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グランドオープン。

 他に誰も居ないオフィスで椅子に座って、背後にある窓から見える、この繁華街のネオン達の光りを、タバコをくゆらせながらボンヤリと見つめている……


 どのぐらいの時間そうして居ただろうか、不意にテーブルの上に置かれたインカムから【The Aegean】店長である林の声が流れた。


 【代表、そろそろお願いします】 


 俺はその声を聞いた後、持っていたタバコを、灰皿に押し付けるようにして、火を消した。


 テーブルの上にイヤホンとマイクを外した状態で置かれていた、インカムにイヤホンとマイクのコードを差し込み、インカムをシャツの胸のポケットに落とし込む。マイクをシャツの第3ボタンと第4ボタンの間に挟み、右の耳にイヤホンを差して準備を整える。

最後にテーブルの上に置かれた、アルミ缶のコーラの残りを炭酸で喉が焼けるのも無視して一気に煽り飲み干した。


 そして、オフィスを出て1階の店へと続く階段へと向かう。


 さぁ、始めるか。


 1階のフロアに入ると既に今日店に出る店長の林。マネージャー6人。10人のチーフと率いられたアルバイト達。彼等が俺の事を出迎えてくれた。

その1人1人の顔を見ながら、軽く頷くと向こうも黙って小さく頷き返す。

俺はみんなの顔が気合いで満ちているのを見て、満足する。


 男性スタッフ全員を後ろに従え、店の入り口から入り少し進んだ左手側に作った巨大なキャバ嬢達の待機スペースに向かう。

待機スペースに並べられたソファーに座る、総勢100人のキャバ嬢達。そのキャバ嬢達を見回して見る。


 エリカを見付けた。いつもと変わらない俺が知っているキャバ嬢モードの時だけ見せる少しクールな表情で、俺の事を見ている。

マナを見付けた。今日の為に店に呼ぶお客さんに向けて、メールでも打っているのか、携帯画面を見ている。

マミを見付けた。どこか落ち着きの無い様子で周りをキョロキョロと見回している。

系列のキャバクラから、他系列のキャバクラから、この店で働く為に集まった多くのキャバ嬢達もいる。

未経験組として、頑張って接客を覚えたどこか初々しいキャバ嬢達もいた。


 最後に、俺がきっとこの中で1番信頼を寄せ、何かあった時には必ず頼る事になるであろう、俺自身の手で育て作り上げた、俺の知る最高のキャバクラ嬢である【アカネ】を見た。

アカネは、いつもの何ら変わることも無く、無邪気な笑顔を見せて俺に向け小さく、ガッツポーズをして見せた。

俺はアカネに向かい、笑顔を見せ頷き応えた。


 「さぁ! みんな! 【The Aegean】開店だ!」


 その言葉を合図に、店長以下全ての男性スタッフ達がそれぞれの役割を果たす為、持ち場へと散っていく。


 店長は、フロアを見渡せる位置に設置されている、来店してきたお客さん達を、どのテーブルに割り振るのかスタッフ達に指示を出す為の【指令席】に。


 6人のマネージャーのうち何人かは【キャシャーボックス】の中に。新たにマネージャーとなったキッチン担当の元チーフは、自分の部下でもあるキッチン担当スタッフ達を引き連れて、キッチンの中に。他のマネージャー達も男性スタッフが基本待機する事になっているカウンター前に。


 そして、俺は数人の男性スタッフを引き連れ、店の入り口ドアへと向かう。両開きの巨大ドアの左右の取っ手をそれぞれの手で掴み、内側へと開いた。ドアの向こう側には、既に何人かのお客さんが立ってこのドアが開かれるのを待っていた。


 「ようこそ、いらっしゃいませお客様【The Aegean】開店で御座います、心ゆくまでお楽しみ下さい」


 待っていたお客さん達に向け、恭しくスタッフと深く一礼をして、出迎えた。そして、俺が引き連れて来ていたスタッフ達は、お客さんの元に向かい、人数と指名の有無を聞いて行き、自分達が付けているインカムに向かい、報告をする。


