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アエギ声。

 それは、月曜日で、週明けと言う事もあり、お客さんの来店率は、1週間の中で一番少ない日に起こった……


 時間は、この手の店が活気を見せ始める20時を少し過ぎた辺りだった。その時俺は、事務室とフロアを仕切るカーテンの横に置かれているテーブルに置いてある、消毒用のアルーコルジェルの詰め替え作業をしていた。

別に俺がやる仕事では無いのだが、何となくボトルの位置が気になり、並べ直そうと持ち上げた時に、中身がほとんど入っていない事に気が付いて、詰め替え用の物を、ボトルに詰め替えていた。


 そこに、カーテンを開けて、佐藤兄弟の兄である勝くんが入って来た。彼は少し困惑しているような表情を浮かべて、俺の事を見ると、こんな事を言ってきた。


 『店長……10番テーブルなんですけど、何て言うか、楽しくおしゃべりをしているって感じじゃなく、女の子のアエギ声っぽい物が聞こえるんですよ、ちょっと行って確認してみて貰えませんか?』


 「あぁ、はいはい、いいよ、ちょっと行ってくるね」


 丁度、詰め替えも終わっていたので、その足で言われたテーブルへと向かう為に、カーテンを潜りフロアに出た。


 「アエギ声ねぇ……何だろ? セクキャバ嬢がわざと出して、お客さんを楽しませてる、とかかな?」


 この時の俺は、そんな風に考えていたのだが……


 佐藤兄から報告を受けたテーブル番号のボックスに静かに近付き、そっとボックスを作ってる、パーテションに耳を付けて、中の音を、盗み聞きしてみる。


 そうすると、確かに、アエギ声らしき声が聞こえてくる。

しかも、セクキャバ嬢がお客さんを喜ばせる為にやっている演技には聞こえない感じがした。

俺は、そっとボックスから離れ、急ぎ足で、事務室の方へと向かう。事務室に入るカーテンの前には、佐藤兄が立っていた。


 俺は、無言のまま、佐藤兄に付いて来るように、手で合図を出して、事務室の中へと入っていった。

そして、監視カメラの映像が映し出されている、モニターを操作して、普段は4分割されている画像を、10番テーブルだけを写すように、切り替えた。


 モニターには、お客さんがソファーに座り、セクキャバ嬢が、そのお客さんに跨がるように座っている映像が写されている。

これだけなら、跨がりサービスのある、うちの店では、何の問題も無いありふれた光景だ。


 『店長……これ、確実にヤってますよね?』


 佐藤兄がそう言って、モニターの中の映像のある部分を、指で差し示す。


 「そうだねぇ……これは、普通なら必要無いと言うか禁止行為だもんねぇ……確実にヤってるねぇ……」


 そう佐藤兄に答えた後で俺は、インカムのマイクを入れて。


 【健くん、ちょっと至急、事務室まで】


 佐藤弟を事務室へと呼び出した。


 佐藤弟も映像を見て、確実ですね。と2人と同じ意見を言った。


 10番テーブルの様子を写す、俺達の見ている映像の中のお客さんは、履いていたズボンとパンツを膝の下まで下ろし、そこにセクキャバ嬢が跨がり、上下に揺れている映像だったのだ。


 監視カメラの映像は、常時録画されており、証拠もバッチリだ。

後は、こんな本来は起きて欲しくない、トラブルの処理に向かう事になる。


 まぁ……唯一の救いは、今日が月曜日で、10番の他に後は2人しかお客さんが居ないって事ぐらいだろう。間違いなく、店の中で大事になるのは、確実だ。何かしらのサービスをして、騒がせた事に対して謝罪する必要もあるだろう。

本当に、はた迷惑な事を起こしてくれたもんだ。


 3人揃って、問題のテーブル番号のボックスまで行くと、俺と佐藤兄が中に入り、佐藤弟がボックス席の入り口を固める事を、2人に指示をする。

準備が整ったので、俺と佐藤兄が勢い良くボックス席の中へと突入した。


 中では、いまだに行為の真っ最中だった。突然現れた俺達に驚くお客さんと、セクキャバ嬢のユカ。言い逃れ等出来ない状況で、取り押さえられてしまったからか、二人は、大声を上げるでも抵抗をするでも無く、大人しくしている。


 「お客様、すみませんが、私達と一緒に来て貰えますよね?」


 そう声を掛けた後、素直にお客さんは、立ち上がり、脱いでいたパンツとズボンを履いた。

そして、佐藤兄とボックスの外で待機していた、佐藤弟にしっかりと、両側から腕を押さえ付けられたまま、事務室の方へと向かう。


 俺は残されたユカを見て、溜め息を1つ吐き、ユカの腕を取り、そのまま強引に引っ張って行く。


 事務室の中へとユカを連れていくと、佐藤兄弟の手によって、既にお客さんは、パイプ椅子に座らされていた。お客さんの座る椅子の横に、もう1つパイプ椅子を並べて、ユカに座るように言う。


 「それで? どっちからどう言い出したの?」


 もうこの時点で、俺や佐藤兄弟の中で、パイプ椅子に座っている男は【お客様】でも何でも無く、店に迷惑を掛けた【男】でしか無い。お客さんに接するような態度や口調なんかをしてやる価値すら無くなっていた。


