アカネの体質。
【The Aegean】がグランドオープンを迎えた日から早くも10日程が経った。
連日連夜、大盛況の賑わいを見せている。料金を他より少し高めに設定して、ヘルプに着ける以外の使い道の無いキャバ嬢を無くし。綺羅びやかな店内の内装。何処かのリゾート地に来ているかと錯覚させるVIPルーム。今までに誰もが持っていたキャバクラのイメージである【クラブよりは下】と言うイメージを払拭させるが如くの高級路線が、ほんの少し料金を余分に払うだけで、クラブよりも、高級感に包まれながら、可愛らしい若い女の子や、キレイで若い女の子に、接客をして貰える。
これらの要素が絡み合い、多くのお客さんに受け入れられた結果だろう。
既に、好みのキャバ嬢を見付け何度も店に足を運んでくれる、顔を見知るに足りるお客さんも何人か出てきている。
問題になっていた【付け回し】の方も、1週間程経った日から、試験的に、3つのグループに分ける方法を、実践してみた。
多少の混乱はあったのだが、お客さんに及ぶような混乱では無く、概ね上手く機能もしている。
その事により、俺が常に店内に居て付け回しをする必要は無くなった。これからは、週末や祝日前夜のみ付け回しをしていく事になる。
俺自身も、この巨大な箱を持ったキャバクラの全てを、1人でコントロール出来る、付け回し自体を気に入っていたので、ゼロにならなくて良かった。素直にそう思った。
月のうちの2/3も日数が経過すると、キャバ嬢達のもっとも気になる。売り上げに寄るランクもある程度は明確に分かってくる。
現時点で【The Aegean】のキャバ嬢ランキングのTPO3は。
1位リナ。2位アカネ。3位エリカと言う順位となっている。
この1位の位置にいる、リナと言う源氏名のキャバ嬢は、うちの会社が経営する系列店の出身キャバ嬢では無い。
このリナは、元々がこの県の出身ではあるのだが、ほんの3ヶ月程前にこの繁華街のある店に勤務を始めた。それ以前は、東京の六本木にある高級キャバクラに勤務していたそうだ。
この街にゼロの状態から戻ってきて、わずか3ヶ月で、前に勤めていた店で瞬く間にNo.3にまでなり、この店の事をどこかで聞き付け。是非働かせて欲しい。そう言ってきたキャバ嬢だ。
2位のアカネは、リナと僅差ではあるが、売り上げを落としていた。それでも、本人が言うには前のお店の時よりもかなり売り上げが増額出来ているらしい。このまま、月末にはリナとの差を逆転させて欲しいと、店の代表と言う立場では無く、一個人の知り合いと言う立場では強く思う。
3位のエリカは、キャバ嬢歴もそこそこ長くお客さんの数もそれなりに持っている為に、無理無く安定的に売り上げを伸ばしている。
TPO3と4位以下との差はかなり大きく。当分は、この3人のキャバ嬢が店の顔として君臨し続けるだろう。
そしてそれは、ある日の事。
もう平日は俺の手から【付け回し】が離れ。代表本来の仕事である、VIPルームを利用している、顔馴染みのお客さん達への挨拶や接待。店の巡回等をしている。まだ早い時間だった事もあり、待機席に座るアカネを見付けたので、アカネと少し世間話でもするかと、待機席の方に進むと、アカネが席を立ち、俺の方に向かってきた。
俺とアカネは、付け回し専用の丸いスタンディングテーブル付近に向かい合って立ち、色んな話をした。近況からや。店に慣れたか? 売り上げはどうだ? 等々、どこの店でも行っている、キャバ嬢と店のスタッフとのありふれた会話だ。
「アカネ~どうだ? 売り上げの方は」
『うん、順調だよ、リナさんに勝ってるのか負けてるのか分かんないけど』
そう、基本的にキャバ嬢は他のキャバ嬢の売り上げの詳細を知らない。キャバ嬢同士で教え合う事などまず無いし、店側も月末鳴りの売り上げ発表の時以外は教えない為だ。
俺はアカネの耳を摘まみ、こちらに引っ張って、耳を寄せさせる。そしてアカネにだけ聞こえるように、小さな声で。
「誰にも言うなよ内緒だぞ、今はドンペリ1本分だけ、アカネが負けてる、たかがドンペリ1本分だから、頑張って追い抜けよ」
そう伝えてやると、アカネも大きく頷いた。
さて、そろそろ店の巡回と言うか冷やかしを切り上げて、上のオフィスに戻ろうと思う。そして、最後にアカネに軽い冗談のつもりで、こう言った。
「アカネ~沢山稼いで、俺に100万ぐらいのお小遣いくれよな」
そう言って笑いながらアカネに背をむけて、歩き出そうとした時に。
『代表、何かお金で困ってるの? 私で良かったら相談に乗るよ? お金100万だけでいいの? 明日銀行から降ろして持ってくるね、あっもちろん返さなくていいから』
そうアカネが言った言葉に驚き、振り返りアカネの顔を見ると、冗談が通じて応えているような顔では無く、心底俺の事を心配している、冗談を信じ込んでいる顔をして、俺を見ていた。
俺は直ぐにアカネに今日、お店が閉店したら、帰らずに俺のオフィスに来るように伝えた。
そして閉店後、約束通りに訪ねて来たアカネを、応接セットのソファーに座らせ、対面に座り、こんこんとアカネに話して聞かせた。
「お前は、純粋なのは良い事だが、直ぐに人を信じる事はやめろ! 後、絶対に頼むから、俺の知り合いでいる間は、何があっても、誰に誘われても、ホストクラブには行かないと約束しろ!」
そう言って、アカネと無理やり約束を交わした。
アカネよ……アホなのは知ってたが……お前貢ぎ体質も持ってたんだ
な、俺は心配の種が増えたよ……
そして、そのまま俺の車にアカネを乗せて、アカネを部屋の前まで送って行った。
自分とユキと居候のルイが住む部屋にそのまま向かい、部屋に帰ってきた俺を……