 俺も、自分の仕事である【付け回し】をする為に、店内へと戻った。


 【2名様御来店、指名はカエデとマミ】


 【2名様、2番テーブルにご案内】


 【2番テーブル了解】


 【1名様御来店、指名はアカネ、VIPルーム希望】


 【1名様、VIP1番にご案内】


 【VIP1番了解】


 開店して直ぐにも関わらず、色んな情報を共有する為のインカムから各自が耳に付けたイヤホンに向け声が飛び交う。


 俺はキャバ嬢の待機席横に置かれている円形の1人用のスタンディングテーブルの前に立って、スタッフ達の手によりお客さん達の飲むお酒等の準備が終わるであろうタイミングを計る。

そこに、キャシャーボックスに居るマネージャーから託された、小さなメモ用紙を数枚持った、スタッフがやって来た。


 『代表、これお願いします』


 そう声を俺に掛けてから、持っていたメモ用紙を渡して来た。


 「ありがとう」


 俺はスタッフに礼を言って労った後に、メモ用紙をテーブルの上に並べる。そのメモ用紙には。

お客さんの入店時間と、指名するキャバ嬢の名前もしくは、フリーのお客さんの場合はFと書かれている。


 俺には必要は無かったのだが、これは付け回しを今後していく事になる店長やマネージャー達の為に、用意する事にしたお客さん情報が書かれたメモ用紙だった。

 

 俺は、1度だけ並べたメモ用紙に目を落とすと、待機席に座るキャバ嬢達の中から、必要な名前を呼ぶ。


 「カエデ、マミ、アカネ、行くぞ……カエデとマミは初指名されたキャバ嬢だな、アカネは初VIPルームに呼ばれたキャバ嬢だ」


 そう3人のキャバ嬢達に声を掛け。彼女達を祝福すると共に、待機席に座ったままのキャバ嬢達に、発破を掛けた。


 「失礼します、御指名ありがとうございます、カエデさんです、カエデさんあちらのお客様の隣へ、御指名ありがとうございますマミさんです、マミさんこちらのお客様の隣へ」


 そう言って、お客さんに指名したキャバ嬢の紹介をしつつ、それぞれを席に座らせる。そして、席を離れる際に。


 「御時間の許す限り、お楽しみ下さい」


 そうお客さんに声を掛けて、残ったアカネを連れ、フロアの1番奥にあるVIPルームへと続くトビラの前に進んだ。


 トビラの前には、既にVIPルーム担当のマネージャーとスタッフが待機していて、マネージャーが俺が連れてきたアカネの事を引き継ごうとしていた。


 「すまない、マネージャーVIPルーム最初のお客様への、付け回しは俺の手でやりたいんだ」


 そう伝えて、マネージャーに引き継がずに、そのままアカネを連れVIPルームの中へと入る。


 「お前のこの店での、最初の付け回し挨拶は、他の奴に譲れないもんな」


 俺がアカネにそう声を掛けると、アカネも笑顔で。


 『代表が育てたキャバ嬢の第1号だもんね、私って』


 お客さんの前に立ちアカネの横に移動した後に、お客さんに向けて深々と一礼した後。


 「御来店誠にありがとうございます、御指名のアカネさんです」


 そう言ってアカネの紹介をした後に、アカネの背中に回した手でアカネを1歩お客さんに向かい歩かせ。


 「アカネさん、お客様の隣へ」


 「本日は、御時間の許す限り、当店【The Aegean】を心ゆくまで御堪能戴ければ幸いで御座います」


 そう、VIPルーム使用のお客さんに相応しい挨拶をして、最後にもう一礼した後、VIPルームを後にした。

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【風俗嬢と呼ばれて……】堕ちたJDの末路
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