研修開始。
まぁ……ちょっとしたトラブルもありつつも、何とか店の改装工事。そしてビル全体の耐震補強と改築工事が終わった。
ビルの外観は、俺の希望通りに【黒】になっている。
1ヶ所だけ気に入らない部分もあるが、社長が巌として譲らなかった。ビルの一番上に金の文字で会社の名前が書かれた看板が、掲げられている。
【どっかの反社会性暴力集団の事務所みたい……】
と言うのが、社長以外の大多数の幹部の意見だ。
店舗の入っているビルの外観の黒から、1歩足を店の中へと進めると、目の覚めるような真っ白な空間が広がり、箱の大きさがもたらしてくれた、各テーブル席の広さ、ゆったり感。海の色を模したソファーや丸椅子達。うん、間違えないイケる。
結局。ビルの2階から上は、2階には1階のキャバクラの為の倉庫。男女更衣室。キャバ嬢の為のドレッサールーム。後は男性スタッフが休憩に使ったり、賄いを食べる為に使用する休憩室。そして……小さいながらも俺専用のオフィスも作って貰えた。
キャバ嬢用の更衣室とドレッサールームは、とにかく広くした。常時80人近く、週末なら100人程のキャバ嬢が店に集まる為に、2階のほとんどの部分は、この2部屋が占めている。
3階と4階は、希望するキャバ嬢の為の寮に成った。1フロア10部屋の合計20部屋しか無いが、数を減らした事により部屋を広くする事が出来、そこら辺に建つ1ルームマンションよりは広い間取りの部屋になっている。因みに、家賃と言うか寮費は、家具家電付き光熱費込みで、月に5万円。一瞬で全部屋が埋まった。入寮条件として【週に5日以上7時間勤務の出来るレギュラーメンバー】と言う条件を付けたが、希望者が多すぎて抽選した程だった。エリカは当選したが、アカネはハズレていた。
ざまぁみろ! アカネ。
5階は全フロアを、会社が事務所として使用している。
今までのように雑居ビルの1部屋を借りていた事務所と違い。
社長室。専務室。本部長室。【店舗型性風俗事業部】【特殊飲食店事業部】【事務局】【各部長局長室】のオフィスも作られた。
俺が部長を勤める【無店舗型性風俗事業部】と【開発事業部】は、2階に俺の個人オフィスがある事から、このフロアに部屋は無い。
ビルの裏側に、5階に直通するエレベーター。1階と3階と4階にしか止まらない寮使用者用のエレベーターの2基が設置された。
2階には、店の中から上がれる階段を使用するか、ビルの非常階段を利用するかのどちらかしか、昇る手段は無い。
俺もエレベーターが欲しい……
今日は、事前に通達してあった通りに、この店で働くキャバ嬢と男性スタッフ。都合の付かなかった者を除き、全員に来て貰っている。
幹部達が勤める事になる。店長やマネージャーと言う役職を担う者達の挨拶と簡単な自己紹介。店長は1名、マネージャーは5名が働く事になっている。総支配人と言うか、名目だけではあるが【代表】となっている俺の挨拶と自己紹介。
男性スタッフ達の自己紹介等を終わらせてから、店の中を隅々まで。2階の更衣室とドレッサールーム。男性スタッフ用の休憩室。それらを案内し見学して貰った。
店の内装に全員が息を飲み。VIPルームを見て驚き。
2階の広大な広さを持つ更衣室とドレッサールームに感激し。割りを食う形となった男性スタッフ用の休憩室の狭さにため息を付き。
概ね、好評であった。
今日集まって貰ったのは、店内の見学だけでは無い。
今日から【研修】が始まる。
先ずは、幹部達からの選別からスタートだ。
「それじゃ、店長とマネージャーに質問だ、専務流キャバ嬢接客のノウハウを学んだ者は手を挙げてくれ」
俺がそう訪ねると、店長とマネージャーの内の3人の手が挙がった。
「今、手を挙げた者は、俺と同じ接客ノウハウを持ってる、また手の挙がらなかった者はきっと、田中部長流の者達だろう、間違っている訳では無いが、君達は教える側になるので統一させる為にも俺が習った本部長の流れに合わせて貰う、まぁ……少し細かな点が違う程度だから直ぐに覚えるだろう、それまでは、マネージャーの2人には、教わる側に立って貰う」
我が社には、キャバクラのノウハウとして大きく2つの流派が存在する。専務から本部長へ、本部長から店長へ、店長から幹部候補生へと伝わった【川原流】
鳴り物入りで入社して、瞬く間にキャバクラ部門の部長にまでなった、田中部長が伝えた【田中流】
因みに俺は、川原流免許皆伝らしい……専務が言っていた……
俺は、その事をこの場に居る全員に聞こえるように伝えた。
これは、報せておかなければ自分達と同じ教わる側なのに。等と言う反感を感じさせない為の処置だ。
そして【未経験キャバ嬢組】【系列店勤務キャバ嬢組】【他系列店勤務キャバ嬢組】【男性スタッフ】この4つの大きなグループを作った。
「それじゃ【系列店勤務キャバ嬢組】に組分けされた女の子達は解散!」
この組は、教える事が無い。川原流でも田中流でも、関係ないからだ。誰かに教える訳では無いからな。このまま自分の知ってる接客方法を続けてくれたらいい。
「次に【他系列店勤務キャバ嬢組】の女の子達は、1度店長またはマネージャーを相手に、接客のシミュレーションをして貰う、それで問題無かったら、この組も解散していい」
別に違う方法だろうと何も問題は無い。問題になるような変な接客をしなかったら、それでいい。
「【未経験キャバ嬢組】の女の子達は、キャバクラに於いての接客のイロハを知らない事から、ゼロから学んで貰う必要がある、その為にこの後から時間の許す限り研修に参加して欲しい、教えるのは店長・各マネージャー、そして……」
俺の発言に合わせて、俺の横に控えていたユキが、1歩前に出る。みんなは、きっと俺の秘書か何かだとユキの事を思っていただろうが、ユキはこれでも【川原流師範】(専務が言って……)なのだ。
「ここに居る女性に教えて貰うように、彼女はこう見えて、専務のお墨付きだからな」
ユキが全員に向かって挨拶をしていた。
ユキの事を知っていて、今回の見学会に参加していた、アカネとエリカがユキに向かい、拍手をしている。お前らさっさと帰れよ。
「さて、残った【男性スタッフ組】は、指導係りは俺だ、男性スタッフなんか、氷を運んだりと小間使いが出来ればいいなんて、甘い考え持ってないか? キャバ嬢はミスしても、その色気や可愛らしさ、お客さんにコビを売ることで簡単にミスの帳消しが出来る、しかし! お前ら男性スタッフはミスしたら、ミスを挽回させて貰える機会は全く無い! ゼロだ! そしてお客さんが怒る、または不満を感じる事の最大最多理由は、男性スタッフの態度や接客方法だ! だから、徹底的に指導をしてやるからな、楽しそうな研修になりそうだろ?」
嫌らしい笑みを、男性スタッフ達に投げ掛けてやった。
その後、各組は更に細かい組に組分けされ、それぞれの研修を始めた。
俺はそっと、とある組に近付き、何事も無かったかのように未経験キャバ嬢達に混じっている、アカネとエリカを、店の外まで引き摺り出した。
「お前ら邪魔! 帰れ! 研修中は出入り禁止!」
そろそろ、作者の仕事が【繁忙期】を迎えます。
今までよりも少しだけ、更新出来る話数が減るかも知れません。日に更新がゼロ。と言う事にはならないでしょうが、予め、ご了承下さい。




