VIPルーム。
少し短いですが、キリが良かった。と言う事で。
やばいやばいやばい……本気でやばい。
俺は今、非常に焦りながら俺がオープンさせる予定のキャバクラの改装工事を発注した、設計事務所の設計士と施工会社の担当の者に大至急会う必要が出来た為に、施工会社に向け車を飛ばしている。
「くそっ! あれだけ念を押したのに、営業許可取り消されたらどうするんだよ? お前らの会社も吹っ飛ぶんだぞ……」
俺はかなりイラ付いて運転をしながら、独り言でずっと愚痴っていた。
施工会社に到着し会社の会議室に通された時には既に、設計事務所の設計士。施工会社の施工担当とその上司に当たるのであろう人間が揃っていた。
『あっ木村さん、わざわざご足労いただきまして……』
「いやいや、挨拶なんてどうでもいいですよ、何でこんな事に? 私言いましたよね? 間違いなく」
俺の剣幕に全員が押し黙る。特に設計士の顔色が青ざめていた。
施工会社は仕方ない部分もある。設計士が書いた設計図面を元にして、その通りに施工するだけなんだから。
しかし、設計士はそうではない。クライアントの要望を受け入れ、それを基にして設計をするのだから。
【間違ってました】じゃ済まない。
「ねぇ、これがさちょっとキッチンが狭くなりましたとか、ちょっとトイレが広くなっちいました、程度の事なら私もここまでは怒りませんけどこれ……法律で決まってるから【必ず】この条件を満たして設計して下さいってお願いしましたよね?」
この今、問題となっているのは、風俗営業許可に関して定められた決まり。それをこのまま作ると、条件を満たしていない物が出来てしまう。
「何で、VIPルームが、私がお願いした広さよりも、1㎡小さくなっちゃってるんです? 広さ【16.1㎡】以上無いとダメだって言ったはずなんですが?」
設計士は、俺の納得出来る説明を、結局する事も無くひたすら謝っているだけだった。
施工会社の人間は、設計士とは違い自社が抱えている設計士まで呼んで、ここをこうしたら。これはこうなら。と具体的な案を考えてくれているだけに、この謝るだけで何1つ出来ない設計士に余計、腹が立ってきていた。
その後。施工会社が提案してくれるいくつかの解決策を、検討した結果。フロア側に広く壁を作り直すと、通路が狭くなりフロア全体を広げた分だけズラす必要が出てくる事から、横方向にズラすと言う事が決まった。
割りを食う事になるテーブル席が1つ出来てしまうが、他に良い方法も無く妥協するしか無かった。
そしてその為に掛かる費用は当然、ミスをした設計事務所が負担する事となるのが常識なのだが、この場に来ている設計士は【自分にそんな事を決める権限が無い、上司に聞いてみる】等のふざけた事を言い出した。
「おい! 事務所に居る上司とやらに、お伺いを立てたら、この客からの絶対に守るようにと言われてるのにも関わらず犯したミスが無くなり、VIPルームが広くなるのか? なるんだったらいくらでもお伺い立ててこいよ、お前俺に言ったよな? 私が責任持って最高のお店を作ってみせますって」
俺も流石にこの設計士の態度には、腹に据えかねる物があり、責任持つと言ったその責任を果たせよ。そう設計士を問い詰めた。
結局、その後に施工会社まですっ飛んできた上司の手により、作られた同意書に設計事務所のサインと捺印が押された。
そして大きな問題では無かったのだが、この設計士はもう1つミスを犯していた。VIPルームへと続くドアに【カギ】を取り付けるよう、設計図面に書き込んでいたのだ。
もう……俺は呆れるしか無かった。お前らの会社、当然こう言う店舗の設計だって他にもするんだろ? だったら、せめて法律ぐらい目を通しておけよ……
その後実際にVIPルームが完成した時に、お店の視察に訪れた際、問題の割りを食う事になった席を見たが、他の席に比べると明らかに見ただけで狭く感じてしまう事から、この席は無くして代わりに、巨大な水槽を設置して魚を泳がせる事にした。
もちろん、その費用は設計事務所に請求をする事になった。




