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再会と面接(前編)

今回は、前後編の2話構成です。

こちらは前編。こちらからお読み下さい。

 デリバリーヘルス【sweet line】開店から早1週間。


 ミキとマリナが、風俗情報誌に乗せている、お店の紹介ページに、顔出しの写真OKを言ってきてくれた事により、お客さんの方は、順調過ぎるほど順調だ。


 ミキやマリナを指名するお客さんが、かなり増えた。

基本、風俗。特に性風俗のお店の場合は、顔を出して紹介すると言うのに抵抗を感じるのが普通だ。口元や目を手で隠したりしている写真はよく目にすると思うが、顔を全てさらけ出すのは、あまり見掛けないと思う。


 2人とも、県外からこちらに来ている女の子なので、その辺りの抵抗が少ないと言う事もあるのだろう。

そして、2人とも【飛びきり】と言う訳では無いが、キレイまたは可愛らしい顔立ちをしている。

デリヘルで女の子を呼び、このレベルの女の子が来たら、お客さんは【大当たり】を引いた。と思う程度には、容姿にすぐれている。


 そんな女の子が、顔を出して紹介され、そんな女の子が在籍している、うちの店は、ミキやマリナを目当てにした、お客さんが増えた。そして、顔出しNGになってるが、ユキの容姿は、ミキとマリナを越えている。伊達に前の店でNo.1だった訳では無い。


 良いデリヘル嬢に恵まれた、うちの店が繁盛しない訳が無かった。

ミキとマリナには、本人達の希望で週毎に給料を払う週払いになっており、最初の給料を貰った時点で、2人とも前のお店よりも給料の額が多い事を喜んでいた。

それは、ミキとマリナが頑張った成果でもあるし、うちの店が風俗嬢には、出来る限りの誠意を持って当たる。と言う俺の考え方によるところでもある。


 そして、お店が繁盛して、忙しくなった事は非常に嬉しいが、人手不足と言う困った事態も起きていた。

自由待機で働いてくれている2人の風俗嬢にも、事務所待機に切り替えが出来ないかを、打診してはみたのだが、イマイチ良い返事は貰えなかった。


 そこで、普通は風俗業界でも、せいぜいキャバクラぐらいまでしか使わない手を打ってみる事を、藤田との会議で決まった。

普通の求人情報誌に、求人を出してみる事にしたのだ。

結果は、普通の求人情報誌なだけあって、連絡はかなり来たのだが、電話口でお店が【デリヘル】であると告げると、断られる事が多かった。


 そろそろ、本部長に泣き付いて、また系列の性風俗のお店から、風俗嬢を回して貰うしか、もう手が無いかな? と考え始めた頃に、それは起こった。


 この日も、いつもと同じように、受け付け開始時間の前に、ユキと2人で事務所に来た。リビングに入り、ソファーに座っていた藤田が、1枚のメモを渡すと共に言ってきた。


 『店長、さっき、うちで働きたいって女の子から電話ありました、これ、その子の連絡先、折り返し電話しますって言ってあります』


 「お~そうか、ちゃんとうちが、デリヘルだって事は伝えた上で連絡先を聞けたんだよな?」


 藤田が聞かないなんて言うミスをする訳が無いと思うが、念のため確認してみると、藤田もちゃんとうちが性風俗のデリヘルである、それでも働いてくれるのか。確認を取ったと答えた。


