結婚式。
「うぅ……真実キレイなウエディングドレスだな……天国のお母さんにも、お前の姿を見せてやりたかった……」
『えっと……私のお母さんまだ生きてますけど』
今俺は、店の2階に作られた、キャバ嬢達が普段は使っている、更衣室に居る。そして、俺の目の前には、真っ白なウエディングドレスに身を包んだ今回の主役の、真実と言う名前の普通の女の子が居た。
これから彼女と本部長との結婚式が、俺の出した店を使い行われる。まぁ……我が社らしくみんなで仲良く【悪ノリ】した結果だ。
当然、本格的な結婚式に出来る訳も無く正確には、結婚式のような物だ。
俺が何故、会場である店の方に居なくて、ここ更衣室に居るのかと言うと、今から俺は、この真っ白なウエディングドレスを着たヒロインをエスコートする為に更衣室の方に来ていた。
花嫁が父親に手を引かれて、花婿の元までエスコートされる場面なんかを見た事があるだろう? その花嫁の父親役を任せられたからだ。俺は最初は、年齢的にも妥当な社長に頼もうと思っていたのだが、花嫁と花婿の2人から是非とも【花嫁の父親】役を引き受けて欲しいと言われた。
ユキが俺に言い聞かせてくれた。ルイちゃんを育てたのは、太郎ちゃん、太郎ちゃんが居たから2人は結婚する事になったんだから、責任持って引き受けなさい。の言葉に後押しされて、引き受ける事にした。
花嫁のキレイなドレス姿に見惚れていたら。更衣室のドアがノックされ、今回の結婚式の裏方を進んで買って出てくれた、近藤が顔を覗かせた。
『代表~そろそろ、時間ですんで、よろしくお願いします』
近藤の言葉を聞いた更衣室に居た、花嫁と俺とユキの3人は、揃って更衣室から出て、下のフロアへと降りていった。
1階と2階を繋ぐ階段の前に3人で立ち、合図の音楽が鳴るのを待つ。やがて、花嫁が結婚式の時に使いたいと前々から考えていたという音楽のイントロが流れ始めた。
そして、近藤と共に裏方に徹している山下の合図を受けて、俺はそっと花嫁に手を差し出した。
俺の手のひらの上に重ねられた、花嫁の手のひらを軽く握り、俺は会場になっている店の中を、花嫁をエスコートしながら進んでいく。
参加してくれた人達全てから、割れんばかりの祝福の拍手を体に浴びて、花嫁が厳かに俺に手を引かれて進んでいく。
俺は、エスコートをしながら参加してくれた人達を見渡した。
社長が居た。専務が何故か田中部長の肩に顔を埋めて泣いている。俺と花嫁が初めて出会ったキャバクラの店長も大村マネージャーも拍手で花嫁を祝福してくれている。
アカネ、エリカといった花嫁と一緒にキャバクラで、ランクを競い合ったライバル達も色とりどりのドレスに身を包み、会場に華を咲かせてくれている。
裏方を買って出てくれた、近藤や山下と言った一緒に頑張って今までに会社に無かったデリへルを立ち上げた仲間達も居る。
そこで知り合った、デリへル嬢達も来ている。
そんな身内だけの会場を、花嫁をエスコートして進んでいく。
VIPルームの前で待つ、花婿の元に花嫁を届ける為に。
花嫁の手を握っていた手を、花嫁の手を乗せたまま、花婿が差し伸べる手のひらの方に動かし、俺の手から花婿の手へと、彼女の手を渡す。
花嫁のエスコートと言う大役を終えた俺は、傍らに居るユキの横に並び、ユキの顔を見て微笑んだ。
「何とか大役を果たせたよ、緊張した……」
そう小声でユキに伝えると、彼女も小さな声で俺に。ご苦労様と言って微笑み返してくれた。
そして結婚式は進んでいく。
何故か未だに理解不能なのだが、今回の結婚式の神父役に選ばれた藤田が、花嫁と花婿の間に立ち。厳かに、誓いの言葉を2人に投げ掛けた。
『汝、中村幸一よ貴方は、隣に立つ女性を生涯を共にする伴侶と認め、病める時も健やかなる時も、共に歩み愛し続ける事を誓うか? 異議が無ければ沈黙を持って答えよ……』
藤田は、何であんなセリフ知ってるんだ? しかも沈黙を持って了承とみなすなんて事まで、普通は返事させたりしそうなんだが……
『汝、武田真実よ貴女は、隣に立つ男性を生涯を共にする伴侶と認め、病める時も健やかなる時も、共に歩み愛し続ける事を誓うか? 異議が無ければ沈黙を持って答えよ……』
そして、少しの時間、会場に沈黙が流れた。
『双方の沈黙を持ち、ここに2人を神の名において、夫婦であると認める、花婿よ花嫁に誓いのキスを……』
花婿は神父役の藤田の言葉を合図に、花嫁の方へと足を進め、花嫁の目の前に立ち、花嫁の掛けていたベールをそっと上に捲ると、その唇に誓いのキスをした。
そして、その瞬間、会場に一際大きな拍手が巻き起こった……
真似事の結婚式かも知れないが、俺やこの会場に居る全ての人にとっては、これが。これこそが、花嫁と花婿に相応しい結婚式だと思った。
そして、結婚式の後は、そのまま店を会場にした披露宴が始まった。まぁ、仲間内しか人が来てないから、披露宴と言うよりは、ただの宴会みたいな物だったが。
そこで、またしても社長と専務からの差し入れで、シャンパンが提供された。しかも今回は奮発したのか。ドンペリの黒だった。
宴会は和気藹々と進み。花婿は早々に色んな人から酒を飲まされて潰れてしまい今はVIPルームのソファーの上で寝ている。
俺は、1つどうしても気になっていた事を確認する為に、目的の人物がどこに居るのか探した。
その人物は、アカネとエリカに何故か囲まれて、シャンパングラスを合わせていた。
俺はその人物に近付いて気になっていた事を訪ねてみた。
「藤田、お前何であんな結婚式の神父のセリフとか詳しいんだ?」
『あ~そっか話してませんでしたよね、実は俺の家、教会なんですよ後うち宗派が違うんで、神父じゃなく牧師です』




