第弐章 八話『鈍く、鋭く』
《白》「んー。」
月界の森の奥。
廃墟まではもう少しの所で《白》が唸りをあげる。
《蒼》「どうかしたのですか?」
その間も3人共走りを止めず、そのまま会話は続いた。
《白》「敵の数といい、蒼武の事といい、
私達3人も要るのかなぁー。」
《蒼》「!」
そこで《蒼》が走るのを止めた。
私も。
《白》「え!何!?
何で止まるの!?」
《白》が慌ててこちらに戻ってくる。
《白》は自分で言っておいて気付いていないの?
《蒼》「……囮。」
《白》「……え?」
《蒼》「囮です。
あの方の狙いは、この廃墟の依頼ではないですね。」
支払っていない衣服の代価としての負い目もあり、その事に気付かなかった。
でも《白》の言うように、私達の内誰か一人いれば済む依頼に、何故か3人でとお願いされた。
依頼の完遂が目的なら、
私達の内1人居れば問題ない筈。
それなのに、だ。
そして、私達3人が居なくなる事で手薄になる場所。
今、其処に居るのは…。
《蒼》「家へ戻ります。」
《白》「え!どゆこと!?」
『廃墟は…どうする…?』
《蒼》「あの方の事ですから、人質が居るというのは本当でしょう。
2人で救出したのち、速やかに戻って来て下さいますか?」
『……分かった…。』
《白》「全然分かんない!」
『……後で…説明するから…廃墟に行こう…。』
《白》「不審者と2人で廃墟かー。」
私は無言で《白》の脇腹をつねる。
《白》「い、痛い!痛いよ!
分かったから!行くから!」
《蒼》「では、また後で…★」
そう言うと《蒼》は空高く跳躍した。
そして、何もない空間に足場を作りながら、恐ろしい程の早さで街まで飛んでいった。
正確には足場を跳躍しながら進んでいるのだけれど。
《白》「此処に来る時もあれ使えば良かったのにねー。」
『……私達に……気を使ったんだと……思う…。』
《白》「私飛べるよ??」
『《白》の白光之翼はあれ程早くない…。』
《白》「確かに…。
でも、《黒》はあれくらい早く移動出来るよね??」
『……私は空間に足場は…作れないから……。
…地形を無視…出来ない…。』
《白》「なるほどー!」
納得したように頷く《白》を見ながら、思う。
本当に拐われている方が居るのなら、立ち止まっている訳にはいかない。
『廃墟に…急ぐ。』
《白》「そうだね!」
走り出す2人。
程なくして、《白》が思い出したように私に訪ねる。
《白》「それで、結局《蒼》は何で家に帰っちゃったの??」
《白》は鋭いのか、鈍いのか分からない…。
『……紫蜂さんに……騙されたから。』