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蒼綺月之想詩  作者: 蒼月夜
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第壱章 二話『其処に在る、奇跡』




おかしいな…。


そう、[おかしい]と思えている事が。


俺は死んだのではないのか…?




暗い…。


真っ暗だ…。


案外、死ぬっていうのはこういうものなんだろうか…?


ぼんやりと…。


ただ、ぼんやりと、宙を浮いているような…。


体の感覚がない


時間の感覚がない


でも、そう思う事は出来る。


何だろう、この状況は…。


ずっと…このままなのか…?


………光?


闇の先に小さな光が見える


あそこに行かないと。


何故だかそう思った。


あるのか無いのか分からない体で必死に近付こうとする。


浮いている感じからすると泳ぐイメージ。




光に近付いて来ている気がする。




いや、違う。




光の方が近付いて来ているのか。







もうすぐだ…。





……ああ…眩しい……。










‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐







『……はっ!?』


目が覚めた。


もう覚める事がないと思っていた目が。


驚くべきはそれだけではなかった。


暖かいベッド


俺を覗き込む見知らぬ三人の顔


見知らぬ場所


状態異常の混乱とはまた違った混乱を覚えた。


??「目が覚めましたか…★


これで一安心ですね…★」


黒髪で長髪ストレート、前髪で片目が隠れている……女の人?が俺に微笑み掛けた。

やけに肌が白い。

サーカスのピエロの化粧みたいだと思った。


《白》「おー!☆起きたんだ!?

良かったー!☆」


元気な声の主は黒髪のツインテールの女だった。


白いドレスシャツに胸元の黒いリボンが印象的だ。


黒いミニスカートに…なんだっけ…ミリアが言ってた今流行りの…。


あぁ、ニート。


いや、ニーソだったっけ、それを履いている。




《黒》「……うん……良かった……。」




………それは紛れもなく不審者だった。


黒ロングコートに黒い覆面、黒い手袋に黒いシルクハットを身に付けており、目元しか露出していない。


男か女かも分からない。


だが、分かる。



この人は………





強い。




??「私は《蒼》と申します…。

これは区別名ですが、《蒼》と呼んで頂ければ幸いです…★」


区別名…?


《白》「私は《白》っていいます!☆


貴方様は御自身の御名前、覚えていますか…??」


名前…。


俺の…名前…。


ああ、あの時最後に聞いたな…。


『……ラエルです。』


《蒼》「ラエル様ですね…★


ようこそ、蒼月へ…★」


『ソウゲツ?それはシュリオン大陸のどの辺りにあるんです?』


《白》「あ……えっと……。」


三人がバツが悪そうな顔をした。


何か変な事を聞いただろうか…。


そうだ、それより先に言わなくては。


『手当てをしてくれた事、ありがとうございます。


でも、よくこんな致命傷治せましたね…。』


そう言って奴に貫かれた胸を擦る。




ない。




傷がない。




確かに貫かれた筈の傷が。




『これは…。』



戸惑っている俺に《蒼》さんが静かに語り始めた。


ゆっくりと、何処か申し訳なさそうに。



《蒼》「……きっと今から私は、


ラエル様が到底信じられない事を説明させて頂きますが、


それは全て現実であることを、


ゆっくりとで構いませんので受け入れて頂ければと思います…。」






………。




……。




…。





にわかには信じ難い話だった。


だけど、この傷が無くなっていた事実が何よりの証拠だとも思った。


『異世界……ですか……。』


これでも宿敵を倒す旅をしてきたから、


それこそ、


マグマが煮えたぎる山


雷が止まない町


絶対零度の平原


色々な所を冒険したけど


流石に異世界は無かったな…。




……あれ?


でも、そういえば…。


『異世界でも、言葉は通じるんですね。』


《白》「そうなんです!

私にもよく分からないんですけど、


蒼月って色んな異世界から来てる人がちらほら居るので、


それに合わせて、蒼月自体が言葉を翻訳してくれてるらしいんです!


きっと頭が良いんです!☆」




凄すぎるな…蒼月…。




《蒼》「蒼月の意志、でしょうか…★


ところで、お身体はいかがですか…??★」



そうか、胸の傷は無くなっているのだから、すぐにでも動けるんだ。


『ちょっと動いてみます。』


感覚的には何ヵ月も動かしてない気がする体をゆっくりと動かしてみる。


うん、問題ない。


ベッドの横に立った俺を嬉しそうに見つめる《蒼》さん。


《蒼》「ラエル様の装備はあちらにまとめてありますので…★」


『ありがとうございます。』


言われた方に目を向けると、部屋の片隅に俺の装備が綺麗に整頓されていた。


ここが異世界だとして、


やはり一つ気になる事がある。


『俺は、元の世界に戻れるんですか?』



また三人の顔が曇る。

いや、さっきより険しい気がする…。


《蒼》「それは…何とも言えません…。


1つ言えるのは、今までの転移者の中で元の世界に戻れた方は居ません…。


前例がないだけで、必ずしも方法がないという訳ではありませんが…。」




『そうですか…。』




何となく、そんな気はしていた。



そもそも戻れたとして、

元の世界の俺が、生きているかも死んでいるかも分からない状態だからな…。




《白》「もし、どうしても戻りたいなら私達も一緒にその方法を探しますから、そんなに心配しないで下さい…。」


《白》さんが悲しそうな顔をする。


《白》さんが何をしたという訳でもないのに…。


きっと優しい人なんだろう。



戻れない、と言われるとやはり残してきた仲間を思い出す。


幼馴染みでヒーラーのミリア


力自慢のウォーリアーのガッソさん


大陸随一と言われたソーサラーのヴェルジェ



もう、会えないのか…。




《蒼》「ラエル様、今は暫しお休み下さい…。」


『有り難う御座います。』


3人が静かに部屋を出ていった。



静まりかえった部屋の中、まだ実感がない。


頭では理解してるのに気持ちが追い付かない。


俺はこれからどうなるのだろう…。


見慣れない部屋を見回すと、


ふと部屋の片隅に置かれた俺の装備品に目が止まる。




【ナイトマスター】


騎士の最高位である称号


大陸でも数少ないこの称号を、俺は持っている。


だが、それも必要のない世界なら


剣を振る事しか覚えのない俺に、果たして何が出来るだろう。




それでも、永らえた命だ。


胸を貫かれても異世界で生きている奇跡。



不安で眠れそうもないけど、


たった1つ


自分の中で決めた事。




それはとても単純で、


他に選択肢なんてないんだろうけど、


それでも自分の中で決めておかないと不安で押し潰れてしまうから。


だから、もう一度、自分の決意を確かめよう。





















何も知らない











何も分からないこの異世界を











俺は










生き抜いてやる






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