男性スタッフ用マニュアル
お店のオープンまで、とうとうあっと3日に迫った。
あれから、事務所として借りたマンションの部屋に、お店で働くミキとマリナと藤田が、余ってる部屋を寮として入居してきた。
今のところ、問題も無く、3人で暮らせているようだ。
時おり、ミキやマリナが全裸や半裸で部屋の中を歩き回るが、藤田も風俗業界に居るだけあって、気にもしてない。
「藤田~おはよう」
そう、声を掛けながら部屋の中に入っていく。
今日は、藤田に電話応対と、ちょっとした接客の為のマニュアルを持ってきた。
基本、デリヘルは、お客さんがどこかのホテルに先に入りデリヘル嬢を待つパターンと、お客さんの自宅に出向くパターンの2種類になる。どちらも、男性スタッフが対応するのは、デリヘル嬢をお客さんの元まで連れて行って、料金を先に払って貰う、ちょっとした間だけなので、そんな細々とした接客マニュアルは必要ない。
ましてや、キャバクラでの勤務経験がある藤田なので、尚更必要にはならないと思ったが、念のため作って、持ってきた。
「これ、電話応対と接客のマニュアルな」
藤田は、まだ寝ていたらしく、寝ぼけ眼で、俺が渡したマニュアルを受け取る。
マニュアルは、色々と悩んだが、こんな感じにした。
【電話応対マニュアル】
・【もしもし】は使わない事
・ちゃんと復唱する事
・到着予測時間よりも、必ず10分遅い時間を伝える事
・お客さんの名前は必ず聞く事
・情報は必ずメモを取る事
【対応例】
「お電話ありがとうございます、sweet lineです」
『お店を利用したいんだけど』
「はい、ありがとうございます、本日は御希望のコースはお決まりでしょうか?」
(決まってない・知らない場合はコースと料金の説明)
『120分コースで』
「120分25,000円のコースを御希望でよろしかったでしょうか?」
(必ず時間の次に料金を言う)
『そのコースでいいよ』
「畏まりました、120分コースのご利用ありがとうございます、本日は、派遣する女の子の御指名は、御座いますか?」
『指名は無いよ』
「お客様の、好みのタイプ等を、教えて戴ければ、出来る限り、近い女の子を派遣いたしますが?」
(指名がある場合は「○○ちゃん御指名ですね、ありがとうございます」)
(好みを伝えて来たら、必ず復唱する事)
「お客様、現在どちらに、おいででしょうか?」
『○△って言う名前のホテルの○○号室に居るよ』
(お客様の伝える場所を必ず復唱)
「○△ホテルですと、市内に御座いますので、交通費2,000円が別途発生致しますがよろしかったでしょうか?」
『いいよ』
「それでは、只今より、女の子を派遣させて戴きます、到着予定時刻は○時○△分頃になると思われます(必ず10分加算)交通事情により到着が前後する事がある事を、御承知下さいませ」
「最後に、お客様の御名前をお教え願えますか?」
『△△って名前』
「△△様ですね」
「△△様、本日は、sweet lineのご利用ありがとうございます」
(相手が電話を切ってから切る、切るまで必ず無言)
「電話応対マニュアルで、何か質問ある?」
キッチンの冷蔵庫から、缶コーラを1本取り出し、リビングに置いたソファーに座り、藤田に確認を取った。
『えっと……この、好みを聞くってところ、聞いて好みに合わない子しか居ない時はどうするんです?』
コイツは何を言ってるんだ? と言う呆れを顔中に出して、藤田に答えた。
「はぁ? そんなもん、行ける子を行かせるだけだろ、ちゃんとマニュアルに書いてあるだろ? 【出来るだけ好みに近い女の子を連れて来る】って」
『と言う事は……』
「建前で聞いてるだけに、決まってるだろ!」
『ひでぇ……詐欺だ……』
「詐欺じゃねぇよ! バカ! 人聞きのワルい事言うな」
そう言って、藤田の頭を軽く叩いた。
そして、前回のミーティングで、すっかり伝えるのを忘れていた事を藤田に伝えた。
「あ~そうそう、この前言うの忘れてたけど、交通費の半分は、送って行った人間の取り分になるからな、半分はまぁお店が貰うけど」
藤田は、了承したと、頷き答えた。そして、もう1枚の紙に目を落とす。
【接客マニュアル】
・到着した時間を確実に覚えておく事
・ドアをノックまたは、呼び鈴を鳴らす事
・お客様が自宅に呼び出した場合は、出来るだけ声量を下げる事
・女の子を1度、お客様に見せた後すぐに、後ろに下がらせる事
・コースと料金と交通費を、それぞれ伝えた後に、合計金額を伝える事
・料金の受け取り後に必ずコースが終わる頃に迎えに来る事を伝える事
例)「本日は120分コースですので、終了時刻の○時○△分頃に、女の子をお迎えに参ります」
・女の子の名前を言いながら、後ろに下がってる女の子を前に出す
・最後に、深く一礼をして、ドアが閉まるまで、姿勢を正して立っている事
・届け先が、自宅の場合は、速やかに、その場を離れる事
『これ、時間までは、何しててもいいんですか?』
「まぁ基本はな、でも、次に届ける先があったり迎えに行く先があったりしたら、そっち優先な、1軒だけで、他に送りもむかえも無かったら、時間まで何しててもいいぞ」
しっかりと読んで、暗記とまでは言わないが、覚えておくようにと、藤田に伝えた。
「それ、覚えたら、リビングの机にでも、貼っておいて」
慣れない内は、トチるかも知れないので、電話を置いてある机の電話の近くに貼っておくように、藤田に指示を出した。




