開店。
今日、ようやくと言っていいのかは、分からないが、今日から俺が1から準備を始めた、デリバリーヘルス【sweet line】がオープンする。
あれから、藤田と何度も何度も、実際にお客さんの元に訪ねる上で、障害になる事や、気を付けるべき事などの、洗い出しを徹底的に行った結果。早急に少なくても後1人の男性スタッフが必要だと言う事が分かった。
基本的に、お金等も扱うと言う事から、俺か藤田がデリヘル嬢の送迎を行い、事務所に居て電話番をしてくれるスタッフをアルバイトで雇う事にした。このバイトには、藤田の友達の近藤と言う男が、就いてくれる事になった。近藤には、徹底的に電話対応だけを教え込み、何とか合格点を出せるように、指導も終わらせてある。
そして、迎えたオープン当日。
本社の方からも、初めてのデリヘルと言う事で、期待が高いのか、先程まで、社長と専務が事務所のあるマンションの1室に、わざわざ足を運び、俺や藤田。アルバイトの近藤。それに基本事務所に待機する事になっているデリヘル嬢。ミキとマリナ、そして俺の彼女のユキ。全員と挨拶を交わし、開店記念と言う事で【金一封】を差し入れてくれた。
店長、木村。マネージャー、藤田。アルバイト、近藤。事務所待機デリヘル嬢、ミキ、マリナ、ユキ。他に自由待機のデリヘル嬢を2名加えた総勢8名で、店を経営していく。
広告も、本日開店で、風俗情報誌3社とスポーツ新聞に広告を出した。まぁまだ、オープンすると決めた時刻を、過ぎたばかりだ。そんなすぐに電話が鳴るような事も無いのだが、藤田は、さっきから、電話の置いてある事務机に、かじりつき動こうとしない。
他のメンバーは、思い思いに、寛いでいる。ミキとマリナは自分の部屋に、近藤は持ち込んだゲーム機を、リビングに置いてあるテレビに接続している。ユキと俺はそんなスタッフ達の姿を眺めていた。
「藤田~オープン初日の平日の昼間に電話は鳴らないと思うぞ、
鳴るなら、もう少し経ってからだろ」
電話をずっと凝視している藤田の姿が、見ていて笑えてくるので、そう言って、落ち着かせようとおもったのだが、藤田は逆に。
『最初の電話は俺が出る! って昨日から決めてたんです!』
そう言って、動こうとしない。そこに近藤から。
『いや……記念すべき最初の電話って言う理屈なら、お前じゃなく、店長さんに譲るのが普通だろ? 何でお前なんだよ?』
と、冷静にもっともだと思えるツッコミをした。
そのやり取りを見て、俺とユキは、思わず笑ってしまった。
昔から友達だった2人は、最初から緊張も遠慮も無いらしい。
それから2時間ほど経ったが、電話は鳴らない。
俺も初日の昼間に電話が鳴るとは思ってなく、勝負は18時以降だと考えていたので、特に落胆なども無かった。
藤田は、まだ事務机で頑張っているようだが。
そして、時刻は18時30分を少し過ぎた辺り……
リビングの中に響き渡る。プルプルルと言う電子音、来た! 初めての電話だ!
そして、俺と近藤は顔を見つめ合わせ、俺が近藤に頷くと、近藤が電話の受話器を取った……
『はい、御電話ありがとうございます【sweet line】です…………』
『山本様、本日は【sweet line】のご利用ありがとうございます……』
近藤は静かに受話器を電話器に置いた。
そして、俺に、1枚のメモを渡してきた。そこには、コースとお客さんの名前、連絡先、市内にあるホテルの名前と部屋番号が書かれていた。
「きたぞー! 初めてのお客さんだ!」
俺は思わず声を上げて、叫んでしまった。
因みに、電話が鳴った時に、藤田は丁度トイレに入っていた。
俺の叫びが聞こえたのか、ミキとマリナがリビングに駆け込んで来る。それに少し遅れて、どこか悲しそうな顔をした藤田もやって来た。
デリヘル嬢の誰の名前を、俺が言うのか。それを3人のデリヘル嬢が、固唾を飲んで待っている。
ここは、他の2人には、大変に申し訳無いが、客観的に見て1番、容姿の良い子の名前を言わせて貰おう。
「ユキ、いいか?」
俺がユキの名前を告げる。ミキとマリナは、まぁ仕方ないか、と言う顔をしていたが、どうせすぐにお前達の出番も来るから安心しろ。
「それじゃ、電話に出られなかった藤田、責任持って、お客さんの元にユキを送り届け、無事にユキを連れて戻ってこい」
そう言って、事務机の上に掛けていた、車のカギを藤田に投げ渡した。
『はい、気を付けていってきます』
そう言い残して、藤田とユキが、マンションの部屋から出ていった。俺は、それを見送りながら、事務机の引き出しから、1冊のノートを取りだして、そのノートに日付と時間とコース、そしてユキの名前を記入した。




