第弐章 五話『破壊の可能性』
『拐われた方の救助、ですか…。』
《白》が頼みがあるからと連れてこられた落とし物屋の一室、
その中央にあるテーブルを囲んで、私、《白》、《黒》、紫蜂様が向かい合う。
紫蜂「そう…。
それをアンタ達に手伝って欲しいのさ。
この拐われた子が所謂、令嬢ってやつでねぇ。
報酬も、もの凄い額だから何とかならないかとね…。
アンタ達も大量の依頼をこなすのは大変だろう?
それを一つの依頼に絞ってやろうって話さ。」
先程、《白》と同時に満面の笑みの紗希様が大量の衣服を持って帰って来られたと思ったら…。
こういう事ですか…。
『大量の衣服の代価を一つの依頼で済ませて頂けるのは嬉しいのですが、
誘拐犯からの奪還であれば、それこそ紫蜂様の専門分野。
私達の力を借りたいと仰られるのは、他に理由があるのでは…?』
その言葉に紫蜂様は目を細める。
恐らく笑っているのでしょう。
紫蜂「おやおや…。
流石だねぇ…。
それでこそ…」
そこまで言って紫蜂様は口を止めた。
《白》「他に何かあるんです??」
紫蜂様は話を進める。
紫蜂「ただの人質奪還なら、私だけで充分なんだけどねぇ…。
相手が…ね…。」
なるほど…そういう事ですか…。
《黒》「…転移者…??」
紫蜂「おやおや…。
《蒼》だけでなく、《黒》も鋭いねぇ…。」
紫蜂様は嬉しそうにゆっくり頷く。
隣で《白》が、私だってー!っと叫んでいますが今は紫蜂様の話を聞きましょう…。
紫蜂「そうさ。
この転移者っていうのが厄介でね…。
調べによると、人質を不可思議な檻に閉じ込めているらしいのさ。
今の所、どんな武器も通用しない。
所謂、【結界】のようなものかねぇ。
これじゃあ、私が人質の場所に辿り付けても救助は出来ないからねぇ…。」
《白》「………私達の【蒼武】を使って欲しいという事です??」
紫蜂「おやおや…。
《白》ちゃんもやるじゃないか…。
」
《白》は、そうでしょー!って言わんばかりに笑みを浮かべていますね…。
《白》「そうでしょー!☆」
言いましたね…。
紫蜂「《白》ちゃんの持つ白い騎士の鎧に剣と盾、
《黒》の持つ刀、
そして、《蒼》の持つ大鎌。
どれも、通常の物質ではないんだろう?
何たって、急に出たり消えたりするんだからねぇ…。」
そう、私達の持っている蒼武は、
私達の想いが全ての源。
出現させるのも想いなら、硬度、威力、果ては形状まで変えられます。
それは想いさえ強ければ、蒼月に現存する全ての武器より強力でしょう。
それでも限界はありますし、想いが弱ければ、
その辺りの木の棒ですら、
打ち合ったら此方が刃こぼれするような脆い面もあります。
紫蜂「その不可思議な武器なら、あの檻を壊せるんじゃないかってね。
どうだい?
協力してくれるかい?」
《白》と《黒》が私の顔を見る。
分かっていますよ…★
事が事ですし、紗希様やラエル様も何かと入り用でしょうしね…★
『……拐われた日時、人質の居場所、敵の数を教えて頂けますか?』
その言葉を聞いた紫蜂様は再度目を細めて笑った。
紫蜂「アンタならそう言ってくれると思ったよ…。
拐われたのは1週間前、
場所は月界の森の奥に廃墟があるだろう?
そこさ。
敵の数は私が見てきた限りだと、50から60。
その内、転移者はその結界を張った奴位だろうねぇ。」
《白》「一週間も監禁されてるなんて…。」
『そうですね…。
急いだ方が良さそうです。』
《黒》「…4人で…行く…?」
紫蜂「なら、早速行こうかねぇ。」
そう言って紫蜂様が席を立つのを制止する。
『いえ、商品の代価ですので、紫蜂様が出向く必要はありません…★』
少し間があって、
紫蜂「おやおや、確かにそうだったねぇ。
それじゃあ、私は店番でもしてようかねぇ。」
と紫蜂様は笑った。