新境地に向けて
この話より、第3章セクキャバ編が始まります。お楽しみ下さい。
運転席の窓を5cm程下げ、ポケットの中からタバコを取り出し口に咥わえて火を灯す。大きく煙を吸い込み、紫煙の香りと味を堪能した後に、大きく息を吐き、煙を吐き出した……
ドリンクホルダーに差してある、アルミ缶のコーラを取り、一口飲んでから、ため息をついた……
「はぁ……完全に早く来すぎたな……」
運転席のリクライニングを少しだけ倒し、背もたれに体を預けるように座り、車に付いてるデジタル時計に、目をやれば、約束していた時間より、まだ1時間近く前の時刻を示している。
俺は今、本社の入っているビルの駐車場、日射しを避けるように、ビルの影になっている場所に車を停めて、約束の時刻になるのを、待っていた。
今日は、2ヶ月間だけだが、新しい仕事場へと向かう初日だ。
逸る気持ちを抑えられずに、ユキには『遠足を楽しみにしてる子供みたいだね』と笑われるのにも構わずに、明らかに早すぎる時間に部屋を出て、明らかに早すぎる時間に、本社の入っているビルに着いてしまい、こうして、時間を潰している、真っ最中だ。
……コンコン
…………コンコン
『……木村マネージャー……木村マネージャー』
誰かにどこかで呼ばれてるいるような気がして、体を運転席のシートから起こすと、窓ガラスの向こう側に、笑顔を浮かべている、本部長の顔があった。
はっ……いつの間にか、眠ってしまったようだ。俺は慌ててシートの背もたれを起こし、窓を全開まで下ろして本部長に挨拶をする。
「おはようございます、本部長、すみません、少し時間の余裕があったので、待機していたら、いつの間にか寝てしまっていたみたいで……」
『うん、可愛い寝顔だったよ』
相変わらず本部長は、冗談が好きなようだ。俺は、自分の腕に巻かれている、ユキにプレゼントして貰った腕時計を見ると、約束の時間の10分前を指していた。本部長が起こしてくれなければ、確実に寝過ごしてしまっていただろう。
『それじゃ、中で話をしようか』
本部長は、そう声を掛け、先に事務所へと向かう。俺も慌てて、窓を閉めて、車から降り、車にカギをかけて本部長の後を追った。
事務所の中で、本部長と向かい合うように座ると、本部長が1枚の紙を、俺に差し出した。
『それ、一応読んで覚えておいて、木村マネージャーに今日から、2ヶ月間ヘルプで行って貰うお店の料金とかサービス内容とか、書いてあるから』
俺は、本部長から渡された紙に目を落とし内容を読んでいく。
・料金は一律1セット(50分)税金・サービス料込み1万円
・指名料 本指名、場内指名一律5,000円
・ドリンクはハウスボトルのみ(飲み放題)
・フードはチャームのみ(食べ放題)
・ハッスルタイム無し
・セクキャバ嬢の上半身脱ぎアリ
・上半身お触り舐めアリ
・下半身タッチNG(お尻は可)
・キスアリ(ディープ可)
・原則アフター禁止
・同伴無し
このような内容が記されいた。俺はいくつかの疑問点を、本部長に訪ねて確認を取る。
「本部長、ハッスルタイムが無いって事は、常時お触り舐めOKって事でいいんですよね?」
『うん、そう』
「ハッスルタイムが無いので、跨がりはどうなります?」
『跨がりはOK、無いとお客さん遊びにくいしね、まぁタイミングはお客さん任せだよ、着いてすぐ跨がらせてもいいし、後は慣れてなさそうなお客さんの場合は、10分ぐらい経ったら女の子の方から、声を掛けるように指導してるから』
なるほど、決まった時間のハッスルタイムでしか、女の子が跨がってくれない店よりも、お客さんが楽しく遊べる事に主軸を置いてる訳か……
『後、この店は他より少しだけ、女の子を厳選して雇ってるから、基本的に付け回しは無いから、付け回しが必要になる時は、指名が入った時と、お客さんが延長した時だけね』
付け回しが必要になる場合は、2回だけか……まぁキャバクラみたいに次から次に、変わられても、ゆっくり楽しめないから仕方ないか……
俺は、大好きな仕事の1つ、付け回しが、ほとんど必要無い事に少しだけ落胆したが、これもお客さんの為のシステムだと、納得した。
「NG行為に及んだ、お客さんに対しての処置はどうしてます? 罰金です?」
『うん、まぁ一応は罰金もあるんだけど、ほとんどが、口頭注意で、発覚した時点で退店して貰って終わりだね、まぁ女の子が上手くお客さんを嗜めて、発覚しない事の方が多いだろうけどね、実際は』
いくつかの確認の後、5分ほど紙に書かれた内容をしっかりと読み込み、本部長に告げた。
「はい、大丈夫です、覚えました」
『相変わらずの記憶力だね……』
そう言って本部長は苦笑いを浮かべた。
『そうそう、大事な事を、伝えて無かったね、木村【君】君の立場はたったの2ヶ月間だけだが、一応は【店長】として、店に入って貰うから、2ヶ月経ったら、他の店から、新しい店長とマネージャーが1人来るから、君と交代になるからね』
「はい、分かりました」
『それじゃ、少し早いけど、お店に向かおうか、男性スタッフも、着く頃には、みんな店に居て準備始めてると思うから』
本部長のその言葉を合図に、俺は立ち上がり、本部長の後ろに付いて事務所から出て、車を停めてある駐車場へと向かった。
この第3章は、第2章のように、話数が伸びる事は無いです。
この作品は、作者の実体験を元に書かれています。作者自身が作品と同じように、セクキャバにはヘルプとして、ほんの数ヶ月間しか働いて無いので、ハッキリと言えば、ネタが無いからです(笑)