 『この子が、3万くれたらって言ったんだ』


 男のその言い分は、間違いなく正しいだろう。お客さんの立場で、そんな事言って、言った相手にそんな気がまったく無く、逆に店に告げ口されたら、困るだけである。


 「なるほどね……で? これこの事態をどうケリ付けるつもりなのかな?」


 『俺は悪くないぞ、この子があんな事言わなければ……』


 「ねぇ、お兄さんいいかな? ちょっと聞いてね、こう言うお店を出して営業するのには、所轄の警察署に、届け出を出して許可を貰わないと、営業出来ない訳よ、分かる?」


 そこまで言ってから、男の方を見ると、黙って頷く。それを確認した後で、俺は先を続けた。


 「そこには、当然、ちゃんと法律を守って、営業しますって警察と約束をする訳よ、それさ、お店が法律を守りますって約束だけじゃなく【お店に来るお客さんにも、守らせます】って意味も含まれてる訳ね、いいかな? 理解出来てる?」


 『あぁ……』


 「それでね、法律をちゃんと守りますって約束したお店は、約束を守ってくれない人が居たら、警察に通報しなきゃいけない【義務】も発生する訳よ、お兄さんの事を俺達は、警察とした約束の通りに、通報しなきゃダメな訳、もちろん横に座ってる、この女の事も一緒にね」


 俺のその言葉を聞いて、お客さんだけが罰せられる、私はちょっと怒られて、最悪店をクビになるぐらいで済む。そう思ってであろうユカも慌て出す。


 「いやいや、何で今まで落ち着いてたのか、その方が不思議なんだけど? お前も通報しなきゃいけないに決まってるだろ? 特にお前は、お客さんに話を持ち掛けた【主犯】なんだから」


 そう、ユカに告げると、自分の置かれてる立場が、ようやく理解出来たのか、酷く慌て出す。


 「その椅子に大人しく座ってろよ? その椅子から立った瞬間に【逃亡する意思】があると判断して、逮捕拘束しなきゃいけなくなるんだからな? な?」


 二人に向けそう言うと、立ち上がり掛けていたユカが、大人しく椅子に座り直した。


 「それじゃ自分達の置かれてる立場を、やっと正しく理解して貰えたようだし、どうケリを付けるか? の話し合いをしようね、別に話し合いが嫌なら言ってね、警察呼ぶだけだから、どっちでもいいよ? どっちでもちゃんと、お店としては、ケリを付けて貰うから、警察呼んで、警察に逮捕されたって事実を追加したいなら、遠慮なく言ってね」


 そう告げた後に、携帯を取り出して、本部長の携帯に電話を掛ける。


 「あっお疲れさまです、木村です、トラブル発生しました、お店の中で、性行為が行われていました、はい……はい、取り押さえて事務室の中で椅子に座らせてます、はい…はい、お願いします」


 起きた事態を簡潔に報告して、本部長を店に呼び出した。


 「今から、このお店を経営してる会社の、偉い人が来るから、ちょっと大人しく待ってようね、あっなんか飲む?」


 何か飲むなんて事が言える訳が無いのは、分かっていて聞いた。


 それから、20分ぐらい経った後に、本部長が大慌てで店の事務室に飛び込んできた。


 『たまたま……はぁはぁ……近くの店の視察に来てて……』


 息も切れ切れの本部長に、御足労掛けてすみません。と謝り、佐藤弟に、お茶を持ってくるように指示を出した。


 『それで?』


 「はい、こっちに座ってるユカに、3万でどうかと持ち掛けられたそうです」


 『お二人さん、今から2つの解決方法を言うから、よ~く聞いて、好きな方を選んでね、あっ何も無かった事にしたい、なんてバカな選択肢は最初から無いからね? それじゃ1つめね、警察をここに呼んで二人を逮捕して貰う、そして警察に連行されて、警察署で取り調べを受けて、検察に送られて、起訴されて、何らかの罰が与えられる、この場合も、もちろん会社としては、損害賠償の請求をする裁判も同時にするからね? 警察に逮捕され起訴されて罰、まぁ前科だよね? が付いて尚且つ、損害賠償のお金も払う、これが1つめね、因みに俺としては、断然こっちをオススメするよ、お客さんは仕事も家庭があるなら家庭も、全部おかしくなるだろうね、ユカちゃん? ユカちゃんは、まだ成人してない学生なんだってね、当然、両親どころか、学校にも逮捕起訴されたって知られるだろうね、二人はそれだけの事になるぐらい、店に迷惑を掛けたんだから、当然、俺としては、こっちをオススメするよね?』


 本部長が二人を追い詰めて行く。嘘は言ってはいない。そうはならない可能性の話を省いてるだけで。


 『2つめは、警察は呼ばない、だけどお店に迷惑を掛けたんだから、それなりの誠意を見せるって方法、こっちだと、会社にも家庭にも、ひょっとしたらバレないかもね? 後、ユカちゃんは、成人してないから両親にバレるのは、仕方ないけど、学校にバレる事は無いだろうね、どっちがいいかな?』


 こんな話し方をされて、警察を呼ぶと言う選択肢を取れる人は居ないだろう。


 そして、本部長の思惑通りに、お金による示談を望んだ二人は、本部長が来る前に、電話で呼んでいた部下達に連れられて、本社へと運ばれて行った。


 『木村店長、災難だったね、でも二人に暴力を奮ったり、拘束なんかをしてないのが、木村店長らしいよね、ちゃんと、やると不利になる事は、避けてくれて、ありがとう』


 その言葉を残して、本部長は店を出ていった。本部長、こちらこそ、お手数を掛けてしまい、すみませんでした。


 その後、その時に、たまたま居た、2人のお客さんには、騒がせた迷惑料として、次回無料券と次回指名料無料券を配った。

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【風俗嬢と呼ばれて……】堕ちたJDの末路
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