口説く。エリカ編
何とか、お昼休みのお供に。の時間に間に合いました。
「ドア潜り抜けて、少し進んで、フロア全体が見渡せる位置の横に、待機席を作るだろ……VIPルームは……奥の方がやっぱ良いかな……」
今、俺は人と待ち合わせをしている。しているのだが、俺の都合で少しばかり、早く待ち合わせ場所に決めた、コーヒーショップに到着していた。
まだ30分ぐらいは、時間の余裕があったので、俺の手で新たにオープンさせるキャバクラの店内の、各テーブル席の配置や、キャバ嬢が、営業時間中に、待機する席の配置や、VIPルームの位置なんかを、考えていた。
「待機席は、入り口付近で、お客さんからも良く見えるようにしないとな……」
この、キャバクラの待機席と言う物、割りと店側にとっても、キャバ嬢達にとっても重要になってくる。
お客さんに、キャバ嬢達をお披露目する為の、ひな段代わりにもなる席だからだ。キャバ嬢達は、ここでお客さんの、目に止まり、場内指名を獲得する事も出来る。
さて……大体決まった頃に、テーブルに広げた、資料やノート等を、片付け、自分の腕時計に、視線を落とすと時刻は、待ち合わせ10分前になっていた。
待ち合わせ相手の性格上、そろそろやって来そうだなと思い、飲み終わったコーヒーのおかわりを頼む事は、控えて、相手の到着を待つ事にした。
ほどなく、思った通り、約束の時間前に、待ち合わせ相手が、この店のドアに姿を見せた。
俺は、相手に向けて手を振り、相手に俺の存在を見つけさせる。
俺が手を振り呼んでいる事、既に来ていた事が、伝わったのか、相手は、笑顔で手を振り返して、俺の座るテーブルまで来た。
「よっ、やっぱり時間より早く来たか、エリカの性格なら、そうだろと思ったが」
『マネ……部長、もう来てたんですね? 待ちました?』
「いや、大丈夫、俺の都合で勝手に早く来てただけだから」
そう、俺は今日、俺がキャバクラでマネージャーをしていた時の店に、キャバ嬢として在籍し、俺が来るまではずっと、不動のNo.1の席に座っていた、人気キャバ嬢のエリカと待ち合わせをしていた。
もちろん、新店舗への勧誘を目的として。
エリカに、どこかに移動するか? そう聞いた、この店は少しばかり人の出入りが激しく、長居するのには、不向きな店だったからだ。
エリカも、ここでは、ゆっくりと話も出来ないと言う事で、店を移動する事に了承した。
『どこ行きます?』
「エリカ、お腹空いてないか? ちょっと距離あるが、個室なんかもある、上手い、ウナギ屋があるんだが、どうだ? もちろん、俺がご馳走してやるから」
まぁ……エリカのキャバ嬢としての収入は、俺なんかよりも遥かに多いのだが、エリカは、将来、自分で何かお店を持ちたい。そう聞いた事があり、収入のほとんどを、貯金に回し、普段は割りと質素な生活をしている。きっと、ウナギなんて久しく食べてないだろう。そう思い、ウナギ屋を、提案してみた。
『ウナギ屋さんですか? 部長のご馳走で、行きます、行きます、私、ウナギの蒲焼き大好き』
キャバ嬢は、そんなに好きでも無い食べ物であっても、お客さんに合わせる。と言う事を普段からしている。キャバクラ歴の長いエリカなら、当然、そんなテクニックも駆使しているだろう。
ふと……そんな邪推をしてしまったが、別に俺はエリカの客でも無かったな。純粋に好きなんだろうな。と思い直し、エリカをウナギ屋に連れて行く事にした。
近くに停めてあった車まで、2人で歩き俺が車のロックを、ワイヤレスで外すと、ロック解除の報せが車から返ってくる。
そして……不本意ながらも買い替えるなんて事も、社長の顔を潰すと言う事から出来なかった、黄色のゴツい車に、乗り込む。
『ぶ……部長! これ、Hu@merですよね? 凄い車買ったんですね』
