閑話。部長の休日(後編)
『ご紹介します、アカネさんとエリカさんです』
付け回しの紹介の後で、それぞれが俺を挟む形で席に座る。
俺は、付け回しが居なくなるのを待ってから、2人に切り出した。
「おい、これ、どういう事なんだ? 何でこんな状態に?」
その一言で、2人の顔は笑顔から途端に、悲しげな顔になり、ポツリポツリと、現在の店の内情を、俺に話し始めた。
さっきまで、俺に着いていたキャバ嬢は、新しく来たマネージャーが、どこかからスカウトしてきたキャバ嬢の1人で、その数は、今は10人程度が居るらしい。
そして、彼女達は、新しいマネージャーの言う事しか聞かないらしい。店長は何をしてんだ? そう聞くと、店長も新しいマネージャーと同じ店から来た店長で、新しいマネージャーのやり方を黙認しているそうだ。
そして、ろくに接客の基礎も教えないで、お客さんに着けている事。露骨に指名をねだったり、オーダーをねだったりそんな、接客をするように、教えているらしい。
当然、そんなキャバ嬢が増えれば、元居たキャバ嬢達にも、同じ事をするように、強要を始めたそうだ。そして、俺や前の店長や大村マネージャーの、やり方を、自分に合ってるやり方としていた、キャバ嬢の多くが店を辞めてしまった。
アカネとエリカも、この店に愛着があるから、今まで残っていた、お客さんを多く抱えていて、ある程度は好きにやらせて貰える事から、残っていたが、店を変わる事を考えていると言った。
「なぁ、店長はどうしたんだよ? 相談しなかったのか?」
俺がそう聞くと、エリカが。
店長はエリアマネージャーになって、この店の事も見てくれているが、前のように、ほぼ毎日顔を出してくれる訳でも無い事。
後、新しくキャバクラを1店出す事になって、そちらに、掛かりきりになってしまっている事を教えてくれた。
「お前ら、2人とも、俺の携帯の番号だって知ってたろ?」
そう言うと、アカネが堰を切ったかのように、一気に涙声になり、俺に訴えてきた。
『知ってたよ、何回も電話しようとしたよ、私もエリカちゃんも、だけど……木村マネージャー、なんか、会社でも初めてのお店を出すから忙しくしてるって、本部長にチラリと聞いてたから……邪魔しちゃうかも? って……』
「そっか……ごめんな、お前達の気持ち考えずに」
とにかく、店の現状は最悪1歩手前。そして知ってしまった以上は、見なかった事にも出来ない。
俺は、エリカにマネージャーを呼ぶように伝えた。
エリカは席を立ち、マネージャーを呼びに行った。
マネージャーがやって来て、私に、何かご用件があるとお伺いしましたが? と、お客さんを相手にするように言ってきた。
どうやら、エリカは俺の事を何も言わずに呼んだらしい。
「ちょっと、そこ座ってくれるかな?」
マネージャーが素直に座るのを待ってから。
「ちょっと聞きたいんだけど、俺さ、このお店の事が大好きなのよ、でさ、しばらく仕事の都合で、来てなかったんだけど、今日たまたま時間出来たから、来てみたのね? ねぇ、この店どうなっちゃったの? 俺の知ってるお店と、全然ちがうんだけど?」
マネージャーは、俺からの質問に、少しの間どう答えるかを、考えた後。
『以前と上の物が、変わりまして、それによって少し、経営の仕方に変化が出てしまいました、まだ以前から在籍していた、女の子達にも、指導が行き届いていない部分もあり、何かお客様が、ご不快になられた事があるなら、私が謝罪いたします』
そう、言ってきた。俺はこの時に、お前ごときが謝って収まるような問題じゃない! そう思い、更に聞いてみた。
「上が変わったんだ、そっか、誰が変わったの? 山田社長? 川原専務? 中村本部長? 田中部長? ねぇ、誰が変わっちゃったの?」
俺のセリフを聞き、俺が同じ会社の人間で、マネージャーの自分の事を席に呼びつけられる程度の人間である事を、悟ったようだ。
「その胸のインカムで、店長呼ぼうか? ね」
そして、店長も呼びつけた。
「店長、マネージャーの横に座ってね、それでさ、この店の現状は店長の指示なの? 杜撰なキャバ嬢への指導、やりたい放題のマネージャー、黙認してる店長、どんどん辞めて行く元から居たキャバ嬢に男性スタッフ、店長さ、この店どうしたいの? 潰したいの? あっ店長、ライバル会社が送り込んで来た敵なのかな?」
『あの……すみません、どちら様でしょうか?』
そこからなのか。そっか、まぁ部も違うし、知らなくて当然か。
「俺は、店長やマネージャーと同じ会社の人間、そして、役職は【無店舗型性風俗事業部】って知ってる?」
『はい、なんか新しく出来た事業部ですよね』
「そうだね、俺はその事業部の【部長】なの、部署は違うけど、店長やマネージャーの上司、分かった? ついでに言うと、元この店のマネージャーね」
自己紹介をした直後に、アカネから。
『付け回しを10分で覚えた変態マネージャーだよ、この人が』
おい! シリアスにお説教してるところで、アホな事言うな、変わってないなアカネのアホっぷりは。そう思い、思わず苦笑いをしてしまった。
「とにかく、こんな現状は個人としても、会社の部長としても、許しておけないので、キチンと社長、専務、本部長には報告を入れておくから、どうなって、どんな処分が2人に下るのか知らないけど、覚悟しておくように、それと、マネージャー、チェックして」
そして、俺は料金を、払い、店を出た。
背後から聞こえるアカネの。
『マネージャー、部長さんなんだ~すご~い! 木村部長だね~』
と言う、アホなセリフと共に。
そして、店を出て直ぐに、本部長の携帯に電話を掛け、充電が無くなり強制的に電話が切れるまで、小1時間ほど、ひたすら本部長に説教をした。
そして、この事がキッカケとなり、後にあんな事になるとは、この時の俺は、知る由も無かった。
次の話より、第5章の開始となります。