 俺は受け取ったメモに書かれている、連絡先に、プライベート用の電話では無く、仕事用の本社が用意した携帯で、早速電話を掛けてみた。


 「もしもし、○○さんの、お電話でよろしかったでしょうか? こちらは、先ほど求人の応募をして戴いたお店の店長の木村と申します………………」


 電話を切った後に、藤田の顔を見ながら。


 「アポ取れた、1時間後に待ち合わせして面接って事になったから、上手く事務所待機で働いてくれるように、頼んでみるわ」


 まだ、働いてくれるのかすら不明だが、それぐらい人手に困っていた俺は、天から伸びる1本の蜘蛛の糸にすがる気持ちで、そんな早とちりな事を言ってしまっていた。


 「あっドリンクバーで」


 結局俺もかなり気が逸っていたようで、約束の時間の30分も前に、相手が指定してファミレスに到着してしまっていた。


 ドリンクバーからコーラを持ってきて、タバコを吹かしつつ、面接の時に見せる為の、女の子用のマニュアルに不備が無いかを、確認していた時に、仕事用の携帯が鳴った。


 「はい、木村です、あ~着きました? それじゃ入り口まで行きますから、そこで待ってて下さい」


 入り口まで迎えに行く為に、席を立ち、店内を歩いていた時に、ふいに声を掛けられた。


 『木村マネージャー』


 俺の事をマネージャーって呼ぶって事は……そう思いながら、声がした方を向くと、そこには、キャバクラ時代にキャバ嬢として、同じ店で働いていた【ルイ】が立っていた。


 「お~ルイ、久し振り、元気だったか?」


 『うん、マネージャーも元気そうだね』


 「あ~ルイ、ごめんな、ちょっと今から女の子と面接があるから、また電話するから、今日はちょっとな」


 ルイに会えた事は嬉しかったのだが、タイミングが悪い。

俺はこれから、大事な女の子と面接をしなきゃいけない。

ルイに仕事で来てるから、付き合ってやれないと言う事を伝えた。


 『あっ大丈夫だよ、マネージャーの面接相手、私だから』


 そう言って、俺に笑い掛けてきた。

俺は、一瞬、何を言われているのか、咄嗟に判断も反応も出来ず、ちょっと呆けてしまっていた。


 『だから、マネージャーが今から会って面接する女の子は、私なの、聞いてる? マネージャー』


 「え? ルイなの? うちの店に求人の応募してきたのって? え? 何で?」


 それから、2人で席に座り、置かれている状況と理解が追い付くまでに、コーラを一杯とタバコ1本が必要となった……


 「それで? 何でなんだ?」


 『マネージャー、怒ってる? なんか顔怖いよ?』


 「マネージャーじゃなく、店長な、今は店長」


 怒ってる? 俺がか? 怒ってるのか? いや……怒ってるんだろうな。うん、怒ってる。俺は、怒ってる。


 「ルイ、お前キャバクラはどうしたんだよ? と言うか、お前がデリヘルで働く必要無いだろ? キャバクラであれだけ人気あったんだから」


 『キャバクラは辞めちゃった』


 コイツはさっきから、何を俺に言ってるんだ? キャバクラは辞めた? 訳が分からん。No.2~3の順位を常にキープしていて、売り上げも100万から下がった事すらない、キャバ嬢が店を辞めた?


 『あのね、私ちょっと前まで体調崩してちゃってて、お店ずっと休んでたの……』


 「え? 病気か? もう大丈夫なのか?」


 『うん、もう大丈夫、店長……相変わらず優しいね』


 そう俺に笑い掛けるルイの顔は、確かに俺が毎日のように、顔を合わせていた、キャバクラ時代と変わらない、元気一杯の可愛らしい顔をしている。


 『それでね、お店休んでる間、営業とかもほとんど出来なかったから、お客さんが、ほぼ全員、他の女の子に流れちゃってね』


 俺は、ルイの話を黙って聞いた。確かに営業活動もせず、どのぐらいの期間か知らないが、放置どころか、メールしても無視されたら、ほとんどのお客さんは、他の女の子のところに流れるだろう。


 『それでね、体調が良くなってから、お店に戻ったんだけど、当然ランクはめっちゃ下がってて、それは、仕方ないって思ったから、また頑張ろうって思ったんだけど……』


 「お客さんが、全員離れてて、更に、連絡が一切取れなかったから、他のキャバ嬢だけじゃなく、お客さんからも【辞めて無かったのか。何で今更】そんな風に見られた、だな?」


 俺の言った事が図星だったようで、ルイは黙って頷いた。

そして、お客さんが全く居ないと言う状態で、他の店に行っても、同じかそれ以上に、イヤな思いをしていただろう。

ルイは、キャバクラ専用の情報誌に載せる店のページにいつも顔を出して自分の事を売り込んでいた。

可愛いとみんなが言う容姿のおかげで、その情報誌で特集なんかも何回かやっている。ルイはキャバクラ嬢として、同業者にも顔が売れている。

そんなルイが店に移って来たら、誰もが期待するだろう。

誰もが、すぐにNo.3までに上がると言う事を思うだろう。

だけど、ルイ目当てにしてるお客さんが居てこそ可能な事を、お客さんが居なくなったルイには不可能だ。

キャバ嬢として、ゼロに戻ってしまったルイがキャバクラ業界を去る事は、正しい判断だと俺も思う。


 「お前が、病気と言う不可抗力のせいで、店に居辛くなって、キャバクラを辞めたって事は、まぁ納得した、それはいいが、何でデリヘルなんだ?」


 ルイは、俺のその質問に、答えにくいのか、暫く何も言わずに、顔を下に向けていた。5分ぐらい経っただろうか? ルイが下に向けていた顔を上げて、話を始める。


 『うん、私ね、キャバクラでそれなりに人気あったでしょ? お給料も普通の女の子に比べて、何倍も貰ってたから……それでね、1回は普通の仕事って言うか、アルバイトもしてみたんだ……』


 「慣れ切った当たり前の生活のレベルが維持出来ないって事を、目の当たりにしたって訳だ……」


 俺がルイよりも先に答えを言ってやると、ルイは頷いた。

人間、1度覚えた贅沢や生活レベルを、そんな急激に落として暮らして行ける訳が無い。着てみたいと思った服を気軽に買えてたのに、買えない。高級なレストランで美味しい料理を食べれたのに、そんなところで食事する余裕なんてまるで無い。

普通の人間なら、よっぽどの決意でも無い限りは、耐えられる訳が無い。


 「お前の事情は分かった、贅沢は辞めて普通に暮らせ、そんな事は俺は言わない、ちゃんと自分で考えて、デリヘルで働こうって決めたんだよな?」


 『うん、沢山考えて、沢山悩んだけど、1度贅沢な暮らしを覚えちゃったから……』


 「それじゃ、ルイ、お前を俺の店で雇ってやる」


 『本当に? マネージャー……じゃなかった、店長ありがとう』


 こう言う女の子も風俗業界には沢山居るんだ。ホストに騙され貢ぐ為に自分の体を使う風俗で働く。そんな理由なんかより、自分の贅沢の為に、風俗で働くって動機の方が、何万倍もマシだ。

それが、普通に暮らしている人達から見たら、酷く歪に見えていたとしても……

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【風俗嬢と呼ばれて……】堕ちたJDの末路
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