なんて驚くエリカに、この車に乗る事になった経緯なんかを、話ながら、車を走らせて、ウナギ屋に向かった。
ウナギ屋では、個室の席を頼み、エリカと2人、差し向かいで席に着く。
「俺が頼んでもいいか?」
そう聞くと、二つ返事で、それでいいと返ってきた為に、俺がエリカの分も注文した。
ここで、見栄張って【うな重特上】なんて言いたいところたが、お客さんのご馳走では無く、俺の払いって事で、エリカなら間違いなく遠慮する。そう思い【うな重上】にしておいた。
「エリカ、お前と出会った店、無くなっちゃったな」
『そうだね、仕方ない理由だけど、寂しいね』
「最初は、エリカ、俺の言う事全然聞いてくれなくて、アソコの席は嫌だ、ココに着けろって、ずっと文句言ってたよな」
俺が、笑いながら、あの店で起きたエリカとの思い出を、語ると。
『う~その事は、言わないで下さいよ、ちゃんと部長が優秀だって判ってからは、とっても良い子だったでしょ?』
「そうだな、エリカには沢山、沢山、助けて貰ったな」
そう言って二人で笑い合った。
その後、届いた、うな重を食べながら……
「エリカもアカネも他の子達も、結局は、他の会社の店に行かずに、うちの系列の店に移ってくれて、感謝してるぞ」
『うちの系列、女の子の優遇が良いから、アカネちゃん達とも話して、系列のお店に行く事にしたんだ、みんな一緒に同じ店、って言うのは無理だったけど』
「移った店でも、代わり無く、稼げてるか?」
『うん、そこは大丈夫、お客さんも移ってきてくれたから』
そんな世間話を、しながら、美味しいウナギを食べ終えた頃を見計らい、俺は、今日、エリカを呼び出した理由になる、話を始めた。
「エリカ、ちょっとこれ見てくれよ」
そう言って、エリカに見せたのは、デザイン事務所との、途方も無い程の時間を掛けて決まった、新店舗のイメージイラストだった。
『何なに? うわ~すごいね、うわ! お店こんなに広いの? あ~白いフロアにスカイブルーや、青緑のソファー……あっ! 部長、これエーゲ海だよね? このソファーのスカイブルーから濃緑までの色は、海の色だ、そうでしょ?』
エリカ……すげ~なお前……補足必要無しの100点だよ。
「店の広さは、この街……いや、県内でも1番の広さだと思う、テーブル席が60席、VIPルームもあって、そこに5席の合計65席だ、内装に関しては100点な」
『すごいお店なんだね~』
「そうだな、すごい店になるだろうな、そこにエリカが働いてたら、もっとすごいお店になるだろうな、どうだ? この店で働いてみたくないか?」
俺に突然切り出されて、少し呆けていたエリカだが、実際に、この店で、働いてる自分を想像したのか、じょじょに笑顔になってくる。
『うん! 働いてみたい!』
「そっか、働いてみたいか、それじゃエリカ、この店がオープンした時は、エリカと一緒にオープンを味わえるな」
『え? どうゆう事ですか?』
「この店な、今、実際に、そのデザイン画の通りに、作ってるんだよ、俺の主導の元にな、今の俺の仕事は、この店を実際に、この街にオープンさせる事なんだ」
「まだ、工事をしている最中だが、実際にオープンするのは決定している、エリカ、俺の新しいキャバクラを、手伝ってくれないか?」
そうエリカに伝えると、エリカは、考える素振りすら見せずに。
『部長のお店なの? うん、絶対に私、このお店で働くよ、だから、部長の質問の答えは、YESだよ』
こうして、俺は、先ずはエリカを口説き落とす事に成功した。
「あっアカネや他の子には、内緒にな、順番に声掛けるつもりだから、驚かせてやりたいから」
俺がそうエリカに、言うと。エリカは、驚く他の子達の顔を、思い浮かべたのか、笑顔で、内緒にしておくね。そう答えてくれた。




