ドレスとヘアメイク
今日も男性スタッフ達を相手に研修を行っている。
今は俺の最初の予想通りに【未経験組】と【男性スタッフ組】の2つの組にしか研修を、行ってはいない。
【他系列勤務組】は、店長やマネージャーを相手にした、シミュレーションに全員が合格を果たした事により、研修は免除となった。
それでも数名のキャバ嬢が、うちの系列の接客方法を学ぶ為に、未経験組に混ざって研修に来ている。
自分の接客に幅を持たせる事にも繋がるだろう。学ぶ事に貪欲な子は、純粋に応援したくなってくる。
さて、俺が率いる男性スタッフ組も、徐々にではあるが接客方法を学んで自分の物にしてくれている。
キャバクラの接客とは言え、必ず何かの役に立つと思う。世の中に知っていて損な事など無い。
「いいか~フロア内を回ってる時には、女の子からの合図は勿論だが、各テーブルの灰皿や氷の量、アイスペールに氷が溶けて水が溜まり過ぎてないか、ピッチャーの減りはどうか、気に掛けながら回るようにな。そして、何か交換したい物に気付いた時は、自分が交換する必要は無いからな、インカムでテーブルナンバーを告げて【3番テーブルにアイスお願いします】って感じで伝える事、後はインカムを聞いて、自分が近いと思えば返事をして交換に行く事【3番テーブルアイス持っていきます】なんて感じにな」
回る。見つける。取りに行く。交換する。なんて全部1人でやっていたら、効率が悪すぎる。
「お前ら男性スタッフは、キャバ嬢達とは違い【1つのチーム】として動くんだ、お互いにフォローし合いながら、チームとしてお客さんをもてなせ」
そして男性スタッフの中にも、キャバクラ勤務経験者が居たようで、そいつらは応用が効く事からメキメキと頭角を表して来ている。
「今も同じバイトの研修している仲間だが、既に俺の補佐として教えてる奴等が、5人居るよな? この5人は今日から【チーフ】だ、ちゃんとチーフと付けて呼ぶようにな、後、この店の広さだ5人のチーフじゃ全然足らない、倍の10人は必要だチーフに成れてない奴にもチャンスはあるからな~チーフになるとオープン時の時給は500円アップした時給スタートになるからな~」
時給1,000円のバイトが1,500円になるのだ。8時間働いたら12,000円にもなる。8,000円がだ。
そして研修の続きを指導しようとしていた時に、店の中に1人の男が入ってきた。
『部長じゃなかった……代表、おはようございます、やってますね~』
俺は声だけで誰か判別が出来た、そいつの方を向き挨拶を返す。
「藤田おはよう、今日はどうした?」
『あっそうそう、頼まれてたやつ完遂して来ましたよ』
流石、藤田だな。もう手配が済むとは、もう少し時間が掛かると思っていたのに。
藤田は俺に、2枚の契約書を渡してきた。俺はその内容を確認して、こちらの想定の範囲内に収まっている事に安堵した。
「お~流石は藤田、俺の次の部長最有力候補」
『おだてても何も出ませんよ』
「それで? 2つめのやつも?」
俺の問いに、頷き答える藤田は、店の入り口の方を自分の親指で指し示して。
『取り合えずあっただけ、持ってきてありますよ、2階に運んでおきましょうか?』
俺は、研修中のチーフ2人に声を掛けて、藤田部長の指示に従い、荷物を持ってくるように言った。
そして、直ぐに段ボール箱がいくつも運ばれて来た。
俺は、全員に聞こえるように、少し大きめな音を鳴らしながら、パンパンと手を叩いてみんなの注目を集める。
「はいはい、ちょっと手を休めて全員注目、今お店に絶対必要な物を、ここに居る藤田部長が県内を駆けずり回って、集めてきてくれた、はい、みんな藤田部長に拍手~」
藤田はみんなから拍手をされ、少し照れていた。
「はい、未経験組は特に嬉しい物だからな~」
そう言って俺は、段ボール箱の中身を1つ取り出し両手で拡げて見せてやる。
「お店で貸し出しをするドレスだぞ~自分達で買えるまでの間、毎日貸し出しをしてやるからな~どれでも1着1日500円だ、破格の安さだろ?」
そう言って俺は、未経験組に混じる他系列勤務組のキャバ嬢に言うと、そのキャバ嬢が前の店では1着1日1,000円だった。そう答えた。
更に俺は、みんなが喜ぶであろう報告もした。
「ドレスだけじゃないぞ~ヘアメイクの手配も済んだからな~こちらも、藤田部長が掛け合ってくれたおかげでみんなに安く提供出来るぞ~美容師免許を持つプロのヘアメイクが1回1,000円だ」
これは、全額がヘアメイクをしてくれる人に渡る。交代で数人が、この店に来てキャバ嬢達の髪の毛をセットする。
完全歩合制の完全人気制だ。キャバ嬢達から上手いヘアメイクをする。そう思われてキャバ嬢と言うお客さんが着いたら、とても良いアルバイトになる事だろう。10人ヘアメイクしたら、お店の給料とは別に10,000円も貰える事になる。
このヘアメイクも、安い自信がある。案の定先程ドレスの貸し出し料金に安いと答えたキャバ嬢とは別の、他系列勤務組のキャバ嬢が、前は2,500円だった! と非常に驚いていた。
「これらは、全部お前達に気持ち良く仕事してもらう為に、店の採算は度外視して行うサービスだからな~後、ドレスもヘアメイクもちゃんと店が立て替えて、みんなのお給料から引かせて貰うから、お財布の中身を気にする必要は無いからな~」
俺がそう告げると、キャバ嬢達から笑い声が上がった。




