第壱章 三話『最初から決まっていた事』
蒼月にある
月界の街
今日は天気も良く、街の皆様も活気に溢れている昼中。
ラエル様が蒼月に転移されたあの日から一週間が過ぎようとしています。
ラエル様も少しは蒼月に慣れてきてはいるのですが…。
《白》「あー!
ちょっとラエルさん!
何してるんですか!?
勝手にタンスを漁らないで下さい!」
ラエル「え、何でですか?
薬草があるかもしれないじゃないですか。」
《白》「ありませんよ!
それ、私の冬用の服のタンスです!
大体、薬草があったとして、どうする気なんです!?」
ラエル「貰います。」
《白》「泥棒じゃないですか!」
ラエル様の世界と蒼月では常識が違っている事が少なくありませんね…。
ラエル「あ、それと《白》さん、さっきチラっと見えたんですけど…。」
《白》「な、なんです!?
何を見たと言うのです!?」
ラエル「冬用の服も、今着てる服も全部一緒だったんですけど…。」
《白》「べ、別に良いじゃないですか!
お気に入りなんです!」
ラエル「でも、属性別に防具は揃えた方が…。」
《白》「これ、防具じゃないです!」
ラエル様とも仲良くなって来ましたし、初めてお会いした時とは比べ物にならない位、
ラエル様も笑顔になられました。
嬉しい限りです。
??「い、異界魔だー!!
異界魔が出たぞー!!」
それは私の憂いと、街の平穏を切り裂く叫び声
《白》「!?」
ラエル「異界魔!?」
言い争っていた二人が部屋の窓から顔を出す
それと同時に《黒》が屋根から飛び立つ気配。
私はその場で異界魔の戦力を視る
敵は5体、三日月級3体と新月級2体。
それぞれ、別々の場所ですか…。
……それと……これは……。
少し骨が折れそうですね…。
「《白》、新月級2体、いけますか??」
そう訪ねる私に、
「うん!勿論、大丈夫だよ!☆」
笑顔でそう答えてくれた。
このような事態ではありますが、
笑顔というものは、本当に素敵なものだと再度認識させられます。
笑顔には人を安心させる力があります。
特に、《白》の笑顔はそれに優れています。
私は、何処で失くしてしまったんでしょうね…。
(タンッ!)
窓から私と《白》が飛び立つ
ラエル「え!二人共!?」
ラエル様が戸惑うのも無理はないです。
蒼月へ来て初めて異界魔と遭遇したのですから…。
申し訳御座居ません、ラエル様…。
すぐに戻りますので…。
《白》は新月級2体の方向へ
私は、三日月級3体に先行した《黒》の元へ
目的は《黒》の援護
ではなく、その先に居る。
流れる景色の先に見えた《黒》は、
既に1体を斬り伏せていた。
緑溢れる公園の広場
脇にはお子様が遊べる遊具が置いてあり、平和な時であれば笑い声が溢れる場所
その広場の中央で三日月級2体と対峙している《黒》
緑色の肌
頭から突き出た1本の角
鋭利な牙
相手を引き裂く為の長く鋭い爪
鬼人種
その1体が《黒》に斬られて倒れている。
その体から黒い光の粒子が宙に舞い、その体は消滅した。
異空穴から転移してくるのは全て良いものとは限らず、時に異界の魔物をも呼び寄せる。
そして、よく現れる異空魔には月の満ち欠けを強さのランクとして定められた。
蒼月に悪意を持つものが転移してきた時、誰かがそれを討たねばならない。
今、《黒》と対峙している異空魔は三日月級。
強さのランクとしては、中程でしょうか。
《黒》の刀の前では三日月級が何体居ようと相手にはならないでしょう。
『《黒》、ここは任せます。
この先に、
満月級の月蝕が居ます。』
《黒》「……満月級の……月蝕……。
……一人で……行くの……?」
対峙している《黒》はこちらを見ませんでしたが、その言葉から心配してくれている事は伝わりました。
『ええ…。
ですから、此処はお任せしますね…★』
《黒》が小さく頷くと同時に私は走り出しました。
すこし走っただけなのに、それが見えた。
ただ、場所は遠い。
つまり、遠くから見える程に大きい。
50メートルはありそうですね…。
巨人種
公園から更に奥へ行くと山道となっており、その山道を外れた奥に何かを探すかのような仕草の巨人種。
この場で発見出来た事に安堵し、つい言葉が漏れて
しまう。
『此処が町外れなのは幸いでしたね…。
貴方の巨体が街で暴れられたら大惨事でしたから…。
その前に倒せて良かったです…。』
その声が届いたのか、巨人種が私を見付けて唸り声をあげながら走ってくる。
満月級・巨人種「ヴァァヴォァァーー!!」
その巨体からは想像出来ない程早い。
恐らくこれが、異界種の突然変異、即ち【月蝕】の力。
巨人種は力こそ強大ですが、その分動きは遅いというのが通常なのですけどね…。
ですが、
それでも、
遅い。
ですから、[倒せて良かった]の言葉に偽りはありません。
貴方が異界魔上位の満月級、
しかも、月蝕であろうと、
私が貴方の前に立った時に、
もう勝負は決まっていたのですよ。