面接、そして涙……
マネージャーとして、店の責任者と言う立場にも、何とか慣れて来た。
男性スタッフとの仲も、風俗嬢のお姉さん達との仲も悪くはないはずだ。
そんなある日、俺が夜の勤務で、昼勤務していた店長と、引き継ぎの話をしている時に、店の電話が鳴った。
男性スタッフの1人が電話に出ると、風俗嬢として働きたいと言う面接希望の女の子からだった。
俺はまだ、実際に風俗嬢の面接を行った事が無かったので、店長がマネージャーとして、電話で話し、面接の約束を取ってみろ。そう言ってきた。
どんな感じの子なのか、少しドキドキしながら電話を変わると、大人しそうな少し小声で、面接を受けたいと言う事を伝えてくる。
女の子の都合の良い日、都合の良い時間、いつでも面接対応が可能な事を伝えると、女の子は、今キャバクラで働いているので、お店が終わった後の時間に面接を希望してきた。
電話をしながら、メモを取り、相手の連絡先を聞き、俺の携帯の番号を教えて、電話を切った。
『マネージャー、深夜の面接希望みたいだけど、行けるよね?』
店長に聞かれたので、行けますと答えた。
この業界、女の子第1主義的な所が多々あり、女の子が希望するなら、24時間の内、何時でも女の子の都合に合わせて面接等を行う。
今回は、俺が初めての風俗嬢となるかも知れない女の子との面接と言う事で、昼の勤務が既に終わっている店長も、付き合ってくれる事となった。
その日の業務を終え、閉店後の店に残り、収支の計算等を終わらせた頃に、店長が店へとやって来た。
女の子との待ち合わせ時間が深夜の2時だったので、これから二人で、女の子と待ち合わせしている、ファミレスへ向かうには、頃合いだろう。
二人で車に乗り、向かう車中で、店長から。
『一番、気を付ける事は、絶対に無理に、働きたい理由は聞いたらダメだからね、それぞれ色んな事情があるし、そんな理由を知ったとしても、俺らに何かしてあげられる訳でも無いから』
そう言って、俺がこれまで、すっかりと勘違いしていた、店と風俗嬢との関係の真実と言う物を教えてくれた。
店とは、ハッキリ言えば、風俗嬢と言う個人事業者に、安全で便利に働ける【場所】を提供しているだけ。
だから、風俗嬢は厳密には、店に雇われている訳では無い事。
風俗嬢は、自分の体を使い、お客さんの相手をして、俺達が用意した、安全で便利な場所を借りて仕事をしている。
お店を場所として選んで貰った見返りに、細々とした雑務、お客さんの相手なんかも行う。
そして、風俗嬢は、お客さんが払ったお金の中から、決まった金額を、場所代としてお店に支払っているだけ。
そんな事を教えられた。俺は、風俗嬢も男性スタッフも同じように雇われていて、一緒に働く仲間だと、思っていただけに、そのドライな関係に、正直驚いた。
『だから、風俗嬢がうちのお店を場所として使ってくれて、ちゃんと場所代を払ってくれたら、ぶっちゃけそれで、お店としては、OKなんだよ、そこに、風俗嬢が風俗嬢として働いてる理由なんかは、関係ないから、絶対に聞いちゃダメだからね』
俺は、店長の言った言葉を、心の中で反芻しながら、改めて、真実を受け止め消化していった。
その後は、黙って、お店と風俗嬢との関係の良い在り方と言う物をずっと考えていた。
店長は、そんな俺をチラリと見て、微笑ましそうに笑い、その後話し掛ける事も無かった。
約束したファミレスには、時間の30分ぐらい前に着いた。
店長と二人で、ドリンクバーを頼み、女の子を待つ。
『さてと、来てくれるかな?』
「え? 仕事の面接なんですから、来るでしょ?」
『いや、来ない事も、それなりにあるから、いざ! ってなって尻込みしたり、まぁ色んな理由でね』
なるほど。確かに未経験なら、自分の体を使う風俗嬢になるなんて、相当な勇気が要るよな。土壇場で止める子もそれなりに居そうだな。
『あっ来なくても、連絡とかしちゃダメだからね』
その後、お店には慣れたか?
風俗嬢や男性スタッフとの関係はどうだ?
何か疑問とか無いか?
