルトで舗装された道を言われた通りに真っ直ぐ進み始める。

その歩く道の両脇に一定の間隔で植えられた桜は綺麗に咲き誇っており、散った花びらは無機質なアスファルトの道を薄桃色の絨毯の様にしている。

そんな風流がある道を歩きながら大和が思い出すのは少し前の出来事だった。




それは中学校の卒業式を目前に控えたある日の放課後の事だった。

帰宅部だった大和はクラスの終礼が終わり直ぐに帰ろうとしたが、神妙な顔をした担任から呼び止められると何故か1階の校長室へと連れてかれ、そして一人で校長室へと入らされた。



「失礼しまーす…何の呼び出しですか?」


(何か悪い事したっけ?)



特別真面目に過ごしている訳じゃないが、悪い事をした覚えもない大和はそんな事を思いながら困惑した様子で校長に話し掛ける。

大和が話し掛けたその校長は後ろに手を組み、開けてある窓から外の景色を眺めていたが大和に話し掛けられると窓を閉じ、扉の前に立っていた大和の方に向き直る。

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