店の雰囲気
本部長に案内され、これから働く店に到着した。
店内に入ると、本部長が小さなキャッシャーボックスの隣に垂れ下がっているカーテン潜り中に入って行った。
俺も続けて中へと入ると、中は元々が厨房が置かれていたであろう空間になっていた。
ただし、キッチン等のコンロ等は無く、流し台に水道の蛇口、大きな製氷器が置かれているだけだった。
周りには、棚が設置されており、規則正しく、グラスやピッチャーやアイスペール、小皿や灰皿等が、並べられている。
店のフロアに続く出入り口の横には、テーブルが置かれていて、そのテーブルの上には、数本のジェルタイプの消毒用アルコールのポンプ容器が乱雑に置かれていて、消毒用アルコールを含ませた、ウェットティッシュ等の箱も置いてある。
部屋の丁度真ん中辺りに、部屋を区切るように【T】の字にカーテンが引かれていた。
本部長によると、向かって右側が、セクキャバ嬢達が使う更衣室になっており、左側が幹部が事務仕事等をする、事務所として使われているそうだ。
なるほど……フードがチャームしか無いから、料理する為の機能は必要ないわけか……俺は、先程、本部長から貰った紙に書かれていた、事を思い出し、このキッチンの造りに納得をする。
キッチンと言うか、事務所と言うか……の中を確認するかのように、見回していると、本部長が、そこに丁度入ってきた、1人の男性スタッフに声を掛けた。
『あっちょっと全員呼んできて』
声を掛けられたスタッフは、はい。と返事をすると、事務所の中からフロアの方へと出ていった。
2~3分経ったぐらいで、先程の男性スタッフと、もう1人の男性スタッフが事務所に入ってきた。
俺は、まず最初に思ったのは。【男性スタッフこれだけ?】であった。
その事が顔に出ていたのか、本部長が教えてくれる。
『スタッフが少なくてビックリした? こう言うセクキャバは、まぁうちの系列のって付くけど、どこも男性スタッフは店長やマネージャーを含めても、3~4人しか居ないから』
『付け回しを常時する訳でも無いし、フードなんかも、たまにチャーム持っていくだけだし、そんなに大勢のスタッフは必要無いんだよ、そしてキャバクラと違って、氷や水なんかも、呼ばれない限りは交換に行かないから』
本部長の言った意味を少し頭の中で、考えてみた。
しばらくすると、答えに辿り着いた。ここはセクキャバなんだから、当然のように、お客さんは、セクキャバ嬢を相手に、胸を触っていたり、キスをしていたりする。そんなところに、不躾に、男性スタッフが氷や水を変えに現れたら、お客さんは遊びにくい。だから、セクキャバ嬢に呼ばれるまで、基本的に男性スタッフの顔を、お客さんの前に出さないようにしている訳だな。
『それじゃ、紹介するね、俺の横に居るのが、今日からこの店の店長として、君達と一緒に働く、木村店長だよ』
本部長が俺をスタッフに紹介した。俺は二人の男性スタッフの顔をそれぞれ見てから挨拶をした。
「今日から、少しの間だけど、一緒に働く事になった、店長の木村です、よろしくお願いします」
俺の挨拶に続き、男性スタッフも挨拶をしてきた。
『佐藤建です、よろしくお願いします、木村店長』
『佐藤勝です、お願いします、店長』
二人とも、佐藤って言うのか。
『あ~この二人は、実の兄弟なんだよ、だから名字は同じって訳、呼ぶときは、建くん、勝くんって名前で呼んだらいいよ、ね?』
本部長が二人に、それでいいよね? と問い掛けると、二人揃って頷いた。
『後、1人居るけど今日は、お休みだから、明日には会えるよ、そして、この店は、木村店長を頂点に、建くん、勝くん、もう1人の4人のスタッフで営業する事になるからね、誰かがお休みの時は、今日みたいに3人になっちゃうけどね、後、木村店長が休みの日は、田中部長か、エリアマネージャーが来る事になってるから』
『それじゃ、自己紹介も済んだし、時間取らせちゃってごめんね、開店準備に戻ってくれたらいいよ』
本部長がそう言うと、佐藤兄弟は、揃ってフロアの方へ歩いて行った。
俺は本部長の後に従い、真ん中に引かれたカーテンの向かって右側の更衣室に入ると、中には、いくつかのパイス椅子とテーブル、後はドレッサーが3台置かれていた。更衣室の隅には、ハンガーラックが数台並んで置かれていて、店で着る衣装等が掛けられていた。
ざっと更衣室を見回した後に、隣の事務室へと移動した。
事務机と椅子のセットが1つと、事務机の横に置かれたテーブルの上に、4台のモニターが並んでいた。そして、事務机の上には、仕事をする場所としては、不釣り合いな、マンガの単行本が山のように詰まれている。
何で、こんな物がここに? そう思ってると本部長から。
『このモニターは、店内のボックス席を全部写してる監視カメラの映像ね、一応、セクキャバ嬢が服を脱いだりするから、襲われたりしないように、念のためにね、後……そのマンガは、前の店長の忘れ物……基本、幹部って別にフロアに出なくてもいいし、店はスタッフ2人入れば回るしで、ヒマなのよ、だから暇潰しの為のマンガ……』
まぁ、木村店長も数日、お店に出てみたら、分かるよ。そうどこか儚げな顔をして、本部長が説明をしてくれた。
『じゃ、一応の案内も済んだし、フロアの方を見ておいでよ』
「はい」
俺は、本部長を事務室に残して、フロアの方へ向かった。
店内には12個のボックス席があり、それぞれのボックス席には、3人がゆったりと座れるぐらいの座高の低いソファーが置いてあり、ソファーの前には小さめのローテーブルが置かれてある。
各ボックスは、少し背丈の高い、レンガ積みに見える壁紙の貼られた、パーティションで区切られていて、通路側からは、中の様子は、上から覗き込む以外は、見えない造りになっている。
俺は実際に1つのボックス席の中に入り、ソファーに座ってみた。
ゆったりとくつろげるサイズをしていて、セクキャバ嬢と並んで座っても窮屈には感じないサイズだと思った。後、ソファー自体が低い事もあり、セクキャバ嬢が跨がった時も、体を密着させないと、少し座りにくくなる感じを受けた。これは、きっと、わざとこの低さにしてるんだろう。そう思った。
その後は、全てのボックス席を、回り中を覗いては確認をした。
どのボックス席も基本は同じ造りをしていた。
そして、店にあるトイレ等も確認すると、本部長が待つ事務室に戻っていった。
『今日は、俺も閉店まで居るからね、後そろそろ、セクキャバ嬢達も来るから、フロアに出てようか、木村店長の紹介も必要だしね』
そう言って、俺と本部長は、店のフロアへと移動を始めた。