等の普通の上司と部下らしい会話をしていると、俺の携帯が鳴った。
「はい、あぁはいはい、もうファミレスの中に居るので、入ってきて下さい、どんな服着てますか? こちらから見つけますので」
そして店長に、後5分ぐらいでファミレスに着くそうです。そう伝えた。
その子は、見た目がとてもキレイで、ヘルスで働かなくても、キャバクラで十分な収入を得られる容姿をしていた。
俺は、働く理由を聞かないつもりだったが、余計にどうして、こんな子が風俗店のファションヘルスで働こうとしてるのか、逆に気になった。
店から持ってきていた、非常に簡単、名前と年齢と連絡先だけを書けばいい履歴書と、ペンを渡し、記入してもらう。
どこに住んでるとか、そう言う事も知る必要はない。
記入し終わるのを待ってから、店長が女の子にいくつかの質問をした、俺はそれを、聞き逃さないように、しっかりと聞いていく。
次は、店長の付き添いは無い、都合により、俺か店長かどちらになるかは、不明だが、確実に俺も1人で、面接をする時が来るであろうから。
『働いてくれるとして、どのぐらいお店に来てくれそうかな?』
『週に4日から5日ぐらいなら』
『どれぐらいの収入を、風俗嬢として働いて期待してるかな? 大体でいいから教えてくれるかな?』
『大体……50万から100万ぐらいは欲しいかな……』
『その金額を、稼ぐ事は、ハッキリと言えば可能だよ、頑張れば、その何倍でも手にすることも出来る、頑張れば頑張っただけ、それに見合う収入が得られるって事は約束するよ』
『そして、月に50万から100万、出来たらもっとって思うなら、軽いバイト感覚だと無理って事も、ハッキリと伝えておくね、昼でも夜でもいいけど、決まった時間フルにお店に居て、お客さんの相手をして、初めて、その金額が稼げる、どう? やれそうかな?』
『はい……頑張れると思います』
『うちのお店と言うか、系列の会社を知ってるか分からないけど、うちの系列は、風俗情報誌3社、スポーツ新聞2社に、広告を出してるから、お客さんは他のお店と比べたら、圧倒的に数は多い、だから、収入が今日は無かった、そんな事は絶対に無いから』
『いつから、お店に出てくれるかな?』
『明日からでも……昼でも夜でも、より稼げる時間で』
『それじゃ、明日また連絡するから、明日は仕事をしているつもりで、いつでもお店に来れるように待機しておいてくれるかな?』
『マネージャー、彼女の携帯の番号、合ってるか確認して』
真剣に店長の話す事に集中していた俺は、急に声を掛けられて、少しアタフタとしながらも、履歴書に書かれた携帯の番号と、俺の携帯に掛かってきた番号を照らし合わせた。
「大丈夫です、確認取れました」
『それじゃ、きっとキャバクラで働く時にも、提出を求められたと思うけど、何でもいいから、身分証を見せてもらえるかな? 免許証でも保険証でも学生証でも何でもいいよ』
そう店長が声を掛けると、言われる事を予想していたのだろう、素直に、免許証を提供してくれた。
『ちょっとだけ、免許証を借りるね、マネージャーそこのコンビニに行って、免許証のコピー取ってきて』
俺は、店長に言われて、彼女の免許証を手に取り、少しだけお借りします、すぐ返しますね。そう一言、言ってから、席を立ち、向かいにあるコンビニへと走った。
その後、細々とした話をして、彼女と別れた。
『とまぁ、こんな感じで面接をするんだけど、次から1人でいけそう?』
「はい、大丈夫そうです」
店に戻る車の中で、店長が俺にこんな話をしてくれた。
『あの子、ヘルスで働く理由は、間違いなくホストにハマってるね』
店長の確信めいた言葉に驚くと、顔に出ていたのか、そんな俺を見て笑いながら。
『キレイだったでしょ? きっと今働いてるキャバクラでも、それなりには人気あるんだろうね、服を買ったりブランド品を買ったり、そんな理由でお金が欲しいなら、キャバクラで働いてても間に合うぐらいには、稼いでるだろうね、でも、ホストにハマり、まぁ悪く言えば騙され、良い金づるにされてるんだろうね、キャバクラでの稼ぎじゃ、そうそうホストクラブになんて行けないしね、ホスト辺りに』
『俺ももっとお前に会いたいよ、だから、ちょっと我慢してヘルスでバイトしてみろよ』
『まぁそんな感じの事を言われたんじゃないかな、ホストにハマり、ヘルスで働く子は、ホストにハマってる間は、真面目に働いてくれるから、お店としてはなるべく長くホストにハマってて欲しいね』
店長のあまりの言い草に、二の句が告げなくなってしまった俺は、睨むように店長を見ると、店長は少し困ったような、苦笑いを浮かべて。
『まぁ、それはお店の店長って立場で言うならね、本当は、早くホストなんかと手を切って、別の目標の為にお店で働いて欲しいよね、俺も女を食い物にしたい訳じゃないから、ヘルスで働けば、普通に働くよりも大金が手に入る、その自分の体を使って稼いだお金は自分の為に使って欲しいよね』
店長の本音を聞いて、俺は何故か分からないが、ホストにハマりヘルスで働く女の子、自分の夢の為にヘルスで働く女の子、色んな理由で働く女の子が居ると言う事を実感して、涙を流していた……