性風俗の常識
ルイをお店の仲間に紹介するのも、無事に済んだ……無事だったはずだ……
ルイを連れ事務所兼寮のマンションの部屋に連れて来て、リビングに入った途端に、ルイの事を見付けた近藤が。
『あ~! ルイちゃんだ、え? え? 面接してきたのルイちゃんなの?』
と、突然喚き始めた。聞くところに寄ると、キャバクラ情報誌を愛読しており、ルイの特集等で、ルイの顔をしっかりと記憶していたそうだ。
後は……ユキがヤキモチと言うか、まぁ少し機嫌が悪くなっていた。これには、訳があり、俺がキャバクラ時代で働いていた時に、何故かルイは、俺の事が大好きだったらしく【木村マネージャーの彼女になるのは、私だ】と公言までしていた事に理由している。
とても嬉しい事なのだが、残念ながら俺には既に、ユキと言う俺には勿体ないぐらいの彼女が居た事から、ルイの希望は叶えてやれなかった。
それだけなら、まぁ1つのお店の中での出来事で済むのだが……ルイが俺の彼女になりたい! 宣言をした時に、悪ノリ大好きな、本部長がその場に居た事から、俺が先回りするよりも早く、本部長の口からユキにこの事が伝わっていた。
まぁ……そんな出来事もあり、ユキはルイにあまり良い印象は持ってなかったようで、その日、2人の部屋でずっと、ひたすらユキへの説明と、どれだけ俺がユキの事が好きなのかの説明と、更には、言ってる事が嘘では無いと言う内容の証明書まで書かされ、署名捺印までさせられた。
今ではユキも、わだかまりが無くなり、普通にルイと接しているが、時おり。
『ユキさんが、店長と別れたら直ぐに教えて下さいね、私、頑張っちゃうから』
『ルイちゃん、そんな事起きないから、待ってても無駄だよ、それより近藤クンと付き合ったら?』
等と、冗談まで交わせるようになっていた。
ところで、近藤よ……冗談で言ってるだけだし、幹部以外の男性スタッフと風俗嬢との恋愛は、絶対禁止だぞ! バイトに雇う時に説明したの忘れて無いか?
ルイの事を面接し、雇う事になってから、3日後、俺はルイを事務所に呼び出していた。
「ルイもいつまでも、収入無しじゃ大変だろうから、明日から、ルイの勤務開始にするからな、事務所で待機してる時間もちゃんと時給が発生し出すから、そのつもりでな」
明日からは、キャバクラ嬢では無く、デリヘル嬢として、実際にお客さんの所に行って貰うという、宣告をした。
ルイは、覚悟は出来ていただろうが、改めて言われ、少し緊張をしながらも、しっかりと頷き返事をした。
さて、それじゃ、やらなきゃいけない事がある。そして、俺の心情的に、藤田にやらせたくは無い、ユキはその辺は割り切ってくれてるから問題は無いだろう。
「それじゃルイ、出掛ける準備しろよ」
その一言で、ルイ以外の全員には、俺が何をルイにするのかを理解した。チラリとユキの方を見たが、特に気にした様子は見せて無かった。
『うん? どこ行くんですか?』
「ここから歩いて5分のところにある、ホテルだよ」
『え? ホテル? 店長と? 何で?』
やっぱり理解はしてないよな。同じ風俗嬢とは言え、キャバクラと全然違う仕事内容だもんな。
「何でって、お前、お客さんの所に行って、どうやってサービスするつもりなんだ? 誰かが教えなきゃダメだろ、それを今から俺がルイに教えるって事だよ」
俺が言ってる事を、理解したのか、ルイが慌て出す。
「いや、別に俺に教えて貰うのが嫌なら、藤田でもいいけど?」
『て……て……店長がいいです! あっいや……店長でいいです!』
余計誤解を与えるような、言い直しをするなよ。
俺は、お店で使う備品なんかを置いている、リビング続きの部屋に入り、必要な物を、選び取り出してリビングに戻る。
「ほら、ルイ、自分のバッグの中に、これ入れとけ、必需品だから」
そう言って、ルイに。
キッチンタイマー。コンドーム3枚。ピンクローター。新品の黒とベージュのパンスト。除菌ウエットティッシュ。イソジンの小瓶。新品の歯ブラシ。新品の歯磨き粉。新品のプラスチック製の小さなマグカップ。小さなプラスチック容器に入ったボディソープ。小型だが強力なスタンガン。
これらを渡した。
「使い方は、現地で教えるからな」
『こんなに、必需品が要るの? 入りきらない……』
「今日は、俺が入らないのは、持っててやるが、明日からは、これ全部入るバッグかカバンに、ちゃんと変えておけよ、無くて困るのはルイなんだからな」
入りきらなかった物を、紙袋に入れて、手に持ってやる。
さてと準備も出来たし、行くか。
「あ~ルイ、今から行うのは【講習】って言って、全員が経験してる事だからな、あっバイトの近藤以外は、これもちゃんとした仕事の内の1つなんだから、しっかりと、そのつもりで言われた事、教えられた事を覚えたり、メモしたりするのを忘れるなよ、後、この講習には、ちゃんと給料が発生するからな、教えて貰うけどお金も貰える訳だ」
『はい、分かりました、でも……』
そう言って、ルイはしきりに、ユキの方を見ている。
するとユキが視線に気付いたのかルイに言った。
『あっ私の事が気になる? 大丈夫だよ仕事の時はちゃんと割り切ってるから、太郎ちゃんもね、じゃなかったら、風俗嬢を彼女にしないし、彼氏と同じお店で働く訳ないでしょ? 講習は大事だよ、ちゃんと受けて覚えてきてね』
そう言って、ルイに気にする必要が無い事を言った。
「未経験者だから、少し長くなると思うけど、お店の事よろしくな」
最後に、みんなに声を掛けて、ルイを引き連れて、部屋から出て、最寄りのホテルへと向かった。
次話は実際に【講習】の事を書く予定でいます。この講習内容は、どこかで書かないと、絶対に裏側が伝わる事は無い。そう思ってました。
なるべく、直接的な描写は避けて書くつもりでいますが、少し、そっち方面の内容になりますので、ご注意下さい。